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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

奄美大島で外来種対策における世界的快挙達成!!

2024年09月18日
奄美 白石大晴
 こんにちは。
 奄美野生生物保護センターの白石です。
 先日、奄美大島における大きなニュースがあったのですが皆さまご存じでしょうか。
 
 それは奄美大島におけるフイリマングース(以下、マングース)根絶のニュースです。
 奄美大島では、1978年に外来生物のマングースがハブ対策として持ち込まれ、野外に定着してしまいました。定着したマングースの分布拡大に伴い、アマミノクロウサギを始め多くの在来種の分布域が縮小していきました。それらの変化を受けて、1993年から市町村による有害鳥獣捕獲が始まり、2000年から環境庁(現・環境省)による防除事業を開始。2005年には外来生物法の施行に伴ってこのマングースが特定外来生物に指定され、マングース対策のためのプロ集団「奄美マングースバスターズ(以下、バスターズ)」を結成するなど、本種の防除体制を強化しました。以後、このバスターズを中心として、林内を含め島のほぼ全域に渡って高密度にわな(3万基以上)や自動撮影カメラ(300台以上)を設置・管理するとともに、2007年からはマングース探索犬の導入、終盤の2017年には残されていた対策困難地における殺鼠剤を利用した対策を実施してきました。さらに、バスターズによる捕獲わなの混獲回避のための度重なる改良や、探索犬とハンドラーと呼ばれる訓練士の連携によるマングースの捕獲手法の開発など、あらゆる手法を駆使して防除を進めてきました。
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バスターズ集合写真(2013年)
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探索犬と山を歩くハンドラー
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自動撮影カメラによって撮影されたマングース
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マングース捕獲に使われた罠
 1978年に持ち込まれたのは約30頭程度と言われていますが、ピーク時の2000年には推定約1万頭にまで増加していたと考えられています。
 1993年以降の総捕獲頭数は累計3万2千頭余り。そして、2018年4月に捕獲された1頭を最後に捕獲数ゼロの状態が続き、以降わなや自動撮影カメラ、探索犬でのモニタリングでも生息情報は確認されていません。一方、アマミノクロウサギやアマミトゲネズミ、ケナガネズミ、アマミイシカワガエルなど在来の希少種の生息数は近年増加傾向にあります。
 
 そして、先日9月3日午前、「奄美大島におけるフイリマングース防除事業検討会(座長・石井信夫東京女子大学名誉教授)」が開催され、検討会委員より「根絶した可能性が非常に高い」と評価されました。同日午後には記者会見を行い、検討会の結果や関係機関の意見を踏まえ、ついに奄美大島におけるマングースの根絶を環境省として宣言しました。
●奄美野生生物保護センターHP(マングースについて)
https://kyushu.env.go.jp/okinawa/awcc/mongoose.html
●参考パンフレット(2020年1月発行)
r_amami_2019.pdf (env.go.jp)
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環境省自然環境局植田局長による宣言の様子
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宣言を祝う関係者ら
 ハブ駆除のために1979年にマングースが導入されてから45年(本格的な防除開始から24年)を経て成し遂げられた成果。奄美大島ほど広い島で長期間定着したマングースの根絶というのは世界初の快挙でした。
 根絶達成の背景には、貴重な生態系が破壊される危機を訴えてきた研究者や、駆除を続けてきたマングースバスターズらの20年余りにわたる地道な努力や丁寧さがありました。
 マングースの捕獲で使用するのは捕殺式の筒状のわなで、それらを尾根沿いに設置するのですが、作業用の歩道をつくったり、下草を刈って歩道を整備したり…さらに崖地を下りたり、川を上ったり。毒蛇ハブとの遭遇も日常茶飯事だったといいます。
 実は私の父も数年前までバスターズでした。当時、山に入っての仕事は楽しいが、やはりハブや滑落などの危険が常にあり、体力や集中力も必要だと聞いていました。父はハンドラーで、探索犬の引退と同時に退職しましたが、奄美の自然を守る仕事にやりがいを感じていたと振り返っています。ただ、マングースを捕獲するのは正直つらかったとも聞きました。おそらくそれはバスターズ全員が同じ気持ちだったと思います。もちろん我々も。
 奄美大島におけるマングースの根絶は、日本の外来生物対策における最も大きな成果の1つと言えますが、そもそも外来種とは人が持ち込んだ生きものであり、今回のマングースにおいても、悪いのはマングースではなくマングースを持ち込んだ人間です。人が奄美大島という島の生物相を理解しないままマングースを放してしまったという過ちにより、マングース3万2千匹を殺し、マングースが毎日食べていた希少種を含む莫大な命が失われたことは決して忘れてはなりません。
 また、そんな人間の過ちを背負って、最前線で活躍しつづけたバスターズには本当に敬意を表します。どうもありがとうございました!


 我々人間は、同じような外来種問題を繰り返さないよう、外来種被害予防3原則の「入れない」「捨てない」「拡げない」を再確認し、改めて外来種の扱いについては、十分に注意していく必要があるのです。
●参考リーフレット(外来生物の取り扱いや外来種被害予防3原則について)
r_ippan.pdf (env.go.jp)
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根絶宣言を見届けたバスターズのリーダー達
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マングース防除事業に係わった検討委員の先生方
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当日幸運にも根絶の場に立ち会えた環境省職員 (ここにいるのはごく一部で、多くの職員がマングースの防除事業に係わってきた)