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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

どんな生き物?ツシマジカ

2024年11月01日
対馬 南優妃
 こんにちは。残り少ないARとしての時間に寂しくなってきた南です。
 
 ─奥山の 紅葉踏みわけ鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき─
雄鹿が静かな山奥で、地面に積もった紅葉をかさかさと踏み分け、雌鹿を想い遠く響かせる鳴き声に、秋のもの悲しさを感じる、という有名な猿丸大夫の詩。からっと乾いた、少し冷えた風が冬を連れてくるこの季節、日本人は昔からおセンチになってしまうようです。
 
 ということで、今回は秋にちなんで「ツシマジカ」について、自動撮影カメラの画像を交えて紹介していきます。
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▲自動撮影カメラの前に鎮座する大きなオスのツシマジカ。威厳がありながら、斜陽が影を落とし、物思いに耽るような表情はまるで無頼派の文豪の佇まい。
ツシマジカ(二ホンジカ) Cervus nippon

生息場所

 対馬島内全域で見ることができ、夜間に車で走っていると、かなりの確率で遭遇します。昼間にも時々姿を現すので、ツシマヤマネコの痕跡調査で林道などを歩いていると、すぐ近くにいることがあります。
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▲10月、調査中に出会ったオスのツシマジカ。こちらをじっと見つめて、私が少し動いた瞬間にダダダッと走り去ってしまいました。

形態

 体重はオスが40~100kg、メスが20~60kg程度です。

 「二ホンジカ」は、日本では北海道から慶良間諸島まで広く分布していますが、地域により体のサイズが異なります。対馬のような島嶼部では「島嶼化」といって、大型動物は体のサイズが小さくなる傾向があり、これによりエサ資源が限定される島嶼部でも存続できるのです。(体を大きくするには多くのエサ資源を必要とする)

 また、「ベルクマンの法則」といって、恒温動物において、同種でも寒冷な地域にすむ個体ほど体のサイズが大きくなる傾向にある、という法則もあります。サイズが大きいと、体表面積の割合は小さくなるので、体温を奪われず、一定に保つことができるのです。エゾジカはとても大きいですよね。

 ツシマジカは、二ホンジカの中でも小柄です。

生活史

 秋、繁殖期を迎えると、オスは「ラットコール」といって、フィーヨーと大きな声で鳴き、メスへアピールします。冒頭の詩は、まさにラットコールの場面と思われます。そして、強いオスを中心にハーレムを形成します。
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▲ここら一帯で一番大きいオス。私が見ている3年間、ずっと自動撮影カメラに映りこんでいます。メスを連れている姿も時折映っていました。きっとモテ男なのでしょう。
 メスは約220日の妊娠期間を経て、子どもを産みます。その後、4か月ほど授乳し、秋にはまた、繁殖期を迎えます。メスは1才で子どもを産めるようになります。


▲授乳中。かなりの吸引力だったのか、母ジカは仔ジカを振り切って少し距離を取っていました。お母さんって大変ですね。
 オスに特有のツノは、春先に脱落し、また新しいツノが生えてきます。1歳で小さなツノが一本生え、以降4歳まで1年ごとに枝分かれしていき最終的に3又になります。
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▲外勤中に私が拾ってきた頭骨とツノのコレクション。綺麗なものを資料として事務所の玄関に展示しています。ツノの枝分かれから、真ん中は3才くらい、左右は4才以上であることが分かります。

食性

 草食です。

 対馬においては、ツシマジカによる「下層植生の衰退」と、「農林業への被害」が問題となっています。というのも、ツシマジカは島内に約40,000頭生息しており、対して生態系への影響が少ないとされている頭数は約3,500頭と言われています。
(ちなみに対馬の人口は現在約27,000人!シカの方がずっと多いのです。)

 下層植生の衰退については、共に絶滅危惧種IA類であるツシマヤマネコ(ネズミなどのエサ資源の減少)・ツシマウラボシシジミ(食草の減少)の生息環境の劣化を引き起こすことから、対馬の生態系を脅かす深刻な問題となっています。

 そのため、平成31年3月~「対馬二ホンジカ対策戦略会議」が設立、令和2年3月には「対馬二ホンジカ管理計画」が策定され、関係機関が連携し、効果的な対策に取り組んでいます。
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▲草を食むツシマジカ。

他にもこんなの撮れました

 シカはぬた打ちをします。体表に着いたダニや寄生虫を落すために、泥を浴びるのです。
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▲ぬた打ちの瞬間。ダイナミックに泥を浴びています。
 また、シカはジャンプ力がとても高いです。シカは常に後脚のヒザが曲がっているような状態なので、人間のように助走をつけなくとも瞬時に高く跳ねることができるのです。
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▲倒木を飛び越えるツシマジカ。でも、そこまで飛ばなくてもいい気がします。
 ちなみに、ツシマヤマネコ野生順化ステーションの順化ケージ(ツシマヤマネコの訓練を行う)の柵は、ツシマジカが飛び越えて入ってくることができない高さに作られています。

 

 ツシマテン(どんな生き物?ツシマテン)に続いて、よく自動撮影カメラで撮影されるツシマジカの紹介でした!