外来種駆除日記その5 温水除草システム®実証実験＠瀬戸内町

外来種駆除日記その5　温水除草システム®実証実験＠瀬戸内町

2024年03月28日

奄美池上温人

奄美大島の自然を守る上で大きな課題となっている外来植物問題。対策を進めるにあたって未だ大小様々な問題を抱えています。
道路の法面における駆除作業もその一つ。法面のような急傾斜地・高所では安全に作業をするのが難しいことに加え、落石防止金網が設置されていれば外来植物を根から抜き取ることが出来ません。このような状況を打開するため奄美大島では新たな駆除手法の検討が求められています。
今回は、ケルヒャージャパン株式会社さん協力の下、奄美大島瀬戸内町にある特定外来生物ツルヒヨドリの生育地点で、同社の温水除草システム®を使って、温水によるツルヒヨドリの駆除実験を実施しました。
※「温水除草システム® 」はケルヒャーが開発し、2022年に商標を取得しています。

温水除草システムについて

このシステムは温水高圧洗浄機に除草ノズルというアクセサリーを組み合わせて、ノズルの先端から100℃に近い熱湯を出し、雑草を枯らせるものです。
熱湯がかかった部分を枯らすのは勿論のこと、地中の温度を高くすることで根や茎のタンパク質を変性させ、光合成を阻害することで植物を枯らします。
元々は公園や道路などの雑草除去を主眼とした製品ですが、外来植物の駆除にも使えるのではないかと期待が高まり、沖縄県などで実験が行われています。

今回の駆除実験

今回の駆除実験は物理的な抜き取りが困難な環境での防除手法の検討として、環境省、奄美大島自然保護協議会の共催で実施しました。協力いただいたのは、ケルヒャージャパン株式会社、芳華園(瀬戸内町)の2社。
温水除草システム®を利用した温水での駆除と、畑などで使われる除草剤を利用した駆除の2つを試験的に行いました。

実験内容

実験地は瀬戸内町内にある特定外来生物ツルヒヨドリの生育場所で、ツルヒヨドリの根が法面の落石防止金網の下に入り込んでいるため手作業での駆除が困難になっています。この生育場所の一部で周囲の草を刈り取り、実験の効果を確認しやすい実験区を用意しました。
この実験区をAとB、隣り合う2つの区画に分け、更にそれぞれを「温水処理区」、「除草剤処理区」、「無処理区」の3つに分けて実験を行いました(下図)。

経過観察とまとめ

実験の9日後に再度現場を訪れて経過を観察しました。温水処理をした場所は周囲の植物を含め、茶色く枯れており、遠くからでも植物の量が減っていることがわかります。除草剤処理をした箇所も全体的に植物の量が減ったように見えますが、生き残って緑の葉を広げる植物もちらほら見受けられます。
更に近くで見てみると、温水処理、除草剤いずれの実験区でも処理されたツルヒヨドリの葉のほとんどは枯れています。しかし、それらの株の根をたどってみると地面とつながる太い部分では生き残っているものも少なくありませんでした。一方で太い茎でも温水がしっかりかかったところは、組織が死滅し、パリパリに乾燥している箇所もあります。この段階でもう一度温水処理をすれば、より高い効果が得られそうです。

今回の実験では、いずれの方法でも1回の処理では効果的な駆除は難しいことを実感した一方で、継続的に実施していくことで効果が得られそうだと期待も高まりました。引き続きこの実験区のモニタリングを続け、効果検証と対策手法の検討を進め行きます。また今回はツルヒヨドリに対して温水処理を実施しましたが、他の外来植物対策にも活用できそうです。
奄美群島の外来植物対策に温水除草という新しい選択肢をもたらしてくれたケルヒャージャパン株式会社さん、今回の実験を随所でサポートしてくれた芳華園さん、本当にありがとうございました。また今回の実験には島内から多くの皆さんが見学に訪れてくださり、外来植物対策への関心の高さを再認識しました。今後も多くの関係機関や市民団体で連携をとりながら、一つ一つの課題に取り組み、外来植物の対策に取り組んでいきます。