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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

近づく冬を感じたごと

2023年11月21日
出水 岡本 安弘
 11月初めまで例年より気温が高めでした。しかし、日中の時間は日を重ねるごとに短くなってきましたし、冷たくなってきた北風に落ち葉が舞う姿を見ると季節が一歩ずつ進んでいることを感じます。今回、近づく冬を感じた2つのできごとをご紹介します。

1.ラムサール・レンジャー講座「カスミサンショウウオを増やそうプロジェクト」

みなさんはカスミサンショウウオをご存じでしょうか?
 カスミサンショウウオは両生綱(りょうせいこう)有尾目(ゆうびもく)サンショウウオ科の日本固有種で、全長10センチメートル程度の小型サンショウウオです(※1)。12~3月ごろに、湿地、田んぼの溝、浅い池や沼などに産卵します。水ぞこには泥や落葉が堆積している場合が多く、深い池などは産卵に利用されません。3~4月頃にふ化し、水中で小さな水生昆虫などを食べ、6~7月頃に上陸します。成体は、産卵場所にほど近い木々が生い茂る中の倒木や岩石の下、落葉の下などで生活します。

 私はカスミサンショウウオの名を初めて聞きました。サンショウウオ科は人の開発が入っていない山地の渓流に生息しているイメージが有ったため、田んぼや住宅に近い場所で生息していることに驚きました。しかし、そこには発想の転換が必要でした。カスミサンショウウオが人の住む場所に入ってきたのではなく、もともとカスミサンショウウオの生息場所に人が開発していったというのが実情でした。

 生息に必要な水の枯れない止水環境と、それに隣接した森林、草地などの陸上環境という条件は、人の生活近郊では丘陵地に集中しています。その様な場所は、近年もっとも人の開発が進む環境となっていて、市街地や山地開発によって著しく分断されたカスミサンショウウオは、すでに絶滅した地点が多いと考えられています。現在、生息している地点での生息状況はほとんど不明で、次の市街地化や山地開発で絶滅する恐れもあります。(※2)

 10月22日に出水市ツル博物館クレインパークいずみ主催 のラムサール・レンジャー講座(※3)が開催され、カスミサンショウウオが絶滅危惧種になった理由を考え、増やすためにできることをチャレンジしてみることになりました。

絶滅危惧種になった理由を考える「生息近くの環境を観て、感じて判ったこと」

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 クレインパークいずみ講師の方と一緒にカスミサンショウウオが生息する近くの環境がどうなっているか観察します。写真の左側はカスミサンショウウオが生息する森林です。右側は産卵場所の1つである田んぼの溝です。その間にはコンクリート製の用水路と農道が有りました。


 全長10センチメートルほどのカスミサンショウウオにとって、コンクリート製の用水路は大きな大きな穴と壁であり、底に落ちて抜け出られなく危険性や、水で流される危険性が有りました。また、農道は隠れる場所がない危険性や、車両通過時の危険性が有りました。ラムサール・レンジャーたちは、用水路と農道でカスミサンショウウオが命を落とすかもしれないと直感し、そのことが産卵をおびやかし絶滅危惧種になっている理由ではないかと考えました。

 一方で、クレインパークいずみ講師の方から、お米を作っている農家の方にとって田んぼに水を引く用水路と、田んぼを維持管理する農道が必要であることを、すぐ目の前に広がる田んぼを見ながら学習しました。また、用水路をたどりながら田んぼの水がどこから入って来て、どこに出て行くのか用水路の役割を学習しました。

 ラムサール・レンジャーたちは、カスミサンショウウオと地元農家の両方を思い、どちらも幸せになれる方法を考えました。

増やすためにできることをチャレンジ! 希望をいっぱいに詰め込んだ手作りの小さな「田んぼのたけ橋」

 ラムサール・レンジャーたちは、カスミサンショウウオがコンクリート製 用水路で命を落とす危険を回避できるよう、用水路に手作りの小さな竹の橋を、ラムサール・レンジャーひとりずつ作ることにしました。(土地を所有されている地元の方のご了解をいただいたうえで実施しています)

無事に産卵場所へ行き来できるよう願を込め、設置場所に立てる印しに名を入れます。
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金づちを用いて、釘で印しを杭に打ち付けます。
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竹の橋はどこに設置すれば一番良いのか一人ひとり考えます。橋を設置する場所に、クレインパークいずみ講師のサポート、あるいは自分で印し杭を立てます。
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カスミサンショウウオが渡りやすいように、竹の節を金づちで取り除きます。用水路を渡す長さにノコギリで竹を切ります。
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一人ひとりが考えた一番良い場所に、クレインパークいずみ講師のサポート、あるいは自分で「田んぼのたけ橋」を設置します。
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 ラムサール・レンジャーたちは、自分の眼と肌でカスミサンショウウオ生息近くの環境を観察し、考え、ノコギリ・金づち・釘の使用も乗り越え、自分たちにできることにチャレンジしていました。クレインパークいずみ講師の方と一緒に無事作業を終えて「田んぼのたけ橋」完成後、みんなには笑みがこぼれていました。

 来年1月のラムサール・レンジャー講座は「カスミサンショウウオを見つけてみよう」です。カスミサンショウウオの生息痕跡が1つでも多く見つかることに期待を寄せ、1月の講座を心待ちにしたいと思います。

カスミサンショウウオ繁殖期(12月~3月)でのお願い

 12月初めごろからカスミサンショウウオは繁殖の時期を迎えます。出水地域の山合いで田んぼが隣接する農道を通行の際はご注意をお願いします。


※1
近畿・中国・四国・九州地方に分布し、地域によって形態や遺伝的性質が大きく異なり、種分化の実態を解明するうえで各地の個体群がそれぞれたいへん重要で、鹿児島県の北部地域に生息する本種は、分布の南限地域個体群として、とても貴重です。

※2
環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類(VU 絶滅の危険が増大している種)です。鹿児島県指定の天然記念物でもあります。
絶滅危惧種について:環境省ホームページでご確認できます。レッドリスト・レッドデータブック 環境省
鹿児島県指定天然記念物について:鹿児島県ホームページでご確認できます。県指定天然記念物一覧 鹿児島県 

※3
クレインパークいずみでは、ツルをはじめ自然に関する観察会や公開講座、講演会などが実施されています。「ラムサール・レンジャー」は小学校・中学校の生徒を対象に約1年間かけて行う講座で、魅力的な体験と学習が行われ、以下を習得できる内容になっています。
・湿地の大切さや、生息する多様な生き物について、主に体験活動を通して学ぶ
・出水の湿地や生き物について理解し、交流事業等において活躍できる子どもたちを育成する
クレインパークいずみ|鹿児島県出水市

2.ツルの羽数調査 真剣勝負で挑む中学生たち!

 ツル飛来が最も多くなる秋から冬にかけて、中学生が参加するツル羽数調査が、毎年、継続的に実施されています。調査された羽数はツル保護における貴重なデータ(資料)となっています。(※4)
 今年度の実施日:11/3、11/25、12/2、12/16、1/6 全5回。(予備日11/26、12/17、1/7)
 出水市立 鶴荘学園と、同 高尾野中学校が調査を担当。

 当ツル羽数調査時は通行規制が行われます(※5)。調査前日18時から調査当日9時まで出水の荒崎地区と東干拓地区では迂回看板と仕切りパイロンおよび、場所・時間により交通監視員が配置されます。ご注意ををお願いします。

 11/2(木)に鶴荘学園の事前リハーサルが本番と同じ手順で行われました。本番ではツルを驚かせないよう大きな音を出したり、不必要な私語は禁止となります。リハーサルではひとつひとつの手順をお互いに声を掛け合いながら、不明な点が無くなるよう確認されていました。本番さながらの雰囲気に緊張感が漂い、先生や生徒の真剣な表情と動作が随所に有りました。リハーサルの模様を以下に記述します。
 羽数調査開始前と終了後の集合場所(ツル観察センター)に自転車を使用する生徒は、ルートや縦列走行など通行手順を確認していました。先生からは、夜明け前の暗い中では、速度と間隔に充分注意するように声が掛けられていました。(左の写真)
 調査地ごとに4班に分かれます。本番では夜明け前の冷え込む暗い時間帯に調査地へ移動します。素材が反射材で作られている腕章は安全確保の必須アイテムです。(右の写真) また、できる限りツルを驚かせないようにするため、本番ではブラックで統一されたお揃いのオーバーコートを着用します。
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 ツル観察センター屋上の調査ポイントではスコープを使用します。調査開始指示、羽数調査(リハーサル用)、調査終了指示を出し、手順と羽数計が間違いないか複数回確認していました。手順・羽数計の間違いは絶対にしない、という強い思いが表情や姿勢からヒシヒシと伝わって来ます。生徒たちの真剣さに、しばし見取れていました。(左の写真)
 ツルを驚かさないようにするため調査地点まで徒歩で遠回りしながら農道を移動します。集合場所(同)から直線距離で約300メートルですが、ライト使用を制限された暗い農道を夜明け前の冷え込む中、2倍以上歩くのは想像するほど簡単ではなく、片時も油断は禁物と思いました。(右の写真) 
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 田んぼでの羽数調査は防護ネット外側から行います。(左の写真) 写真の左側に青く見えるのが透過性の有る防護ネットです。
 一番遠い場所は集合場所(同)から直線距離で約600メートルです。直ぐ近くにツルがいるため、ライトや大きな音を出さないよう自転車を使い2倍以上遠回りして移動します。(右の写真。望遠レンズ使用。肉眼では人の区別が難しい)
 田んぼの調査地では鳥インフルエンザ感染拡大防止対策時にブーツカバーを着用し消毒を行います。ツルや地元を思う強い気持ちが羽数調査の行動を研ぎ澄ましていると思いました。
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※4
羽数調査記録はツル博物館クレインパークいずみのホームページでご確認をお願いします。ツル渡来情報  クレインパークいずみ
​2023年11月15日現在、出水地域には1万羽以上のツルが飛来しています!
​ご参考) 
・渡来するツルの種類、ツルの生態など各種情報 ツル情報 クレインパークいずみ
・羽数調査方法は過去のアクティブレンジャー日記をご参照ください。出水のツル羽数調査

※5
ツル羽数調査時に限らず出水市では「ツルへの配慮」「住民と来訪者との共生」「鳥インフルエンザへの防疫体制の強化」の観点から、「出水ツルの越冬地」への入域ルートの指定などを行い、より積極的な保全・管理を目指す「越冬地利用調整」が実施さています。今年度の実施期間は2023年11月1日(水)~ 2024年3月10日(日)です。詳しい内容は出水市のWebページでご確認をお願いします。令和5年度ツル越冬地利用調整について 出水ラムサールナビ


今後のアクティブレンジャー日記でも、地域の取り組みをご紹介していきたいと思っています。

出水自然保護官事務所が展示する「アクティブ・レンジャー写真展」のご案内

 九州地方環境事務所管内10カ所のアクティブ・レンジャーが撮影した写真を用いて作成したA2サイズパネル17点をどどーんと展示します。アクティブ・レンジャーだからこそ撮影できた写真の中から、アクティブ・レンジャー自ら選んで推す写真をご覧いただけます。展示期間(予定)は以下です
・2023年11月27日(月)~ 同年12月17日(日)鹿児島県出水市 ツル博物館クレインパークいずみ(1階 企画展示室右側)
・2023年12月23日(土)~ 2024年1月14日(日)同 出水市 ツル観察センター(1階から2階への階段壁および2階)
・2024年1月20日(土)~ 同年2月4日(日)同 薩摩川内市 市役所(2階 総合窓口近く)
ご意見・ご感想のすべてが活動の大きな励みになりますので、ご来場の際には展示場に用意したアンケートへの記述をお願いします。
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以上