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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

ツマアカスズメバチ防除活動紹介

2023年05月31日
対馬 千原 悠斗
皆さん、はじめまして!今年度より対馬自然保護官事務所の厳原事務室にアクティブレンジャーとして着任しました、千原と申します。
AR日記を通して、対馬の自然や生き物に関する情報や厳原事務室の活動の様子を発信していきたいと思いますので、よろしくお願い致します!

早速にはなりますが、今回は外来種であるツマアカスズメバチへの防除活動について紹介したいと思います。
 

ツマアカスズメバチとは

ツマアカスズメバチは東南アジアから中国南部、台湾などを原産とするスズメバチで、日本では2012年に対馬で初めて働き蜂が確認され、現在、国内で唯一対馬でのみ定着しています。主にミツバチなどの昆虫類を捕食するため、生態系や養蜂への影響が懸念される他、人への刺傷被害もあるため、環境省は2015年より本種を特定外来生物に指定しています。また、ツマアカスズメバチは女王バチのみが冬を越し、春になると活動をはじめる、という生態を持っています。
形態や生態に関して、今年3月のAR日記に詳しい紹介がありますので、是非そちらをご覧ください!
ツマアカスズメバチ
ツマアカスズメバチは環境適応能力や繁殖能力が高いとされており、被害の拡散や島外への分布拡大を防ぐため、様々な防除活動が行われています。
この活動の1つに「化学的防除」というものがあります。この防除手法は簡単に言えば、トラップに誘引された働き蜂にトラップ内の薬剤を巣に持ち帰ってもらい、持ち込まれた薬剤が幼虫などに分け与えられることで、巣の弱体化を図るという仕組みになります。
 
これが実現すれば、色々な面で効率的になること間違いなし! 
 
なのですが、この手法を実施するためにはいくつかの課題をクリアしなくてはいけません。
その一つに在来スズメバチへの影響があります。
トラップ内の薬剤の持ち帰りによって在来種のスズメバチにおいても、巣の弱体化が懸念されます。このため、化学的防除の実施予定地に在来種を含めたスズメバチ属がどれほど生息しているかを調査しており、先日、調査に同行しましたので、その様子を紹介したいと思います!

 

モニタリング調査

スズメバチの生息状況を知るための手法として、トラップを設置して、集まったハチの種類や数を分析するという方法を行っています。
トラップ 
用いるトラップはこちらになります。
 
ペットボトルの横面に穴を開け、乳酸飲料の原液・水・ドライイーストを混ぜたものを中に入れただけのお手軽・簡単トラップです。穴に返しがあるため、おびき寄せられた昆虫は入ることはできても逃げ出すことができない仕組みになっています。このトラップを調査地点のあちこちに設置して、調査地点の生息状況を分析します。
トラップ設置の様子
こちらは調査員の方がトラップを設置している様子です。高さとしては、胸の高さほどで、木に寄せすぎないことも重要と教えて頂きました!
なぜ、木に寄せすぎないように注意する必要があるのかというと、ペットボトルトラップが何者かに破壊されてしまうことがあるためとのことです。
一体誰が何のために、とお思いでしょう。
 

犯人は、なんとテンです!


春は餌資源も少ないので、テンもトラップ内の甘い誘引液に惹かれて、トラップを破壊して中身をすするそうです。他にもテン対策として、トラップを設置した枝が足がかりにならないよう細い枝を選ぶ、といったように徹底されているようです。
 
 
          
※テンに破壊されたトラップ                    ※犯人の夏の姿

 
 
こちらがトラップから中身を抽出したものになります。今回はトラップにかかっている昆虫は少なめですが、場合によってはペットボトルの底が真っ黒にみえるほど、トラップにかかる場合もあるそうです!
 
そして、やはりいました! 黄色い○で囲っているのが、ツマアカスズメバチです! 今年も越冬して、活動を行っているようですね。 この日の調査ではトラップの回収は20個のみでしたが、ツマアカスズメバチの女王蜂は在来スズメバチ同等もしくはそれ以上の数が確認されていました。 ツマアカスズメバチは市民の皆さんのご協力もあって、ここ数年減少傾向にありますが、今後も継続的な防除活動を行っていく必要があると、改めて実感しました。

おわりに

今回はツマアカスズメバチの防除活動について紹介しました。
夏から秋にかけて、ツマアカスズメバチは営巣を行います。このため、巣の探索及び巣の直接的な撤去が主な防除活動となります。
本種の巣は人の生活圏に近い場所での発見が比較的多いことから、人への刺傷被害も懸念されます。
 
対馬の自然環境を守るため、ツマアカスズメバチの巣を発見された際には、対馬市農林水産部自然共生課(0920-53-6111)もしくは、対馬自然保護官事務所厳原事務室(0920-57-0101)までぜひご連絡お願い致します!