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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

カスミサンショウウオの生息痕跡を求めて

2024年02月02日
出水 岡本 安弘
みなさん、こんにちは。出水自然保護官事務所の岡本です。

 昨年10月22日(日)に開催されたラムサールレンジャー講座(※1)では、カスミサンショウウオ(※2)が絶滅危惧種に指定された理由を考え、増やすために自分たちにできることとして希望をいっぱいに詰め込んだ小さな「田んぼのたけ橋」作りにチャレンジしました。完成後、ラムサールレンジャーたちは、産卵場所への行き来で手助けとなってくれることに期待を寄せていました。

 1月28日(日)に開催された講座は「カスミサンショウウオを見つけてみよう」でした。はたしてラムサールレンジャーたちはカスミサンショウウオの生息痕跡を1つでも多く見つけることができたのでしょうか? 「田んぼのたけ橋」は産卵の手助けになったのでしょうか? 講座の模様をお伝えします。
※1 ラムサールレンジャー講座
「出水市ツル博物館クレインパークいずみ」が主催し、小・中学校の生徒を対象に魅力的な体験と学習が約1年間行われています。
・湿地の大切さや、生息する多様な生き物について、主に体験活動を通して学ぶ。
・出水の湿地や生き物について理解し、交流事業等において活躍できる子どもたちを育成する。
ほかに、ツルをはじめ自然に関する観察会や公開講座、講演会などが実施されています。クレインパークいずみ|鹿児島県出水市

※2 カスミサンショウウオ
環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(VU 絶滅の危険が増大している種)に指定されています。両生綱(りょうせいこう)有尾目(ゆうびもく)。
サンショウウオ科の日本固有種で全長10センチメートル程度の小型サンショウウオです。
・12~3月ごろに湿地・田んぼの溝、浅い池や沼などに産卵する。水底には泥や落葉が堆積している場合が多く、深い池などは産卵に利用されない。
・3~4月頃にふ化し、水中で小さな水生昆虫などを食べ、6~7月頃に上陸。成体は産卵場所に近い木々が生い茂る倒木・岩石・落葉の下などで生活する。
近畿・中国・四国・九州地方に分布し、地域により形態や遺伝的性質が大きく異なり、種分化の実態を解明するうえで各地の個体群がたいへん重要です。
鹿児島県の天然記念物に指定されています。 鹿児島県県指定天然記念物一覧


ご参考)過去のアクティブ・レンジャー日記( 昨年10月22日開催のラムサール・レンジャー講座を記述) 近づく冬を感じたこと
    絶滅危惧種の情報は環境省ホームページで確認することができます。 レッドリスト 環境省
 

ラムサールレンジャー講座「カスミサンショウウオを見つけてみよう」

 カスミサンショウウオを調査・研究されている鹿児島県立博物館の上舞(かみまい)先生を講師にお迎えし講座がスタートしました。
  ※カスミサンショウウは成体・幼生・卵とも捕獲が禁止されています。
   今回の講座は鹿児島県から許可を得た上舞先生の調査協力として開催しています。
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鹿児島県立博物館の上舞先生から、カスミサンショウウオの紹介と生態について説明がありました。
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上舞先生が調査を実演して教えてくれました。卵・成体・幼生は冷たい水の中での生息に適応しているため、人の手で触ると火傷(やけど)と似たダメージを受けるそうです。決して素手で触らず、網を使うように教えていただきました。
上舞先生から説明いただいたカスミサンショウウオについて、一部を記述します。

・なぜ、カスミサンショウウオは冬期に産卵するのか? 
最大の天敵であるヘビが冬眠しているため。同じ冬期に産卵する種にニホンアカガエルがいるが、流水や水温などの違いで産卵場所をすみ分けている。

・なぜ、カスミサンショウウオは減少しているのか?
人の開発で田んぼが減ってきたこと、産卵時期の冬に田んぼの水を抜くこと、農道や側溝で産卵場所にたどり着けないことなどが減少の原因になっている。

・なぜ、出水の山あい田んぼにカスミサンショウウオは生息することができるのか?
出水では、山の湧き水が田んぼに入って来ていること、田んぼの横に溝が掘られていることでカスミサンショウウオが生息し続けられている。

 人が自然に関わり続けてきた里山は、そこに生きる生き物にとっても大事なことを上舞先生は教えてくれました。生息する固有種たちは、はるか昔から続く命のつながりの中で、土地(地質)、他種、人と共生する道を歩んできたのだと思いました。
 
 未明から冷たい雨がずっと降っていましたが、カスミサンショウウオにとっては好条件の気象です。絶滅危惧種で数が極めて少なく、活動は主に夜のため日中に会うのは難しいとのことでしたが、生息痕跡が見つかることに期待して調査を開始しました。
 
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気をつけながら、網をそーっと使う。手で触らずに行うのは難しいけど、大事に大事に網から観察カゴに移します。見ている周りも、移し終わるまで目が離せません!
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田んぼの枯れ草の下に成体がいるかもしれません。触らないよう、傷つけないよう慎重に探します。
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溝には枯れ葉などが多く有り、よーく目を凝らさないと卵を見つけられません。
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ラムサールレンジャー以外に一般公募で参加された方の姿も有りました。大人の方も集中して探していました。
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クレインパークいずみ講師の方から参加者へ、出水の貴重な生息環境などを説明されていました。
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溝には落ち葉が堆積しています。底が見えるため浅そうに感じますが、気安く踏み込んだら最後、重い落ち葉と泥で足はぬかるみ、大人でも自力で出られないぐらい深みにはまります。素足だけ抜けて怪我しないよう長靴を引っ張ってもらい脱出成功です。子どもたちは身体で里山を体験していました。(この場所に卵が無いことは確認済みです)
  今回、何とカスミサンショウウオの卵を見つけました。上舞先生は「見つけた人はすごい!」「見つかって超ラッキーです」と驚かれていました。調査・研究をされている専門の方からみても、たいへん驚きの発見でした。
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上舞先生にカスミサンショウウオの卵の特徴を教えていただきました。
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カスミサンショウウオの卵はニホンアカガエルと比べると、かたまりはかなり小さいです。落ち葉や泥に似た色をしていますし、落ち葉に隠れるように産卵されています。見つけた人に無理を言ってトレイを手に持っていただきました。「よく見つけたね」って声を掛けたら、控えめに喜んでいた姿が印象的でした。
  冷たい雨の中での講座でしたが、参加者のみなさんは熱心にカスミサンショウウオの卵を観察され、出水の山あいの田んぼがとても自然豊かであることを間近で感じられていました。更にラムサールレンジャーたちは、自分たちにできることとして作った「田んぼのたけ橋」が産卵の手助けになったかもしれないと喜んでいました。

 絶滅危惧種カスミサンショウウオの保護には農家など地域の方々のご理解とご協力が支えになっています。種と、支えている方々のことを思っていただけると嬉しいです。

今後のアクティブ・レンジャー日記でも、地域の取り組みなどをご紹介していきます。

表紙写真「カスミサンショウウオのオスと卵」

 鹿児島県立博物館の上舞先生が別場所で捕獲されたカスミサンショウウオのオスと卵の写真です。オスは互いの縄張り争いで相手の尻尾をかじるそうです。このオスの写真、かじられて小さくなっているのと、かじられた凹みの跡が有ります。かれらも自然に適するために懸命に生きています。


以上