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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

希少な蝶の保全に携わって

2024年12月13日
対馬 千原 悠斗
皆さん、こんにちは!対馬厳原事務室の千原です。
 
今回は、11月に参加したツシマウラボシシジミの生息状況調査についての記事になります。

ツシマウラボシシジミとは

ツシマウラボシシジミは体長1cmほどの小さな蝶で、日本では対馬にのみ生息しており、中国や台湾、インドなどに生息する種の日本固有亜種です。
名前の“ウラボシ”の由来は、翅裏面の美しい白銀の地色に映える、黒い斑模様から来ています。
翅の表面は、オスは外縁の黒帯を除いて青紫色を帯びており、メスは一様に暗褐色です。
 
生息状況調査で撮影された成虫
ツシマウラボシシジミは、対馬の独特な生物相を代表する生き物として対馬市の天然記念物に指定されていますが、もともとは対馬上島では普通に見られる決して珍しい蝶ではありませんでした。しかし、近年急増しているシカの食害によって、食草・吸蜜植物が著しく減少したことにより生息状況が悪化し、環境省によって国内希少野生動植物種(種の保存法)、絶滅危惧種ⅠA類(環境省レッドリスト2020)に指定されています。
 
対馬のシカについて詳しく記載されています↓
どんな生き物?ツシマジカ | 九州地方環境事務所 | 環境省
 
絶滅の危機に瀕した本種の保全に向けて、2017年には保護増殖事業計画が策定され、保護区内の生息状況・生息環境調査といった対馬島内での取り組み(生息域内保全)や対馬島外での本種の飼育下繁殖等の取り組み(生息域外保全)、島外で繁殖させた個体の生息域内への導入(野生復帰)を軸に、関係機関と連携した保全事業が執り行われています。

葉に潜む幼虫を探せ!

生息状況調査は1年の内に計6回程度行われており、調査実施時期の本種のライフステージに合わせて、探し方を変えながら調査を行っています。
 
11月の生息状況調査は、早くも来たる冬に備えて越冬の準備を始めた本種を探しだし、カウントしていきます。
昆虫は成虫、蛹や繭、幼虫、卵の4つの形態のうちいずれかの姿で越冬しますが、ツシマウラボシシジミは幼虫の姿で、食草の葉に身を隠しながら越冬する生態をもっています。
 
過去に、ツシマウラボシシジミの食草や卵から蛹までの成長過程について詳しく掲載されていますので、こちらも是非ご覧ください↓
対馬の小さな星【対馬】 | 九州地方環境事務所 | 環境省

 
生息状況調査は防鹿柵に囲まれた、保全区内で行われます。下層植生が維持されており、多様な植物種が生育している姿は対馬ではなかなか見ることのできない光景です。

ツシマウラボシシジミの幼虫を探すため、周囲を注意深く見ながら食草を探します。
食草は、ケヤブハギやフジカンゾウなどマメ科ヌスビトハギ属の植物です。
ぁ
        ▲ケヤブハギ
あ
        ▲フジカンゾウ
あ
        ▲ヌスビトハギ
そろそろと歩きながら保全区内の食草を見て回ると、ケヤブハギの複葉のなかで2枚の小葉が下向きに閉じ、不自然に重なっているものがありました。
これこそが、ツシマウラボシシジミの幼虫が越冬のために身を隠しているサインです。
 
 
たたまれた葉の中をそーっと見てみると小さな幼虫がじっと身を潜めていました。うっすらと色づいた桜色が可愛らしいです。
ツシマウラボシシジミは、食草の2枚の小葉を自身の出す糸によって結びつけ、葉をたたみ、そのなかで冬を越します。
 
葉っぱの中で縮こまってる幼虫
 
11月の調査では、このように食草から重なった小葉を見つけ出し、幼虫が築いた寝どころを壊さないよう慎重に手で触れ、幼虫の生息を確認していきます。
越冬幼虫を観察していると、葉の接合に使用する糸などに違いがあって興味深いです。
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葉にぎっしりと糸を張っている個体
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枯れ葉と小葉が接合している様子
数多くの食草が植栽されているなか、越冬幼虫を探し出すのはくじ引きのようなもので、地道な作業ながら幼虫を発見したときには喜びを感じます。
 
また、作業を繰り返していると、重なった小葉のなかでツシマウラボシシジミとは異なる昆虫を発見しました。
 

 
サシガメという昆虫の1種で、「カメ」と名の付くようにカメムシの仲間です。
体長はウラボシシジミの越冬幼虫と同じほどでした。
注目すべきはサシガメの食性です。多くのカメムシは草食性ですが、サシガメは肉食性のカメムシで、捕らえた獲物に口吻を刺し、体液を吸って捕食します。
 

 
越冬幼虫が不在の巣を開いてみると、越冬幼虫が身を隠していたのでしょうか、糸が付着していました。
ともに調査を行っていた有識者に聞いたところ、サシガメによって本種の幼虫が捕食されることがあるそうです。
こちらの部屋の主もサシガメによって捕食されてしまったのでしょうか。
 
生態系の第一次消費者として、天敵が存在し、捕食されるという本来の自然のサイクルではありますが、希少種の保全に取り組む私たちにとってはやっかいな存在です。

おわりに

今回の調査で確認された個体が来年の春に無事に蝶になって姿を見せてくれることを願うばかりです。絶滅の危機に瀕しているツシマウラボシシジミを未来の世代にも残していくために、私たちができることを考え、実行していきたいと改めて思いました。