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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

対馬に生きる

2023年08月08日
対馬 千原 悠斗
対馬厳原事務室の千原です。
 
初めての対馬の夏。
暑がりの私には、梅雨入り以前の時点で既に耐えがたく、梅雨を明けてからの猛暑に毎日のようにひいひいと言っております。
「対馬の夏は涼しいよ」なんて皆さん言いますが、詭弁でした。
 
ただ、そんな私にも夏ならではの楽しみがあります。


 

それは、生物調査です!


夏は生き物、なかでも昆虫が活発になる時期ですね。
私自身、素人に産毛が生えた程度の知識量ですが、それでも対馬に来たからには出会いたい昆虫がたくさんいます。
 
対馬は島嶼地域であることや複雑な島の成り立ちが由来し、固有種固有亜種、日本では対馬にしか分布しない大陸由来の生き物など、本土では見ることのできない生き物が多数生息している大変魅力的な環境なんです。
それは昆虫に限らず、哺乳類、両生類など他の分類群においても然りです。
 
今回はそのような対馬の魅力を発信すべく、対馬の代表的な生き物をいくつか紹介していきたいと思います。
 
 

対馬の生物


まず、紹介するのがこちらです。



頭部・前胸部のメタリックな赤みや腹部の縁を飾る煌びやかなラインが大変美しいですね。
 
この昆虫はツシマカブリモドキ Damaster fruhstorferi といって、名前に「ツシマ」とつくように対馬固有の生き物です。
マイマイカブリという本土に生息するオサムシ科の昆虫の仲間で、写真のように地べたを歩き回り、食べ物を探します。
 
カブリモドキは対馬に来る以前より一目見たいと考えていた憧れの昆虫で、山道を車で回ったり、直接林道を歩いたり、プラスチックコップなどを地面に埋め込む、落とし穴式のトラップ(ピットフォールトラップ)を設置したりと様々なアプローチを行ってきました。
道中の景色は楽しめず、下ばかり注視するあまり蜘蛛の巣に顔面を覆われたり、頼みの綱であるトラップは何者かに破壊されたり(恐らくツシマテンかカラス)と苦労することも多かったのですが、、
 
▲予期せぬ遭遇のツシマカブリモドキ
そんな活動が報われてか、念願のカブリモドキに出会うことができました!

この日は職員とツシマヒラタクワガタ探しに出ていたのですが、なかなか採取できず、そろそろお開きにしようとした矢先のことでした。
 

棚からぼた餅。
 
予期せぬ出会いとはなりましたが、クワガタの空振りのことなどは微塵も忘れ、初めて見るツシマカブリモドキの美しい構造色に大興奮でした。
やはり「物欲センサー」は実在するのかも知れません。
 



続いて紹介するのは、「ナメクジ」です!




ナメクジといっても、皆さんがよく見かけるナメクジとなんだか様子が違いませんか?
普段家の庭などで見かけるナメクジとは異なって、オレンジのような色味を帯びていますね。

このナメクジはツシマナメクジ Meghimatium sp.といって、こちらも対馬固有の生き物になります!

私は愛情を持って、彼らを「明太子」と呼んでいます。
 
▲10cmは優に超える個体
この個体は厳原事務室のヤマネコ飼育設備内で発見したのですが、初めて見るツシマナメクジの大きさと色味に当初はナメクジだと気づかないほどでした。
あまりの衝撃的ビジュアルに、比較対象と共に撮影するのを忘れておりましたが、こちらの写真を見ていただくと、この個体がどれほど大きいのかが伝わるのではないでしょうか?
 
コンクリート上や木面などで比較的容易に見つけることができますので、皆さんもぜひ探してみてください!



続いて紹介するのは、こちらです。



サイズは小さいですが、頭部の反り立つ角やごつごつとした前胸部が格好良いですね!
 
この昆虫はヒメダイコクコガネ Copris tripartitus という日本では対馬にのみ生息する大陸由来の昆虫です。
カブトムシを小さくしたような見た目が大変魅力的な昆虫ですが、ヒメダイコクコガネは形態以外にも興味深い特徴を持っています。
 
それは彼らの食性です。
 
ヒメダイコクコガネは動物の糞を食べて生活しています。特にシカ糞を好むそうです。
 
いわゆる糞虫というものですね。
本土にも生息する糞虫で代表的なものとしてはセンチコガネやオオセンチコガネが挙げられると思います。
 
香ばしい糞に吸い寄せられ、それを頬張るという食性は少々受け入れがたいものですが、ビジュアルは良いというなんとも憎みきれないやつ。
 
見た目や食性とのギャップ、日本では対馬だけ!という部分に惹かれ、既に興味を持たれた方も多くいらっしゃると思いますが、体に雑菌などが付着していることも考えられますので、触る場合はくれぐれも自己判断でお願いします。
 

続いてが最後になります。


厚みのあるボディにお腹の黄緑色のラインが映える、このバッタは ツシマフトギス Paratlanticus tsushimensisといい、お察しの通り対馬固有種です。
 
ツシマフトギスはキリギリス科のバッタで、翅が極端に小さく、飛ぶことができないため、地面を歩行することや後脚で跳ねることで移動・逃避します。
 
▲退化した翅により容易に捕まったツシマフトギス
赤い○で囲んでいる部分を見るとわかるように、申し訳程度の羽がついていますね。
 
近づいても飛んで逃げられるということはないため、捕まえやすいバッタにはなりますが、顎はかなり強靱で、咬まれると出血まではいかないものの、割と本気で痛いです。
触れあう際には十分に注意してくださいね。
 
フトギスは草むらや山道などでよく見かけますのでこちらもぜひ探してみてください!




 

島嶼対馬の魅力

今回は対馬の生物を4種紹介して参りました。
何か興味を引かれる生き物はいましたでしょうか?
 
対馬は過去に大陸と日本列島を結ぶ陸橋であったことから、大陸から渡り、対馬に定着した大陸系の生き物や島嶼故に独自に発展した固有種固有亜種が多数生息しています。


また、対馬は皆さんのご想像の通り、自然環境が大変豊かなところで、土地の9割が森林というほどです。
そんな豊かな自然環境があって、先述したような対馬特有の生態系が今もなお築かれています。

 
この投稿で対馬の自然環境や生き物に興味を持ってもらえたら、嬉しいです!