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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

藺牟田池で感じたアツーイ思い! たくさんの人の体験と共感が藺牟田池の生態系を守っていく

2023年09月04日
出水 岡本 安弘
みなさん、こんにちは。出水自然保護官事務所の岡本です。

 リアルな藺牟田池の魅力を知ってもらうには実際に体験してもらうのが一番だと思います。インターネット、SNS、動画などで魅力を知ることも可能ですが、実際に見て・感じることは人間の五感をダイレクトに刺激します。一緒に刺激を受けることができれば言葉で言い表わさなくても気持ちは共感し合えると思います。たくさんの人が一緒に体験し、共感し合った藺牟田池環境保全活動をご紹介します。そこには皆さんのアツーイ思いが有りました!

1.藺牟田池の生態系を守る 「第6回 外来魚駆除釣り大会」

 藺牟田池には絶滅危惧種のベッコウトンボ(※1)をはじめとして希少な動植物が多数生息しています。しかし、一方で特定外来生物(※2)に指定されているブルーギルやブラックバスの繁殖が自然保護に関わる問題となっています。藺牟田池の貴重な生態系を守るため、楽しみながら外来魚の駆除に参加できる「第6回 藺牟田池 外来魚駆除釣り大会」(薩摩川内市主催)が8月19日(土)に開催されました。
  補足)釣り竿・餌は無料で貸し出しし、持ち込みも可。参加費は無料(ただし大会での外来魚買取りは無し)

 2020年以降は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で残念ながら実施できなかったそうです。4年ぶりの開催で皆さん待ち望まれていたのか、参加応募開始2日目で予定していた定員人数に達したそうです。当日は夏日の中、44組・144名が参加され、外来魚釣りを通じて藺牟田池の在来種と生態系の保護にご協力をいただきました。参加された皆さん、暑い中、お疲れ様でした!
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午前8時30分より受付が開始されました。大会が用意した釣り竿・餌をスタッフから受け取ります。4年ぶりの開催とあってスタッフの説明にもアツーイ思いが入ります。
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マイ釣り道具を持参される方もいました。持参される方も、借りられる方も、たくさん釣れることに期待が膨らむ瞬間です!
 開会式が終了した後、外来魚釣りのスタートです。(在来魚が釣れた場合は池にリリース)
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「釣ったよー」釣ったところを写真に撮らせていただきました。以下、写真にお顔が出ている方は、ご本人ならびに、ご家族の同意を得た上で掲載させていただいています。
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撮影者の無理なリクエストにも関わらず、ポーズを取っていただきました。ご本人の左腰辺りに釣った外来魚がいます。
 参加されている家族の会話をお聞きしていると、親から子どもへ、外来魚をたくさん釣ろう、もし在来魚を釣ったら池にリリースしてあげよう、という会話をよく耳にしました。また、自分で餌を付けてみよう、自分で魚を釣ってみよう、釣ったら針から自分で取ってみよう、といった自主的な行動を促す会話も聞こえてきました。厳しさの中に有る優しさと、自然体験を大事にされる親のアツーイ思いを感じました。
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「自分で餌を付けれるよ!」手慣れた手つきでささっと付けていました。いまだに餌付けが苦手な私は感心するばかりでした。
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「釣れたー!」釣るときと、釣り上げたすぐの外来魚は動きます。魚が動く様子を知ることも大事な体験の一つです。
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餌を付ける、外来魚を釣る、針から外してビニール袋に入れる、一連の流れを二人で行っていました。ビニール袋の中を見せてもらったところ既に10匹以上が入ってました(驚いた!)。二人は大会の目的を理解していて、釣った後の笑顔が印象的で忘れられません。
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大きい外来魚が釣れたとき、ご家族の子どもが自分の釣った外来魚を見せてくれました。「それ大きいね。すごいね!」って声掛けたら、キラキラと目を輝かせ釣った魚をグイっと前に出してアツ-く「ありがとう!!」と答えてくれました。記憶に残ったのは大きい外来魚ではなく、子どもとの会話でした。
 釣り時間が終了し、スタッフが各組ごとに計量します。(在来魚がいないかスタッフがチェック。各組の重量を一人当たりに換算し順位付け)
外来魚の種類としてブラックバスは少なく主にブルーギルでした。全組の合計重量は約5キログラムで、最長は20センチメートルのブルーギルでした。
 計量の結果、上位10組、最長を釣った組に賞品が贈呈されました。その他として飛び賞と、子どもには漏れなく参加賞が贈呈されました。

 外来魚の問題は、元をたどれば人間の行為に起因しています。生物の環境適応能力は想像を超えてすさまじく、適用を果たした生物はその土地の奥深くまで根付き、排除するのは困難を極め、多くの作業と時間を要します。外来魚の問題に「自分だけなら大丈夫」という人間の言い訳は全く通じません。自然に関わるもの、例えば地震や洪水など災害対応とも通じるものがあると思います。一番最初の行動がたいへん大事なのと、突き詰めると個々の命につながっているのだと思います。
 薩摩川内市では外来魚の再放流(リリース)を禁止し、藺牟田池に外来魚回収ボックスを2つ常設しています。釣った外来魚は回収にご協力をお願いします。なお、釣り禁止場所が有りますのでご注意をお願いします。

おまけ1

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子どもたちの立ち寄りスポットとして遊具をご紹介します。開会式前のワンショットです。子どもは「身体で遊ぶ」と「脳で学ぶ」がリアルに直結しているから身体を使った習得が大人より格段に早いのかなって考えながら、すぐ上手になっていくのを楽しく見ていました。

2.藺牟田池の環境保全に取り組む 「環境保全基本計画策定 第1回ワークショップ」

 藺牟田池の地域社会では、環境保全を担う人の減少や高齢化により、藺牟田池保護活動の衰退が課題で有ります。具体的には、外来魚や繁殖力のある植物の駆除、在来種の放流、抽水植物(ちゅうすいしょくぶつ:根は水底の土に有り、花・茎・葉など体の上部が水上に出た水生植物)等の植樹検討、ビオトープ機能強化が積極的に出来ていないことが有るそうです。また、藺牟田池来訪者数が増えない、周辺の立ち寄り場所が限定されている、滞在時間が長くないなど環境・観光資源の活用と積極的なPRが出来ていない課題も有るそうです。
 薩摩川内市では以下のキーワードを積極的に推進するため「藺牟田池環境保全基本計画」策定を検討されています。
   キーワード:環境保全活動、賢明な利用(ワイズユース)、グリーンインフラ関連施設利活用
その計画書に若い人たちの意見を反映するため、薩摩川内市主催でワークショップを行うことになりました。第1回ワークショップが8月20日(日)に開催され、藺牟田池の地元、鹿児島純心大学(薩摩川内市)、藺牟田池が大好きでたまらない方のほか、鹿児島県職員、薩摩川内市職員それぞれ若くてフレッシュなメンバーが参加されました。
 
 ワークショップを始める前に、体験を兼ねた知識習得として藺牟田池の地形や泥炭形成植物群落、植物、動物などを実際に見ながら、ガイドから特徴の説明を受けました。
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外輪山一つ一つの特徴や、北西部 低層湿原(地下水位が高く地表面に水が見える)の泥炭形成植物群落が国の天然記念物に指定されていること、水深や水質など自然環境の説明と、ランニング・トレイル・登山・キャンプ・手こぎボートなどレジャー利活用の説明を受けました。
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泥炭層や周囲の植生や、絶滅危惧種ベッコウトンボの数少ない生息地であること、トンボ類の他に蝶類やカモ類など鳥類・両生類・魚類など多様な生物が生息してことの説明を受けました。また、外来魚や繁殖力のある植物の影響が出ていることの説明を受けました。
 ワークショップでは3つのグループに分かれ、藺牟田池の豊かな自然環境を保護・保全を考慮に入れながら魅力的な活用方法を議論し、各グループ毎に発表を行いました。いずれも自然保護との両立が前提となっていました。
 発表は一人ではなく、みなさん全員が発言されていました。強調したいところは大きな声で、手振りを交え身体で表現し、全グループ発表が終わった後も議論は続く。みなさんのアツーイ思いを強く感じました。
 補足)以下の記述では、主たる提案のみを記載しています。実現有無に一切関係なく、提案そのままを記載しています。ご注意ください。
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四季ごとに楽しめる花や木の植生、地元産食材を用いた気軽な食事施設、ランニング・トレイル・登山のスタンプラリー、新たなレジャー、熱中症対策 水飲み場などを提案。
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ガラス張りテラス付きカフェ・図書館、サウナ(火を使わない)・足湯、展望デッキ・水上キャンプ、駐車場分散化(泥炭地の自然にふれられる場所)、ドローン・ショーなどを提案
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食事施設、古民家利用宿泊施設(1利用につき1家族限定)、外輪山より遠方の山越え登山ルート(宿泊とセット)、男女イベント・出会いイベントなどを提案
 若い人たちの意見は、多くの若い人たちの共感を得られると思いますし、私など全然違う世代からでも提案はとても魅力的でした。私が思っているワイズユースと自然保護を伝えたときメンバーの方から「自然を傷つけない方法にします。今日見た、すばらしい藺牟田池を他の人にも絶対知ってほしいし、体験してほしい!」って答えが返ってきました。藺牟田池の自然を同時間・同空間一緒に体験したことで、世代には関係なく、言葉にしなくても共感できるものを瞬時に得ることが出来た様に思います。
 ワークショップは年度内にあと2回実施される予定です。次回どんな共感が得られるのか、今から楽しみです。

おまけ2

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鹿児島県職員、薩摩川内市職員の中に同じプリントの服を着ている方たちがいました。「I'M IMuta.」アツーイ思いを身体中から発していました。

3.藺牟田池の生態系調査

 薩摩川内市では、藺牟田池及びその周辺の生態系調査が定期的に行い、比較分析することで過去からの環境変化を考察し、藺牟田池の環境保全計画および利活用計画に反映されています。以下の写真は、生態系調査に同行したときに撮影しました。
 調査は特別な許可のもとで行われています。藺牟田池とビオトープの池へ無断で入ることは出来ません。また、藺牟田池とその周辺に生息するトンボなど昆虫を含む動物には絶滅危惧種に指定されているものもいます。ご注意をお願いします。

 前段でご紹介した第6回 外来魚駆除釣り大会と環境保全基本計画策定 第1回ワークショップおよび、生態系調査は、いずれも薩摩川内市が主催・主体で行われています。ラムサール条約登録湿地「藺牟田池」の豊かな自然をいつもまでも残していきたいとのアツーイ思いが根底に有りました。
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ビオトープ付近の飛翔昆虫種類毎の生息数を調べ、サンプルを1つほど捕獲します。(サンプル以外はリリース)
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主に哺乳類の生息数を自動撮影カメラで調べます。自動撮影カメラを見かけた場合は触れないようご注意をお願いします。
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ビオトープ池中の動物種類毎の生息数をカゴ網で調べ、サンプルを1つほど捕獲します。(同)
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藺牟田池周辺木々の動物種類(主に昆虫類)毎の生息数をピットフォールトラップ(落とし穴)で調べ、サンプルを1つほど捕獲します。(同)

おまけ3

生態系調査同行中に撮影したトンボの写真を掲載します。
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チョウトンボ
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アオモンイトトンボ
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ベニトンボ
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キイトトンボ
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ハッチョウトンボ(メス)
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ハッチョウトンボ(オス)
藺牟田池の自然保護・保全活動は今後もアクティブ・レンジャー日記で適時ご紹介していきたいと思っています。

以上