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アクティブ・レンジャー日記 [九州地区]

九州地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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出水

6件の記事があります。

2018年01月11日出水のツル羽数調査

出水 本多孝成

 出水自然保護官事務所のアクティブレンジャー、本多です。今回は、ツル羽数調査について紹介します。

 出水では市内にある鶴荘学園(旧荘中学校)と高尾野中学校の「ツルクラブ」の生徒が中心になり、二か所(荒崎・東干拓)の人工ねぐらから朝飛び立つツルの羽数調査をしています。もともとは、地元のツル保護監視員の方と荒崎地区の子供たちが同好会的に羽数調査を行っていたそうですが、1966年、旧荘中学校にツルクラブが正式に発足して以来、継続的に調査が行われるようになったそうです。調査はツルの飛来数が特に多い期間(11月から翌1月まで)に合計6回行われ、その中の最大記録数は越冬シーズンの公式羽数として公表・記録されます。およそ60年の長い歴史をもち、子供たちがインジケーター(数取器)を片手に調査を行う光景は、出水の冬の風物詩となっています。

 

▲高尾野中学校が担当する東干拓の羽数調査(左)と、鶴荘学園が担当する荒崎の羽数調査(右)

 出水には一万羽を超えるツルが飛来しますが、この膨大な数のツルたちをどのようにカウントしているのでしょうか。羽数調査の大まかな流れについて紹介します。

 羽数調査は、ツルの「日の出とともにねぐらから飛び立つ」という習性を利用して行います。出水のツルは、二か所(荒崎・東干拓)に整備された人工ねぐらにて集団で夜を過ごし、翌朝、日の出と同時にねぐらから飛び立ち、エサを求めて市内の各地に散らばって行きます。

 ツルクラブの生徒たちは、ツルが飛び立つ前(日の出前。5時半ごろ)から集合し、ねぐら付近へ移動・待機します。徐々に空が明るくなり、ツルが飛び立ち始めたら羽数調査を開始し、双眼鏡やインジケーターを使いながら「ねぐらから飛び立った数(A)」、「ねぐらに入った数(B)」、「ねぐらに残った数(C)」をカウントします。調査終了後、AからBを引き、Cを足し合わせて羽数を算出、結果発表して調査は終了となります。

▲ねぐらから飛び立つツルたち@荒崎(水が張ってあるところが人工ねぐらです)

 羽数調査はただツルを数えれば良いというわけでは無く、そこにはツルの理解や配慮ある行動が欠かせません。

 例えば、調査中はツルだけでなくカラスやカモ等、他の野鳥も飛び回ります。明け方の薄暗い中、ツルだけを正確にカウントするのは想像以上に難しく、他の野鳥との見分け方をきちんと知っておく必要があります。そのため子供たちは事前にツルの見分け方や生態を学んだり、また映像を用いた羽数調査の練習を行ったりして、本番に備えているそうです。

 また、ツルを驚かさない配慮も必要になります。ねぐらで休んでいるツルに光や音などの刺激を与えてしまうと、一斉に飛び立ってしまい、調査ができなくなってしまいます。そのため、調査中は目立たない黒のベンチコート(企業が毎年寄贈)を着用し、また私語も慎むようにしているそうです。調査結果が出水の公式記録になる...という責任もあり、現場は張り詰めた雰囲気に包まれます。

 最後に、今シーズンから新たに始まった東干拓の車両規制の取り組みを紹介します。

 荒崎の羽数調査はツル観察センター屋上より行っており、安全が確保されていますが、東干拓(高尾野中学校が担当)の調査は、信号の無い農道の脇で行っています。そのため、信号機のある国道を通らず、農道を通って近道をしようとする車両が、調査中の生徒たちの背後や、ねぐらの近くをハイビームで時速60kmほどのスピードで通り抜けることがたびたびありました。羽数調査中のこのような車両の通行によって、生徒の安全面の問題や、車のライトに驚いたツルが調査前にねぐらから飛び立ってしまい、調査不可になってしまう問題が起きていました。

▲車両通行止めポイントを数か所設置。出水自然保護官事務所も交通誘導のお手伝いのため参加しました。

 そこで、鹿児島県ツル保護会主動のもと、東干拓の車両通行規制が今シーズン三回目の調査(11/25実施)から行われるようになりました。調査中(5:30-8:00)は調査地点を含む農道の一部を通行止めにし、通行車両は迂回路を利用してもらうようにしました。すると、すべての車両が快く迂回してくださり、今シーズン三回目から六回目の調査まで、生徒たちの背後を通過する車両はゼロとなりました。今後、より安全に調査を進めて行くためにも、地元の方々の理解・協力はとても重要だと実感しました。

 今回紹介した羽数調査のように、出水ではツルに関する様々な取り組みが実施されています。出水ではどうしてもツルの飛来数やその増減ばかりに注目が集まりがちですが、数字の裏側でどのような活動が行われているのかを学んだり想像したりすると、また違った視点でツルの観察が楽しめるのではないでしょうか。

※今シーズンの調査結果はこちら

出水ナビ:http://www.izumi-navi.jp/news/detail/145

※羽数調査の過去の記録はこちら

クレインパークいずみ:http://www.city.kagoshima-izumi.lg.jp/page/page_80092.html

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2017年09月27日野鳥の宝庫・出水でバードウォッチングを始めよう!「身近な野鳥観察会」レポート

出水 本多孝成

 出水自然保護官事務所の本多です。
 今回は出水自然保護官事務所主催「身近な野鳥観察会」(9月2日実施)の様子をお伝えします。

 出水市はナベヅル・マナヅルだけではなく、それ以外にも多くの野鳥が観察できる場所として、国内外のバードウォッチャーに広く知られています。出水自然保護官事務所では、このような出水の魅力・価値を多くの人に発信するために、初心者を対象にした「身近な野鳥観察会」をクレインパーク(出水市ツル博物館)周辺にて開催しました。

 観察会では、初心者でもわかりやすいように双眼鏡の使い方や、識別のコツ、簡単な渡り鳥の種類(留鳥、冬鳥、夏鳥)について以下の資料を使って説明しました。

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▲観察会の資料
 自分が野鳥の観察をはじめた頃を思い出しながら観察のポイントを手帳サイズの小冊子にまとめました(左)。クレインパークからお借りした野鳥の下敷きは図鑑を持ち運ぶより軽くて便利でした。(右)。

 

▲(左・右)観察会の様子
 当日は澄みきった青空と涼しい風に恵まれた一日となりました。

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 野鳥観察のコツを説明後、野鳥観察に出発!!しかし、土曜日ということもあり、施設周辺の利用者が多かったため、しばらくは野鳥の姿を確認することができませんでした。「このまま野鳥が出てこなかったらどうしよう...」と、とても心配しましたが、川沿いや田んぼではサギ類をはじめ、様々な野鳥の姿を見ることができました。およそ90分の観察で15種もの野鳥を見ることができました。

 野鳥を双眼鏡やフィールドスコープを使って観察すると、肉眼で見るときよりも拡大して見ることができ、まばたきの動きやくちばしの質感など、細部まで確認することができます。このような今まで気付くことのなかった野鳥の生命力あふれる姿を見て、参加者の皆さんもとても驚いていました。

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<観察会で見られた野鳥>

 

▲(左)セグロセキレイ
 比較的よくみかける鳥ですが、実は日本固有種(※)です。海外のバードウォッチャーにとってセグロセキレイは日本で見たい野鳥の一つとなっているようです。

 ※日本固有種と言われていますが、一方でウスリー川南部と朝鮮半島では繁殖記録もあるそうです。

▲(右)カワウ(翼干し中)
 写真は翼干しをしているところです。カワウは他の野鳥と比較して羽の油が少なく濡れやすいため、こまめに翼干しをして体を乾燥させていると言われています。

 

▲(左)セイタカシギ
 セイタカシギは観察会の下見の際に確認しました。鮮やかなピンク色をした長い脚が特徴的で、種名の由来になっています。絶滅危惧Ⅱ類(環境省レッドリスト)に指定されています。

▲(右)スッポン(甲羅干し中)
 野鳥ではありませんが、スッポンの甲羅干しの様子も観察することができました。しかもかなりの大型で、昔からこの周辺に生息していたことがうかがえます。よく見ると首・脚を伸ばし、口もあけたままになっています。かなり衝撃的な絵面です。少々間抜けに見えるこの姿も、太陽光を効率よく浴びるためのスッポンなりの知恵なのかもしれません。

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 参加者へ実施したアンケートでは「白いサギにもコサギやダイサギ等、さまざまな種類がいることを初めて知った」、「ムクドリのようなよく知っている野鳥を改めて観察してみると新しい発見があり面白かった」、「フィールドスコープを使うと、まるで鳥が目の前にいるかのように大きく見え、迫力があった」等の感想を頂きました。また、中には「野鳥よりもスッポンの甲羅干しが印象に残った(可愛かった)」というユニークな感想もありました。

 クレインパークは親子連れが週末に遊びに来るような身近な施設です。このような身近な場所で多数の野鳥をみることができ、改めて出水は人と野鳥との距離が近い、魅力的な場所だと思いました。ただ、こうした出水の魅力はバードウォッチャーなどの一部の人にしか知られていません。そのため今後も定期的に観察会等を開催し、アクティブレンジャーから見た出水の魅力や価値を発信し続けていきたいと思います。

 9月に入り、野鳥の渡りが始まっており、出水では観察できる野鳥が日々変化しています。皆さんも、家の近くや外出先等で鳥を見かけたときは、ぜひ一度立ち止まって観察してみてください。「こんな場所にも鳥がいたのか!」、「今日は見たことない鳥が来ているなあ」等、日常に対する新しい発見や彩りが生まれるかもしれません。

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2017年07月03日身近な自然を知る:大軣(だいごう)小学校での生き物調べ学習

出水 本多孝成

 出水自然保護官事務所のアクティブ・レンジャー本多です。

 今回は、薩摩川内市立 大軣(だいごう)小学校の授業の一環として行われた、身近な自然の調べ学習のお手伝いに伺いました。その時の様子をお伝えします。

 大軣小学校は祁答院(けどういん)町の中心部に位置し、藺牟田池のベッコウトンボを題材にした授業を実施するなど、藺牟田池とも深い関わりを持つ学校です。

 大軣小学校では5月23日(火)に学校の近くを流れる瀬早川の生き物調べの授業(「瀬早川をリサーチ」)が四年生を対象に行われました。出水自然保護官事務所ではこの授業のお手伝いとして、子供たちと一緒に生き物の採集・解説、教室での調べ作業のお手伝いをしました。

 

▲ 生き物採集の様子。いつの間にか全身ずぶぬれになっていた男の子もいました。

 子供たちは野外での活動を楽しみにしていた様子で、我先にと川へ入り、たも網や川の中の石を返して素手などで魚やトンボ、カエル、水生昆虫、貝類の生き物を捕まえました。カエルを触るのを怖がる子供もいれば、仲間達と捕まえたものの大きさや珍しさを競い合う子供もいて、何かがタモ網に入るたびに元気の良い声が上がっていました。自然の中での生き物採集は、子供たちにとっても特別なワクワク感があるようで、皆、まるで未知のお宝を探しているかのように目をキラキラと輝かせていました。

 

▲ 生き物調査で捕まえた主な生き物たち。カワムツ、サワガニ、カワニナが多く捕れました。

 

▲ 調べ学習の様子。持ち帰った生き物と図鑑をじっくりと見比べます。

 次に、捕まえた生き物を教室へ持ち帰り、図鑑を見ながらスケッチしたり、特徴をまとめたりしました。自らの手で捕まえた生き物だからこそ好奇心も高まり、川では元気のよかった子供達が黙々と生き物調べの作業に取り組んでいました。中には大人でも識別が難しいヤゴ(トンボの幼虫)を、一生懸命図鑑とにらめっこをしながら、「コオニヤンマのヤゴだ!」と識別する子供もいました。子供達が調べた結果、カワムツ、サワガニ、カワニナなど、瀬早川はきれいな水に生息する生き物が多いことが分かり、また、水のきれいな川であることを知り子供たちはとても驚いた様子でした。

 調べ作業が終わった後、捕まえた生き物たちを元いた川へ帰して、授業は終了しました。

 

▲子供達から寄せられた感想文。一人一人、枠いっぱいに書いてくれました。

 そして後日、嬉しいことに子供たちから生き物調べの授業の感想文、写真や絵を描いて模造紙にまとめた物を頂きました。

 感想文には、「今までタニシだと思っていた貝がカワニナだと知り驚いた」や「瀬早川には様々な生き物がいることを知ることができた」との声がありました。瀬早川は、子供たちにとっては「あたりまえの自然」ですが、今回の授業をきっかけに、身近な自然の中にある面白さ・不思議さに改めて気付いてもらえたのではないでしょうか。

▲大軣小学校の四年生の皆さんとの集合写真。

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2017年05月15日藺牟田池 ベッコウトンボ頭数調査

出水 本多孝成

 出水自然保護官事務所のアクティブレンジャー、本多です。

 今回は、藺牟田池(いむたいけ)にて行われたベッコウトンボ頭数調査の様子をお伝えいたします。

 藺牟田池は薩摩川内市の東部に位置する、円形の面積約60haのカルデラ湖です。南九州地区では珍しい泥炭湿地が形成されており、また希少種であるベッコウトンボの生息・繁殖地になっています。加えて、ラムサール条約湿地や国指定天然記念物(藺牟田池泥炭形成植物群落)等に指定されており、多方面からその価値が認められている自然環境です。

※上空から撮影した藺牟田池。噴火によって形成された外輪山に囲まれています。(小園建設・前田氏撮影)

 藺牟田池では、昨年よりベッコウトンボの頭数調査が地元関係者によって行われています。地元の子供たちが中心となって、ベッコウトンボを数えながら地域の自然と触れ合う、藺牟田池ならではのユニークなイベントです。

 今年は4月22、29日(土)に二回の頭数調査が実施されました。大型連休前のこの時期には、ベッコウトンボの頭数もピークを迎えます。両日とも天候に恵まれ、絶好の「ベッコウトンボ日和」となりました。

 

※頭数調査の説明の様子(左)と調査エリアの図(右)。

 調査は、藺牟田池を14のエリア(陸地12ヶ所・水面2ヶ所)に分けて行われます。参加者は陸地のエリアを担当し、二つのルートに分かれて移動しながら、視認できたベッコウトンボをカウントしていきます。各エリアのカウント数の合計がその日のベッコウトンボの頭数になります。

 

※ベッコウトンボを数える子供たち。

 最初のエリアに到着すると、早速多数のベッコウトンボが出迎えてくれました。子供たちは我先にとカウントを始め、「○○頭みつかったよ!」という元気の良い声が聞こえてきました。一方、大人たちはカメラを取り出し、静かにベッコウトンボへと近づいていきシャッターチャンスをうかがっていました。対照的な光景が印象に残ります。

  

※オオヤマトンボの羽化(左)とウォーキングコースを散策する参加者の方々(右)

 調査を実施した2日間とも、たくさんのベッコウトンボを確認することができ、調査中は終始カウンターの音が鳴りやみませんでした。また、ベッコウトンボの他にも、ウォーキングコース沿いのツツジやオオヤマトンボの羽化シーンを観察でき、ちょっとした発見や驚きのあるイベントとなりました。

 二日間での調査結果は、4月22日の調査では合計1218頭、29日は1299頭という結果でした。昨年は100頭程しかカウントされなかったため、今季は平年と比較するとベッコウトンボの頭数が増加傾向にあるようです。

※周辺の草木にとまったベッコウトンボ。

 ところで、ベッコウトンボについて簡単に説明します。

 ベッコウトンボは体長4cm程の小さなトンボです。飛んでいる姿は「小さくて地味なトンボ」という印象ですが、近づいて観察すると、名前の由来となる「べっこう色」がはっきり見え、とても美しいトンボであることが分かります。警戒心があまり無いようで、草木にとまっているところへ接近しても、まったく動じない個体もいます。

 かつては日常的に見られたトンボだったようですが、現在では環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)に指定されており、絶滅が懸念されています。これは、幼虫(ヤゴ)の住処となる水辺と、成虫の休み場所となる草木が生い茂った環境が人間の開発行為等によって失われたことが大きな原因だと言われています。

 九州では、響灘ビオトープ(北九州市)と野依新池(中津市)そして、ここ藺牟田池がベッコウトンボの主な生息地になっており、藺牟田池は最も安定した場所だと言われています。なぜならば、藺牟田池は外輪山に囲まれた特殊な地形をしているため開発の対象になりにくく、ベッコウトンボの住処が人為的に破壊される可能性が低いからです。しかし、オオクチバスやブルーギル等の外来種による捕食や、カルデラ湖という地理的特性により、流入河川がなく、渇水によるヤゴの大量死が懸念されており、必ずしも安全というわけではありません。

 環境の変化に敏感なベッコウトンボの生息地の減少は、私たちの自然に対する意識をそのまま反映しているように思います。

 

※22日(左)・29日(右)の頭数調査の集合写真。

 藺牟田池では今回の頭数調査のようなイベントが多く開催されており、自然と人とのかかわりが深いように思います。身近な存在であるからこそ、人々の交流の場として、時には生き物の「先生」として、様々な恩恵を私たちにもたらしてくれているのだと実感します。そうした藺牟田池の自然を、後世へ残していきたいと改めて実感しました。

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2017年02月24日九州特産物リレー 出水の海苔【出水地域】

出水 本多孝成

 出水自然保護官事務所の本多です。

 今回は九州特産物リレーとして、出水の特産物である海苔(出水浅草海苔)を紹介致します。

 出水と言えば鶏肉やかんきつ類の生産が盛んなイメージが強いですが、実は知る人ぞ知る、日本最南端の海苔の産地でもあります。出水で獲れた浅草海苔はその質の良さや流通する数の少なさから高級品として知られ、皇室へ献上されたこともあるそうです。出水の浅草海苔について、約35年間、出水で農業をしながら浅草海苔の生産もされている山口さんへ話を伺ってきました。

 さて、下の写真が実際に出水で収穫された浅草海苔です。出来立ての焼き海苔を山口さんにごちそうになりました。一見、食卓で目にする海苔と何ら変わりませんが...?

 口にすると、香ばしさと磯の風味がとても豊かに感じられ、また噛むたびに雪を踏んでいるかのような「ぎゅっ」という音がします。私が今まで食べてきたどの海苔よりも美味しいと思いました。

 何故、このような美味しい海苔ができるのでしょうか。この点について山口さんへ尋ねてみたところ、出水の地理的条件と海苔の育成方法に秘密があるそうです。

 出水市は北に向かって遠浅の八代海が広がっており、冬になると北西からの冷たい風が吹くことによって海水温が低くなります。これが浅草海苔の育成に適した環境になっているそうです。また、出水では潮の満ち引きを利用した干出(かんしゅつ)という方法によって海苔を育成しています。この干出により、干潮時に海苔が海上に露出し、日の光を浴びることによって殺菌されるため、酸処理(海苔の病気を予防するために酸の液に浸す処理)をせずに育成できるそうです。このことから出水の浅草海苔は「無酸処理の海苔」と呼ばれることもあり、高級品としての裏付けにもなっています。

 スーパーマーケットに並ぶ海苔も勿論美味しいのですが、出水の海苔はその土地ならではの「自然の仕組み」を活かして育成されているからこそ、独自の風味や食感が生まれるのだと気づかされます。

 では、出水の海苔はどのようにして作られているのでしょうか。出水では10~12月の前期、1~3月の後期の二回に分けて海苔の育成・収穫が行われます。

 収穫された海苔は、まず混入したゴミが取り除かれ、洗浄されます。次に海苔をミンチ状に粉砕し、形を整えやすくします。それを薄く伸ばしながら乾燥させていくと...

 

 私たちが普段目にする形の海苔が出てきました。(左の写真)

 しかし、これで完成ではなく、ここからさらに一定以上の湿度を含むものや形の悪いものを選別していき、これをクリアした海苔を10枚1束の10束(合計100枚)にまとめて完成です。(右の写真)

 正直なところ、この過程だけを見た時は「海苔って意外と簡単に出来るんだ...」と思っていました。ところが山口さんがおっしゃるには、海苔の収穫は加工作業とはうって変わって「命がけの作業」になるそうです。出水では先に述べた通り強い北風による高波の影響で船が出せないため、作業はすべて手摘みで行っています。この時、頭の上まで襲い掛かる高波によって息ができなくなることもあるそうです。

 生産者の方々の荒波に立ち向かう度胸と、恐怖に打ち勝つ精神力には尊敬の念を抱かざるを得ません。私たちが何気なく口にしている食品には、生産者の方の努力があると想像すると、自然と感謝の気持ちがわいてくるように思います。

 ところで、山口さんへ話を伺っているうちに、海苔の生産の現場ではツルの飛来地ならではの課題に直面していることも分かってきました。

 出水では10月から翌3月にかけてツルの食害防止を目的とする給餌が毎日行われますが、この餌に誘引されたカモたちが干拓地へ集中し、海苔を含めた周辺の農作物等へ食害を及ぼしています。海苔の育成地では、防鳥ネットによる食害対策がなされていますが、それでも全収穫量の半分くらいはネットをかいくぐって侵入してくるカモ類(特にヒドリガモ)に食べられてしまいます。現場では、食害へのより効果的な対策が課題となっています。

 今回は、出水の浅草海苔に焦点を当てて、その作られ方や現場の課題を紹介してきました。高級品として知られる反面、過酷な収穫作業や、さらにはカモによる食害という課題にも直面しています。ツルをはじめとする多くの野鳥が飛来することは、出水の自然環境の豊かさを象徴する一方で、食害という負の側面をも内包しています。このことは、「野鳥と上手く折り合いをつけていきながらも、出水の豊かな自然の恩恵を享受するにはどうすれば良いか」といった、いわば人間と自然との共生の在り方を私たちに問いかけているのではないのかと、山口さんの話を通じて気づくことができました。

 八代海の荒波に鍛えられ、過酷な収穫作業を経て作られた出水の浅草海苔を、皆様も是非食べてみて下さい。

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2016年11月10日出水にツルがやってきました!

出水 本多孝成

 みなさんこんにちは!

 出水自然保護官事務所のアクティブレンジャー、本多が今の出水の様子をお伝えします。

 ここ、出水市は薩摩半島の北部に位置し、ツルの集団越冬地として毎年10月から翌年3月にかけて、合計1万羽を超えるナベヅル・マナヅルが飛来してきます。もう既にニュース等でご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、今季も無事、10月20日(木)に9羽のナベヅルが初飛来しました。また、11月1日にはツル観察センターがオープンし、出水のツルシーズンの本番を迎えたところです。

 今回は、ツルの飛来地である出水平野の様子を、簡単ではありますが紹介いたします。

ナベヅルの家族の写真 荒崎上空を舞うツルたち

※左:ナベヅルの家族(左の個体は幼鳥)

 右:上空を飛行するナベヅルたち

 出水平野で一番個体数が多いのがナベヅルです。ナベヅルは、体の灰黒色が鍋の底のススを想起させることから、「ナベ」ヅルと呼ばれるようになったそうです。現在は飛来数も増加し、出水平野のあらゆる場所でみられるようになってきました。

 左の写真のように基本的には家族単位で行動し、3,4羽程の群れの中に2羽の成鳥と1,2羽の幼鳥で家族群を構成しています。

居残りマナヅル マナヅル第一陣 

※左:東干拓にいる越夏したマナヅル

 右:今季の第一陣マナヅルたち

 ナベヅルの次に個体数の多いものがマナヅルです。マナヅルより一回りほど大きいツルです。左の写真は、昨シーズンに飛来してきたマナヅルですが、翼の一部を痛めてしまったようで、北帰行できずに1羽で越夏しました。

 東干拓の風景 特別保護地区を舞うツル※左:ツルが飛来する出水平野の風景(東干拓)

 右:特別保護地区の上空を飛ぶツルたち

 次に、出水・高尾野鳥獣保護区内(842ha)にある特別保護地区(54ha)がどのように管理されているかを紹介したいと思います。特別保護地区は出水・高尾野鳥獣保護区の東に位置する東干拓にあります。

 特別保護地区では3から10月まで稲作が行われていますが、毎年、ツル類の越冬を迎える11月より環境省がツル休遊地として農家さんから土地を借りています。また、鹿児島県ツル保護会の監視員や巡視員の方々によって毎日ツルのパトロールが行われています。

特別保護地区ネットはりつけ作業 特別保護地区ネットはりつけ作業2 

※左・右:防鳥ネットを張る作業の様子

 毎年10月になるとツル越冬の準備が始まり、特別保護区内にある休遊地に人が立ち入らないよう防鳥ネットが張られます。こうしたネットを張る作業も、地元の人たちが主体となって行っています。私もお手伝いさせて頂きましたが(左の写真)、竹で出来た格子に防鳥ネットを針金で結びつける作業が延々と続き、これを毎年やるのはかなりの労力だと思いました。

 こうした地元の方々の協力があるからこそ、ツルも安心して出水で越冬出来るのだと実感しました。

監視小屋設置 監視小屋 

※左:監視小屋設置の様子

 右:監視小屋に集まる人々

 また、ツル監視の拠点としてこの監視小屋が東干拓に設置されます。地元の方や県外から訪れるバードウォッチャー(ツル・ウォッチャー?)が集まるため、良い情報交換の場にもなっているようです。

 地元の方やバードウォッチャーのお話はとても興味深いです。例えば、飛来当初は警戒心が強く人から離れた場所で過ごしますが、越冬後期になると警戒心が次第に薄れ、人や車の近くでも採餌するという、出水で越冬するツルの特徴的な行動パターンであったり、ツルの撮影に最適な時間帯や機材であったり、様々なことを教えてくれます。図鑑には載っていない現場ならではの知識を得ることが出来、とても勉強になります。

観察センター 開所式餅まきの様子

 ※左:ツル観察センターの外観

  右:開所式の様子

 ところで、今季も11月1日にツル観察センターの開所式が催され、多くの方々で賑わいました。

ツル慰霊式の様子 オープニングセレモニーの様子

※左:ツル慰霊祭の様子

 右:オープニングセレモニーの様子

 開所式では、まずは、ケガや衰弱などで命を落としてしまったツルたちの慰霊祭が行われました。その後、ツル観察センターオープニングセレモニーが行われました。オープニングセレモニーでは出水とツルをテーマにした楽曲や、園児たちによる太鼓のパフォーマンスが披露されたほか、企業から給餌用小麦の寄付や、地元の中学生が実施しているツル羽数調査のための防寒コートが贈呈されました。式典中はツルたちの声が絶えず響き渡り、時折上空を舞う姿を見られたのが印象に残っています。天候にも恵まれ、とても気持ちの良い一日となりました。

 さて、出水では現在「万羽鶴」が見られるようになり、今後もたくさんのツルたちを目にすることができます。皆さんも是非、ツルを見に出水までお越しください。ツルの生態や今季の飛来状況については、出水市ツル博物館(クレインパークいずみ)HP(http://www.city.izumi.kagoshima.jp/cranepark/)にて公開されていますので、こちらも是非チェックしてみてください。

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