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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

「嵯峨ノ島フィールドワークとシンポジウム」が開催されました!!

2025年12月05日
五島 片山 美希
こんにちは!
五島自然保護官事務所の片山です。
 
先日、西海国立公園指定70周年を記念して、嵯峨島や鬼岳周辺でのフィールドワークとシンポジウムが開催されました。
(主催:五島里海里山協議会・五島自然塾・五島市・五島列島ジオパーク推進協議会/後援:環境省九州地方環境事務所)
五島自然保護官事務所がある福江島の西部にある貝津港(事務所から車で40分程度)から船をおよそ13分走らせると嵯峨島に到着します。
島全体が国立公園になっている嵯峨島は、南北2つの火山によってできたといわれる島ですが、詳しい噴火年代などはいまだにわかっておらず、謎に包まれた島でもあります。

嵯峨島フィールドワーク

嵯峨島南西海岸にある女岳の火山海食崖は、島南部を形作る女岳の西側半分が東シナ海の荒波により中心部まで浸食された結果できた断崖で、火山の内部構造を観察することができます。
嵯峨島北西部にも火山海食崖がひろがっており、これらの「嵯峨島火山海食崖」は火山の断面を明確に観察できる貴重な地学的資料ということもあり、昭和34年に長崎県の天然記念物に指定されています。
今回は九州大学の下司先生の解説とともに、嵯峨島を船で周遊しました。
 
 
 
そして、千畳敷では下司先生の学生の方が講師となり、千畳敷の成り立ちや噴火口があった方向の推測方法などについての解説もありました。
 
 
 
千畳敷を歩いていると、ちらほら地面に埋もれているような形をした岩石がありました。
このような岩石は火山の噴火に伴い噴出された岩石であり、複数箇所においてこのような岩石の飛来した方向を推定することで、当時の噴火口のおおよその位置がわかるようで、その調査の結果、千畳敷で見られたこれらの岩石の飛来方向(噴火口)は現在の男岳頂上付近であるということがわかったそうです。

知られざる五島の自然を探る~嵯峨島火山を中心に~(シンポジウム)

「開会挨拶」 環境省九州地方環境事務所 番匠所長

西海国立公園の指定にあたっては、長崎県や地域の方々に国立公園指定の運動をしていただき、この国立公園が誕生しました。昨年度福江島では地域の方の取り組みにより2箇所の自然共生サイトが登録されました。
国立公園の景観、さらには自然共生サイトのような活動で守られる自然、またその自然に根ざした文化等を含め、地方を支えるような資源となればいいなと思います。
西海国立公園は今年指定70周年を迎え、引き続きこの国立公園が地域の方から愛されるよう、環境省も一緒になって国立公園の取り組みを進めていきたいと考えているという話がありました。

「新しくわかった五島の植物について」 長崎大学名誉教授 中西先生

一部の植物の北限や南限でもある五島列島は、固有種も複数確認されていることが特徴です。
最近では気候変動に伴い、グンバイヒルガオなど南方系の植物が越冬・定着や分布を拡大するようになってきているそうです。
今後も気候変動が進めば、見られる植物等も変化していくことが想定され、生態系にどういう影響があるのか考えさせられました。

「嵯峨島の火山の特徴~マグマと海が作った火山島~」九州大学 下司先生

嵯峨島の噴火(男岳と女岳)は浅い海底からはじまったと考えられており、初期にはマグマと海水が接触して激しいマグマ水蒸気爆発を起こし、その時の噴出物が今の千畳敷を形作る凝灰岩層を形成しました。
噴火の後半には、マグマ水蒸気爆発をしなくなった(海水が噴火口周辺に侵入しなくなった)ため、山頂部付近にスコリア丘が形成されました。
嵯峨島の一部は西海国立公園五島列島地域で唯一特別保護地区に指定されているため、西海国立公園としても重要度の高い地域になりますが、今回のシンポジウムで火山が中心部まで浸食されて噴火口の断面が見える場所であるなど、その貴重さや重要さを改めて認識しました。

「福江火山群の成り立ちとマグマのはなし」福岡大学 三好先生

火山の石に秘められた情報を抽出する方法の一つに、岩石の化学組成を調べる方法があるそうです。
その一つの方法として、まずは岩石を機械で粉末化し、粉末になった岩石を溶かして冷やすとガラスのようなものができるそうです。そのガラスにX線を照射し分析することで各元素の含有量を算出していきます。
その化学組成からマグマの生成深度などを予測していくそうです。
今後、嵯峨島でいつ頃噴火が起こったのかを解明するために年代測定などの調査が進められるそうで、今までわからなかったことが今後解明されていくことにワクワクしました。

「五島の自然を守り活かす仕組みの進化―国立公園、ジオパーク、自然共生サイト」 九州大学 清野先生

五島列島の福江島では、1955年に西海国立公園に指定されてから様々な歩みがありました。
「五島八朔鼻の海岸植物」は2013年に長崎県の天然記念物に指定され、日本遺産(2015年)や世界文化遺産(2018年)、ジオパーク(2022年)や自然共生サイト(2024年)などへの登録を経て、現在に至ります。
五島は自然や歴史と文化、そしてそこで暮らす方々が自然と共に生きてきた、その営みが今でも残っている貴重なところです。
過疎化が進んでいるなかではありますが、五島はとても素晴らしいポテンシャルを秘めているとお話をいただきました。

最後に…

今回の西海国立公園指定70周年記念シンポジウムでは、今後指定80年、100年に向けたお話もあり、大学の先生方や環境省九州地方環境事務所長、地域の方の熱意等を共有できたと思います。
みなさまもぜひ、素晴らしいポテンシャルを秘めている五島列島に一度訪れてみてはいかがですか?