アクティブ・レンジャー日記
サンゴ群集モニタリング調査のための事前準備 【石垣地域】
2022年05月06日みなさん、こんにちは。石垣自然保護官事務所の江川です。ゴールデンウィークが始まり、本州では夏に向けて気温がだんだんと暖かくなっている頃かと思います。こちら石垣島では晴れた日は夏のような陽気ですが、そろそろ梅雨に入る時期です。
さて、ゴールデンウィークが過ぎた頃に、八重山に生息するサンゴにとっての一大イベントがあります! みなさんは知っていますか?
その年によって前後しますが、夏の満月を迎える夜にサンゴの一斉産卵が行われます。ピンク色をした「バンドル」という卵と精子の入ったカプセルを海へ無数に放出するのが、サンゴの産卵と言われるものです。放出されたバンドルは海面ではじけて、卵と精子が結びつきサンゴの赤ちゃんが成長していきます。そのサンゴの赤ちゃんは、はじめのうちは海を漂っていますが、良い環境を見つけると海底にくっつきその場で一生を暮らすことになります。
環境省の国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターでは毎年、サンゴのモニタリング調査を行なっています。モニタリング調査では、1.サンゴが海底をどのぐらい覆っているか、2.サンゴの赤ちゃんがどのぐらい新しく定着して順調に成長しているか、3.水温の変化によって白化現象を起こしているサンゴがどのぐらいいるか、4.サンゴの産卵が行われ、どのぐらいの量の赤ちゃんがその海域に流れてきたのか...... その他、病気や捕食などによってサンゴが弱っていないかなど様々な項目を調べて、その年のサンゴの様子を記録しています。
今回わたしは、上に挙げた4.サンゴの産卵が行われ、どのぐらいの量の赤ちゃんがその海域に流れてきたのかについて調査するための準備作業に同行してきました。サンゴの産卵がはじまる前の4月下旬に「定着板」と呼ばれる取り外し可能な小さな板を海底に設置する作業をします。その後、サンゴの赤ちゃんが板に定着する9月頃に定着板を回収して赤ちゃんの数を調べます。
▲ ブロックの上に設置されている四角い板が「定着板」です。波の力で持っていかれないように重いブロックやロープを使ってしっかりと固定しています。
モニタリングの調査地点は毎年同じ場所で行われます。下の地図で示していますが、西表島と石垣島をはさむ広い海域の中の31地点が調査地点です。この海域は日本最大である「石西礁湖」と呼ばれるサンゴ礁が広がっています。
▲ モニタリング調査地点(赤丸部分は今回潜水作業を行なった地点)
なぜこの石西礁湖を毎年モニタリング調査しているかというと、1998年頃から高水温が原因とされる大規模白化現象が数年ごとに繰り返され、死滅してしまったサンゴが多く、昔と比べるとサンゴの数が激減しているからです。今回わたしが、同行して潜った海域は地図の中の丸印をした部分で、石垣島の南側や竹富島の南側にあたる4地点です。
最近では2016年に大規模白化が起こり、石西礁湖周辺でサンゴが大きなダメージを受けました。そこから5、6年経って生き残ったサンゴが産卵し、そこから新しいサンゴが成長して少しずつ回復しているのですが、場所によっては回復が遅いところもあります。(回復しつつある海域の様子は「オニヒトデ調査」の記事でご紹介しています。)
今回潜った4地点はモニタリングの結果から回復が遅いと言われている海域です。現在の海の様子を今回撮影した写真でご紹介します。まずは、比較的回復の兆しがみられる海域です。
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▲ 一見岩場のようにも見えますが、よく見てみると手のひらサイズの若いサンゴが点々とありました。
近くで見てみるとこんな感じです。
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▲ 2、3才ほどの若いサンゴ。直径10センチほどです。
続いて砂地が広がる海域です。かつてはサンゴが多く生育していたようですが、度重なる大規模白化現象が起こった結果、今は海藻の方が目立ちます。
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▲ 水深が浅く日当たりが良いので海藻がよく育っています。
この海域にも所々に若いサンゴを見つけることができました。
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▲ サンゴも海藻も光を浴びて成長します。海藻の方が伸びるのが早くサンゴの場所が日陰になってしまっているところもありました。
また別の海域でも、海藻が目立っていました。
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▲ 岩の形から昔テーブルサンゴが広がっていたと思われる場所に小さなサンゴ(黄色印)が見れますが、こちらも茶色い海藻(ラッパモク)がよく育っています。
このように少しずつではありますが、新しく定着するようになった若いサンゴをそれぞれの海域で確認することができました。海藻が目立つ場所ではサンゴの生育が心配ですが、今後も見守って行きたいと思います。
2022年のサンゴの産卵時期は5月の中旬頃と予想されています。今年はどれぐらいのサンゴの赤ちゃんが新たに加入してくるのか調査結果が楽しみです。