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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

あらためましてツシマヤマネコ~その3~

2023年07月02日
対馬 金子 涼太朗
 こんにちは!対馬自然保護官事務所の金子です。
前回に引き続きツシマヤマネコの特徴などを改めて皆さんにご紹介したいと思います。
今回が最終回「ツシマヤマネコの減少原因について」です。
※まだ第1弾、第2弾を見ていない方は先ずはこちらをチェック!!
前回記事リンク
あらためましてツシマヤマネコ~その1~
https://kyushu.env.go.jp/blog/page_00164.html
あらためましてツシマヤマネコ~その2~
https://kyushu.env.go.jp/blog/page_00182.html

原因1 交通事故

現在最も深刻な問題が、自動車による交通事故で、今まで(1992年~2023年3月まで)に140頭が被害に遭い、うち128頭が残念ながら死亡しています。昨年(2022年)も7件の事故が発生してしまいました。前回の「あらためましてツシマヤマネコ~その2~」でもお伝えしましたが、ツシマヤマネコの親離れの時期(秋)には若い個体が活発に動き、特に事故の多い時期です。
#過去交通事故発生件数
※過去交通事故発生件数
#月別の交通事故発生件数
※月別の交通事故発生件数
当センターでは交通事故対策として、注意喚起の看板、スピード注意の路面標示、侵入防止柵、カルバート(ヤマネコが道路下を通ることができる場所)、ネコ走りなどの設置・補修や効果の調査、ヤマネコ発見時の通報奨励、注意喚起のチラシの作成・配布、交通安全キャンペーンへの参加などをおこなっています。また、交通事故が発生してしまった場合、24時間対応で現場へ駆けつけ、保護収容しています。
#あ
※交通事故対策物。注意喚起看板、カルバート、ネコ走り

原因2 罠による錯誤捕獲

※くくりわな
対馬では増えすぎたシカやイノシシが農林業や生態系に悪影響を及ぼしており、その被害を防止するための捕獲が、主に足にかけるくくり罠によって実施されています。 ただ、ツシマヤマネコもその罠に誤ってかかってしまうことがあります。(錯誤捕獲:さくごほかく) くくりわなにツシマヤマネコがかかってしまうと、肢を傷つけてしまい、断脚や、最悪の場合衰弱して死亡してしまうケースもあります。
当センターでは、錯誤捕獲対策として、
・罠の定期的な見回り
・動作後の最小径がツシマヤマネコであれば抜け出せるであろう3cm程度とすること
を狩猟者の方々へ普及活動を実施しているとともに、万が一ツシマヤマネコが罠にかかってしまった場合、24時間対応で現場へ駆けつけ、保護収容を実施しています。

原因3 イヌ・ネコ

人が持ちこんだイヌやネコによってツシマヤマネコが被害に遭っています。野良犬、猟犬や飼い犬による咬傷によってこれまで(2023年6月)にわかっているだけで6頭のツシマヤマネコが命を落としています。
また、野良猫や飼い猫は喧嘩でツシマヤマネコを傷つける恐れがあるほか、ネコ免疫不全ウィルス(FIV)やネコ白血病ウィルス(FeLV)といった伝染病をうつしてしまう可能性があります。これらの病気は本来ツシマヤマネコがもっていないものでしたが、持ち込まれたネコから感染してしまい、過去にFIVに3頭、FeLVに1頭(擬陽性)の感染が報告されています
#あ
※初代、二代目展示個体のつしまる(左)、つつじ(右 )もFIV陽性のため野生復帰ができなかった個体です。
環境省ではイヌ・ネコ対策として、狩猟免許更新講習での狩猟犬の首輪装着・猟後の回収・適正飼育の呼びかけ、「対馬地区ネコ適正飼養推進連絡協議会」のメンバーとして、ノラネコのマイクロチップ挿入や不妊処置を実施するなど、イヌ・ネコの適正飼育を推奨しています。

原因4 環境の変化

※草を食べるシカ・イノシシ
4つ目の要因は、人口減少や、原因2で取り上げたシカ、イノシシの増加によって、ツシマヤマネコの住処や狩り場などの生活環境が変化していることです。対馬では人口が減りヤマネコが暮らす田んぼや里山を管理する人がいなくなったり、シカ、イノシシが増え、草を食べ尽くしてしまい、ヤマネコの餌となるネズミや昆虫が減ってしまったりしています。       
当センターではツシマヤマネコの住処となる、田んぼや森林を持続的に利用・活用するための活動として、「佐護ヤマネコ稲作研究会」や「舟志の森づくり推進委員会」に参加し、減農薬や化学肥料の使用を抑えることによる、生き物に配慮した米作りや、人と自然が共生できるモデル林の確立のため、植樹祭やモニタリング調査をおこなっています。
以上のような要因の対策をして、私たちはツシマヤマネコの保全活動をしています。
全3回に渡ってお届けしてきた、「あらためまして。ツシマヤマネコ」でした。最後は少し暗い話でしたが、ツシマヤマネコが実際に置かれている現状と私たちの取組を知っていただければと思います。

対馬自然保護官事務所 金子