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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

「ロードキル根絶宣言」、いつ?

2024年12月13日
奄美 糸井朝飛
うがみんしょ~らん!(こんにちは)
奄美野生生物保護センターの糸井です。

 環境省奄美野生生物保護センターでは、毎年アマミノクロウサギの活動が活発になり交通事故がより多く発生する秋から冬にかけて、アマミノクロウサギ交通事故防止キャンペーンを実施しています。今回は今年実施したキャンペーンと、奄美大島や徳之島でこれから運転する人に気を付けてもらいたいことについて紹介したいと思います。

アマミノクロウサギの交通事故はなぜ増加しているのか

 奄美大島でのアマミノクロウサギの交通事故件数は、2023年は過去最多の147件でした。今年2024年は11月末時点で105件とやや減っていますが、まだまだ交通事故件数が高い水準にあります。
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奄美大島におけるアマミノクロウサギの交通事故件数の推移(2024年11月末まで) ※交通事故件数は年ごとの集計を表しています。今後の解剖によって数値が変更になる可能性があります。
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交通事故にあったアマミノクロウサギ(県道79号線)
 アマミノクロウサギの交通事故が多発している原因のひとつとして、個体数が急激に回復し、車と接する頻度が高くなったことがあげられます。奄美大島におけるアマミノクロウサギ推定個体数は、2003年は約2000~4800個体でしたが、2021年度に行なった個体数推定の調査では、10,024~34,427個体(中央値19,558個体)生息していると推定されました(詳細はこちら)。これは、外来種であるフィリマングースの根絶や森林の回復、ノネコ対策の結果と考えられています。また、生息域も拡大し、数年前だとアマミノクロウサギが見られなかった場所でも見られるようになってきました。特に、国道や県道など、生活道路での交通事故が多く発生しています。また、秋から冬に交通事故が多発する理由としては、この時期は日が暮れるのが早くなるため、アマミノクロウサギの活動時間と、島の人の通勤時間が重なってしまうのが一つの要因だと考えられています。
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月別アマミノクロウサギ交通事故発生件数(2000年1月~2023年12月の月別累計件数)

アマミノクロウサギ交通事故防止キャンペーンとは・・・

 「アマミノクロウサギ交通事故防止キャンペーン」では、年々増加する交通事故を少しでも減らすために、イベントやチラシ配り、ラジオでの広報などを通して野生動物との交通事故に注意した運転を呼びかけています。今年は『「ロードキル根絶宣言」、いつ?』をキャッチコピーに、ドライバーに直接注意喚起をするための企画展示やガソリンスタンドでのチラシ配りなどを、行政機関・警察署・民間団体のご協力のもと、普及啓発イベントを行いました。
 今年は配布物としてパンフレットを新しく作成しました。交通事故多発地点を最新にし、夜間運転時に注意するポイントや夜の生き物の見え方を視覚的に感じてもらえるようなパンフレットにしました。パンフレットは毎年、奄美大島内の約100カ所の店舗や公共機関に配布しています。みなさんも来島された際は是非手に取って見てください。
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パンフレット(表)
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パンフレット(裏)
 ドライバーさんに直接注意喚起をするための企画展示では、奄美大島世界遺産センターで「あまみのいきもの注意マップ」と「夜道の生き物見え方展示」を実施しました。「あまみのいきもの注意マップ」では、運転中に野生動物が飛び出してきて危ないと感じた場所にシールを貼ってもらい、来館者の皆さんの協力で注意マップを作りました。写真の左が注意マップの結果、右が奄美野生生物保護センターで毎月更新しているアマミノクロウサギ交通事故発生地点マップですが、結果を見ると、実際に事故が多発している区間にシールが多く貼られていた印象です。
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あまみのいきもの注意マップ
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交通事故発生地点(2024年1月~11月まで)
 「夜道の生き物見え方展示」では、夜の道路の写真の中に生き物がどこにいるかをクイズ形式で紹介しました。野生動物は飛び出してくるだけではなく、道路の真ん中や路肩や法面、白線の上などさまざまな場所にいることがあります。普段の運転でどこに注意したらいいか視覚的に実感できるようなクイズにしました。これは展示で使用した写真です。皆さんも挑戦してみてください。答えは最後に載せています。
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クイズ1
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クイズ2
 運転手への直接的な呼びかけとしては、奄美警察署の「秋の全国交通安全運動」と合同でのチラシ配りや島内のガソリンスタンド(4店舗)でのチラシ配りを行いました。チラシ配りには、世界自然遺産推進共同体に参画している企業の皆様にもご協力いただきました。直接ドライバーに普及啓発を行えたので、このイベントをきっかけに生き物の交通事故について興味を持って夜間の運転に少しでも注意していただければなと思います。
また例年通り、自治体やラジオ局の協力のもと、コミュニティラジオや防災無線での呼びかけも行いました。
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チラシ配りの様子
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呼びかけの様子

運転手はどう気をつけたらいいのか

 さて、ここまでアマミノクロウサギ交通事故防止キャンペーンの取組みについて紹介してきましたが、実際夜間の運転をどう気をつけたらいいのか、私が半年間奄美大島に住んで考えたポイントを紹介します。

①日が暮れたら早めにハイビームを点灯しましょう。

 アマミノクロウサギは名前の通り体色が黒いため、夜間だと道路にいても気づきにくいです。埼玉県警のHPによると、黒い色の服装だと運転手からの視認距離が短いと指摘されています。また、車のライトの照射距離は、ハイビームだと約100m、ロービームだと約40mといわれています。ロービームのままだと、例えば時速60kmで走行中にアマミノクロウサギを発見して急ブレーキを踏んでも、時速60kmの停止距離は約44mとされているので、視認しても止まれず衝突してしまいます。なので、早めにハイビームを点灯することで、早くアマミノクロウサギや生き物を発見し、衝突しないよう安全に回避することができると考えられます。

出典:埼玉県警(ハイビームの適正・効果的な使用で夜間の交通事故防止 - 埼玉県警察
出典:JAF(走行中の適切な車間距離は? | JAF クルマ何でも質問箱

②速度を落としましょう。

 ITF(国際交通フォーラム)によると、車の速度が増大すると運転者の視野は狭くなるそうです。速度を落とし、視野が広がることで、路肩にいる生き物を発見しやすくなります。私が奄美大島を運転していて実際にアマミノクロウサギやリュウキュウイノシシ、ネコが急に道路に飛び出してきたことがありました。その時は時速30kmで走行しており、路肩にいるのを発見できたため、飛び出してきてもブレーキが間に合いました。
 また、路上にいるアマミノクロウサギや生き物が見つけやすくなるので、じっくり観察することができます。路肩の斜面やガードレールの下、白線の上にいることが多いのでこれをきっかけに探してみるのはいかがでしょうか。
出典:ITF(Speed Management | ITF

まとめ

 奄美大島や徳之島で夜間の運転する際は、早めにハイビームを点灯しスピードを落とすことで、視野が広がり、アマミノクロウサギなど生き物を早めに発見することができ、安全に回避することができると思います。私が実践していることとして、生き物を発見した時点でフットブレーキに足をかけています。こうすることによって、急に飛び出してきてもすぐブレーキを踏むことができます。他にも、夜道をゆっくり走っていると後続車に追いつかれることがありますが、焦ってスピードを出すのではなく安全に停車できる場所(路側帯や車道外側線等)で道を譲るようにしています。生き物が飛び出してきて急ブレーキを踏んだ場合に後続車に追突されるリスクを避けられるからです。
 また、事故が多発している区間では特に生き物に注意して運転しています。環境省や鹿児島県、各市町村では、交通事故が発生している場所に道路標識や道路看板を設置しているので皆様も奄美大島や徳之島を運転していてこの看板を見かけたら特に生き物に気をつけてください。
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道路標識
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道路看板
 マングースの根絶や森林の回復等に伴ってアマミノクロウサギの生息数や生息範囲も回復してきている今、ドライバーさんひとりひとりの注意がとても大切になってきています。アマミノクロウサギ交通事故防止キャンペーンやこのAR日記を通して少しでも多くの方々に安全運転への協力を呼びかけられたらなと思っています。
 今回のアマミノクロウサギ交通事故防止キャンペーンを行う上で、イベントやラジオ、チラシ配布などさまざまな場面で沢山の方々にご協力いただきました。おかげさまで多くの方々に注意を呼びかけることができたかと思います。キャンペーンにご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました!

クイズの答え!

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クイズ1
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クイズ2