九州地域のアイコン

九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

出水市の豊かな自然環境が学習題材「子どもたちから教えてもらった大切なこと」

2023年07月31日
出水 岡本 安弘
みなさん、こんにちは。出水自然保護官事務所の岡本です。

 鹿児島県出水市は絶滅危惧種ナベヅル・マナヅルの世界有数の越冬地です。また、日本で観察することができる約650種の鳥類うち、約300種を確認できる野鳥の宝庫です。出水市では、この豊かな自然環境を題材にした自然学習授業が行われており、出水自然保護官事務所から授業への協力を行ってきています。今回、7月に携わった自然学習授業の内容をご紹介させていただきます。

 私はこれまで自然学習授業支援の経験が無く、とても新鮮で感慨深いものでした。子どもたちは豊かな自然環境を題材にして体感しているためか、鋭い観察力と柔軟な発想力、積極的な行動力が有りました。それを目の前で見ていると、はたして自分に同じことが出来るだろうかと自問させられ、体感の元である感覚と感性が鈍っている自分に気づかされました。感覚と感性は研ぎ続けていないと鈍くなることを、子どもたちから教えてもらった瞬間でした。

今回、携わった自然学習授業は、出水市立の蕨島(わらびしま)小学校と、鶴荘(かくしょう)学園です。

1.蕨島小学校 野鳥観察会

見つめる先
双眼鏡を使って一生懸命に探す子どもたち。「どこどこ?」「あ、何かいた!」「え、どこ、教えて!」「あれって何、何?」 こどもたち興味津々。その表情や声は好奇心に溢れていました。「わ~すごい」「羽がキレイ」「くちばしが黒い」「頭が茶色い」などなど歓声が上がります。
見つめる先
子どもたちの疑問はたくさん。クレインパークいずみ職員の方が、子どもたちに声を掛けたり、ひとつずつ丁寧に答えていました。
サギ類の集団営巣
木の上に種類が違うサギ類が集団で生息しています。みなさんは何羽見つけられましたか?
サギ類の集団営巣
アップの写真です。白っぽい体の一部が枝の隙間から何羽か見えます。左上には茶色っぽいゴイサギの幼鳥がいて、しゃっきっと立っているようにも見えます。
スケッチ
羽のかたちと色、くちばしのかたちと色、足のかたちと色、止まっている木の場所、飛んでる様子など、自分の感じたままを絵にします。
スケッチ
観察をくりかえしながら、ひとり一人が持っている感性で豊かに表現します。
「サギ類に会えて良かった」「初めて見れて嬉しかった」「野鳥が少なかったけどサギ類が多くて楽しかった」  中には「観察会は4回目で、季節で見れる種類は違うけど、たくさん会えてよかった」過去と比べている子どももいました。回数(経験)を重ねると、いろんな観点で見れるようになるのですね。
楽しみながら、しっかり観察し、それをスケッチに描き、判らないことが有ったら聞く。子どもたちの生き生きとした姿が、とても印象に残りました。

ご参考:蕨島小学校のホームページとインスタグラム

2.鶴荘学園 卒業論文発表会

 鶴荘学園は小学校・中学校一貫の学校で、地域の素材を生かした独自の教科「ツル科」が有ります。9年の間にツル科で学んだこと・体験したことが元となって、9年生(中学3年生に相当)の卒業論文につながっていると感じました。
 
 出水市は絶滅危惧種であるナベヅル、マナヅルの世界有数の越冬地です。越冬地がひとつの地域に集中することにより、鳥インフルエンザ感染などによる絶滅リスクの高まりや、農作物食害などの問題・課題が有ります。私自身の自戒の念も込めて、問題・課題が有ると目を背けたり先送りしがちですが、生徒たちは問題・課題を真正面から見据え、卒業論文を展開していました。9年生の思いは1~8年生に引き継がれ、より研ぎ澄まされて行くのだと感じました。
 
以下に発表の班をご紹介します。見出しは班名です。記述順は発表会順と同じとしています。添付写真の元は鶴荘学園からご提供いただいたもので、使用許可を鶴荘学園から得ています。

1.「ツル明かし隊」

 令和4年度に発生した鳥インフルエンザで、ツル類を含む野鳥感染状況分析および、養鶏場業者との情報交換を行っていました。また、鳥インフルエンザ感染防止の手指消毒を促すため、手指消毒スプレーボトルラベルを手作りしていました。
手指消毒ボトルラベル
子どもも大人も「あれっ、何が描いてあるのかな?」と目が引き付けられ、「ツルを守ろう!」の文字と、かわいらしい絵(たぶんツル)が思わずプシュとしたくなります。

2.「分散化HEROs ~ツルと永遠に共生していくために~」

 ツル分散化の候補地として山口県周南市、長崎県五島市、高知県四万十市、大分県国東市と交流を図っています。山口県周南市へは実際に行って地域の方と交流を行う際、ツル認知度アンケートQRコード入り名刺を配り、アンケート回答より周南市のツル飛来に対する受け止めと分散化認知度を数値化しています。
分散化HEROs
左写真がツル認知度アンケートQRコード入り名刺です。鶴荘学園のマスコットキャラクターで注目させ、QRコードで手軽にアンケート回答が出来るようになっています。右写真は分散化候補地との交流記録です。地図へのプロットと交流写真を添えることで、視覚的イメージでパッと理解しやすいように工夫されています。

3.「出水に来いゃ~」

 出水を盛り上げようと新たな特産品にチャレンジされています。
ケーキとPRカード
左写真は試作の特産品ケーキです。右写真は親しみやすくするためカードを作成しています。実際に食べてませんが、味は先生が保証されていました。(ボリュームは出水自然保護官事務所の2人でも多そうです)ちなみに2023年7月末日現在、特産品は試作までで販売はされていません。
出水自然保護官事務所で携わる自然学習授業は、今後もアクティブ・レンジャー日記で適時ご紹介したいと思っています。

以上