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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

限られた会える季節と場所

2024年01月17日
出水 岡本 安弘
みなさん、こんにちは。出水自然保護官事務所の岡本です。

 多くの野生動物種・植物種に会えるのは貴重なことだと思います。究極の「会えない」は絶滅種で、生態が判っていない種や、発見されていない種は、深く知る機会が永遠に閉ざされています。次の極は絶滅危惧種で、絶滅のキワ(際)にいます。

 生息に適した環境だけでしか野生植物・動物に会えないことを、みなさんご自身の体験や見聞でご理解されていることと思います。私も、開発が進みすぎた場所ではかつて身近だった種に会うことが希になり、幾つかの種だけ多くなっている・少なくなっていることを体験や見聞で知っています。

 絶滅危惧種は数が極端に少なくなっています。絶滅から救うため会わないようにすべき種もいますし、会える場合でも生息影響が出ないようにすべき種もいます。種により法律・条例等で捕獲等が規制・禁止されています。絶滅危惧種に限らず、大きな減少要因は人の「捕獲・採集」です。「むやみにとらない」意識を心がけていただきますようお願いします。

   絶滅危惧種の情報は環境省ホームページで確認することができます。(絶滅危惧種検索ページで絶滅種も確認可能)
   レッドリスト 環境省 

 絶滅危惧種のナベヅル・マナヅルとベッコウトンボがいる地域は、いずれも日本あるいは世界的にみて貴重な生息環境となっています。今回、それぞれの秋冬の様子をお伝えします。

1.ナベヅル・マナヅル はるかなる渡りの旅「命をつなぐ土地 出水」

 出水で冬を過ごした(越冬)ツルは大きな群れを作り、天草・長崎の上空を飛んで朝鮮半島を経由し、ツルの繁殖地であるシベリアや中国東北部などへ旅だって行きます(北帰行)。そして、新しく生まれた命(幼鳥)と共に、毎年10月初旬ごろから朝鮮半島を経由し出水へ飛来してきます(渡来)。

 出水市からシベリア南東部までを地図で見ると、直線距離で2,500キロメートルほどに及んでいます。この距離は正確な繁殖地点を起点にしていませんし、地形や気象などの条件で飛行ルートは変わってきますので、実飛行距離はもっと長いと想定されます。群れを作って渡るというものの、飛行の体力と能力が不足している個体に自然は容赦なく、人には計り知ることすらできない過酷な渡りを行っているのかもしれません。
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ナベヅルです。一番左が幼鳥で、右の2羽は親鳥と思われます。出水に飛来した11月ごろに比べ頭部の全体茶色が白色に変わりつつあり、成長を感じることができます。
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マナヅルです。真ん中が幼鳥で、両側は親鳥と思われます。ナベヅルと同じ様に頭部が白色に変わりつつあり、大きさも親鳥に近づいてきていると感じます。
 飛来の時と同じ様に北帰行も一斉ではなく、1月下旬ごろから群れを作り1、2か月ほどかけて渡っていきます。出水北側の八代海(不知火海)方向に飛翔して見えなくなったものは北帰行で旅だったのかもしれません。出水の羽数は次第に少なくなり、やがて姿を見かけなくなります。ほんの僅か留まるものもいるかもしれませんが、暖かく見守っていただけると嬉しく思います。
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ナベヅルの親子と思われます。風を読み、朝日へ向かって飛翔する姿に、美しさの中にも力強さを感じました。
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12月前半のできことです。四方から数十羽ごとに集まりながら旋回上昇していく姿がありました。100羽は下回らなさそうな群れが3つか4つ有り、それぞれ上昇していく姿は圧巻でした。北には向かわず上昇途中で散開あるいは下降していました。この日は北帰行と同じような気象条件だったのかもしれないと思いました。
 ツルの寿命は野生のもので20から30年と言われています。その命の中で出水を旅立ち、また出水に戻ってくるという、はるかなる旅を続けています。北の繁殖地で、あるいは旅の途中で命尽きるツルも少なからずいると考えられ、生きるため、そして次に命をつなぐため渡り旅を続けているのだと思います。元気なツルを出水で見続けられるのは決して当たり前なことではないのかもしれません。
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確実とは言えませんが、薩摩街道 出水筋(いずみすじ)沿いの田んぼでツルを見ることもできます。地域の方々はツルに近づきすぎないよう注意されている様子でした。写真には九州新幹線の高架橋と、奥に熊本県境の矢筈岳(やはずだけ)が見えています。
  ツルと同じように旅することはできませんが、知り得た情報でイメージを膨らませ、はるかなる旅に思いを巡らせると、ツルの秘めたパワーに驚かされ、目の前のツル親子との出会いが、とてもステキに感じられます。会える季節が限られている中で実際に会うと、言葉では言い表せない不思議な感覚が沸き上がってきます。

   出水地域に渡来するツルの種類・生態などの情報は、ツル博物館クレインパークいずみホームページでご確認をお願いします。
   ツル・野鳥情報 クレインパークいずみ

2.ベッコウトンボ幼虫の適した生育環境を調べる「長い道のりを一歩ずつ 藺牟田池」

  鹿児島県 藺牟田池の西側に造成されたビオトープ(生き物の生息空間)には移動可能な水槽が設置されています。かつて、藺牟田池の環境変化でベッコウトンボが激減したことを受け、地元の市民団体や自治体(薩摩川内市)などが協力し、水槽を用いてベッコウトンボ幼虫の生育に適した水辺環境が調べられています。昨年11月26日(日)に、薩摩川内市から委託を受けた保護担当が行う、幼虫生育状況調査の模様をお伝えします。

   ベッコウトンボの詳細は環境省ホームページでご確認できます。ベッコウトンボ 環境省
   ご参考)過去のアクティブ・レンジャー日記 ベッコウトンボ 激レアな生息地「鹿児島県 藺牟田池(いむたいけ)」
 
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幼虫生育状況調査の様子。水槽を一つひとつ手作業で幼虫を傷つけないよう調査していきます。調査終了後、元の通りに青色の網で保護しました。
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2023年11月下旬における幼虫の体長は約2センチメートルでした。成虫になって元気に空を飛ぶのが待ち遠しく感じました。なお、ベッコウトンボ(卵、幼虫、成虫)を捕まえることは原則禁止されています。
 残念ながら期待していた幼虫数には届いていませんでした。ほかの地で幼虫数を増やせた水辺環境が、藺牟田池にも当てはまる訳ではありませんでした。当てはまらないからこそ生物の多種多様につながり、それこそが自然だと思いました。

 ベッコウトンボ幼虫に適した水辺環境を見つけるには更に時間と労力が必要となりましたが、保護担当の方は全く苦にされない様子で、その場で早速、課題事項と、次に試行する案を検討されていました。自然を相手にするときの心構えみたいなものを見た感じがしました。

 ベッコウトンボは1年で一生を終えます。例年4月から6月(4月下旬から5月上旬ごろがもっとも多い)成虫に会うことができます。この限られた期間に、藺牟田池に来られた方が多くのベッコウトンボと出会えたら嬉しく思います。

  


 冒頭述べたように絶滅危惧種は絶滅のキワにいますし、人知れず絶滅している可能性もゼロではありません。絶滅からの救いには、地域の方や、観察しに来られる方など、いろいろな方々のご理解・ご協力が支えになっています。種と、支えている方々のことを思っていただけると嬉しいです。

今後のアクティブ・レンジャー日記でも、地域の取り組みなどをご紹介していきます。

「出水バードフェスタ2024」のご案内

  出水市主催「出水バードフェスタ2024」では、2月3日(土)に「ツルガイド博士 出水ツルの越冬地をバスで案内」(合格率約1%の難関を突破した市内小中学生のツルガイド博士)や「探鳥・撮影体験会」など、2月4日(日)に「世界湿地の日シンポジウム」が開催されます。詳しくは以下Webページでご確認をお願いします。
   出水バードフェスタ2024
以上