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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

全身に刺激フル! 出水市 高尾野川「ウナギの学校」

2023年08月23日
出水 岡本 安弘
みなさん、こんにちは。出水自然保護官事務所の岡本です。

 出水市の高尾野川(たかおのがわ)はニホンウナギが戻ってくる川です。高尾野川は出水市南側の紫尾山(しびさん 標高1,067m)に発し、野田川などを合わせて北側の八代海(不知火海)に注いでいます。幹川の延べ長さは約21キロメートルで、上流は渓流、中・下流は扇状地が形成されています。野田川合流点からの下流には干拓地が広がり、ナベヅル・マナヅル世界有数の越冬地には毎年1万羽を超えるツル類が飛来しています。今回、7/30(日)に開催された自然学習講座「ウナギの学校」を通じ、自然豊かな高尾野川をいつまでも残していく地域の取り組みをご紹介します。

ニホンウナギ 海と川をめぐる超越ダイナミックな一生

 日本人に馴染みの深いウナギですが、みなさんはウナギについてどれくらいご存じでしょうか?
ウナギは、ウナギ目ウナギ科ウナギ属に属する魚です。ウナギの種類は世界に19種類いて、日本にはニホンウナギとオオウナギの2種類が生息しています。広く食べられているのはニホンウナギです。

 ニホンウナギは日本の南、遠く2000キロを超えて離れたマリアナ諸島周辺海域が産卵場所の一つと考えられ、そこから黒潮(日本海流)などの海流に乗って数千キロメートルの旅(回遊)し、日本近海まで来ていると考えられています。受精卵からふ化した幼生はレプトセファルス(体長数十ミリメートル)と呼ばれ、日本の河口部に達するころにはシラスウナギ(体長約5~6センチメートル)と呼ばれる稚魚になります。そのあと河川を遡上し、中・下流域、湖沼、内湾の浅域に生息します。夜行性で河岸の石垣の間、土手の穴、石の下などに潜み、エビやカニ、貝、昆虫など幅広い食性(肉食)を持っています。成長した状態を銀(ぎん)ウナギと呼び、河川の遡上から4~15年ほどで成熟します。成熟後、産卵のためマリアナ諸島周辺海域に向かい、卵を産み、一生を終えます。

 ニホンウナギは数千キロメートル、十年を超える海と川をめぐる超越ダイナミックな一生をおくります。日本人にはとても馴染みのある魚ですが、遠く離れたマリアナ諸島周辺海域へ向かうルートや、産卵の様子(3000メートルを超える深海で産卵するとも言われています)など、いまだ生態はわからないことが多く、謎に包まれた魚です。(※1)

出水市ツル博物館クレインパークいずみ(主催)、高尾野川をきれいにする会(共催)「ウナギの学校」

 高尾野川ではニホンウナギの生息数や、生息流域のエビやカニ、貝などの動物を定期的にモニタリング調査されています。7/30(日)のモニタリング調査では、小学校・中学校生徒も一緒に体験・学習する自然学習講座「ウナギの学校」が開催されました。

 「ウナギの学校」は出水市ツル博物館クレインパークいずみ(以下クレインパークいずみ)で行われている講座の一つです。クレインパークいずみでは、ツルをはじめ自然に関する観察会や公開講座、講演会などの実施されていて、その一つに小学校・中学校の生徒を対象に約1年間かけて行う「ラムサール・レンジャー」講座が有ります。開講式から閉講式まで約10回の講座は魅力的な体験と学習が行われているのと合わせ、以下を習得できる内容になってにます。
   ・湿地の大切さや、生息する多様な生き物について、主に体験活動を通して学ぶ
   ・出水の湿地や生き物について理解し、交流事業等において活躍できる子どもたちを育成する
「ウナギの学校」には一般公募も合わせ約30名の子どもたちが参加しました。
 
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ラムサール・レンジャーにはクレインパークいずみの講師から、前回講座までの振り返りと、今回講座の趣旨の説明が行われました。講座の理解度がアップします。着ている深緑色シャツ背中の「Ramsar Ranger」が誇らしげです!

高尾野川が自然豊かな理由

地域の人たちの努力が自然を豊かにする

 農業や洪水対策など人が生活するために河川が改修されたため、ウナギなど魚が上流~下流を行き来することが出来なくなったり、川の底面・側面がコンクリート壁になって植物や動物が生きられなくなり、生物が減少していたそうです。地域の人たちによる努力の積み重ねが高尾野川を自然豊かにしています。
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ラムサール・レンジャー代表の方から、ツル類が越冬する荒崎地区および東西干拓地が「出水ツルの越冬地」という名称でラムサール条約湿地として登録されていることと、地域の人たちの越冬ねぐら提供や立ち入り制限など共に生きていくための努力が有ることを説明されました。
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「高尾野川をきれいにする会」(※2)の髙崎会長から、みんなが親しめる川づくりを目標に、河川清掃、体験学習、石倉カゴの維持・管理、モニタリング調査を実施していることを説明されました。
<石倉カゴ> 網の中にたくさんの石(直径だいたい20~30センチメートル)を詰めたもの。重さは約300キログラム。高尾野川では中流・河口・干潟に、それぞれ石倉かごを数か所設置し、少なくなりつつあったウナギなど動物の棲みかにしています。

<モニタリング調査の支援サポーター> サポート専門家、河川・淡水魚等の専門家

石倉カゴの動物観察

 設置した石倉カゴを定期的に引き揚げてニホンウナギや、その他の動物観察(モニタリング調査)を行われています。また、石倉カゴを使ってニホンウナギの棲みやすい環境を調べたり、川の環境変化を調べられています。(※3)
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「高尾野川をきれいにする会」の方々でクレーンを用いて川から引き揚げます。
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動物を傷つけないよう網の中から石を手で一つ一つ取り出します。
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そこ! どこ??
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見つけたー!
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ラムサール・レンジャーが見つけて教えてあげます。子どもたちは楽しくモニタリング調査に参加し、エビやカニ、貝、昆虫などを調べていきます。

ニホンウナギのモニタリング調査

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一定の大きさになったニホンウナギに5ミリメートルほどのICチップを腹部に埋め込みます。ICチップを埋め込むのは鹿児島大学水産学部 安樂(あんらく)先生です。
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子どもたちから安樂先生にクイズです「ICチップを持っているのはどっちの手かわかる?」 安樂先生「簡単だよ。ピ」 子どもたち「Wao!」 ICチップ読み取り機器で見えなくてもどちらの手に有るか判ります。ニホンウナギのICチップで棲む場所の変化、成長の度合い、川の環境変化などを調べられます。
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ニホンウナギに麻酔を掛けて動きを鈍らせます。写真のニホンウナギは成長の途中で、この時期は腹部が黄色になっていることから「黄(き)ウナギ」と呼ばれています。
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子どもたちの質問に丁寧に答える安樂先生
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ICチップは生体に影響が出ないよう丁寧に埋め込まれます。
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身長、体重を調査し、写真とともに記録として保存します。麻酔から覚めた後は元の川に放流します。

高尾野川を刺激フルに体験 『する~!?、バシャッ!』

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高尾野川に棲んでいたものではなく、体験タッチ用のニホンウナギを触ってみます。氷で冷やしたプールでニホンウナギの動きを鈍くしています。支援ボランティアの高校生も一緒に写っています。約10名の高校生ボランティアが、小学校・中学生の子どもたちが安全に講座を楽しめるようサポートしていました。
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あれ? つかんだはずなのに、する~っといなくなった、、、 このあと、左に写っている高校生ボランティアのサポートを受けて、つかんでいました。
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何度かトライしているうちに、ほどよい握り方が手で判ってきました。そおーと、やさしく包み込むようにしていました。
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高尾野川に入る体験です(※4)。ライフジャケットの着用、クレインパークいずみ講師の指導、高校生ボランティアのサポートなど安全管理を徹底したうえで、川の体験を行いました。バシャ、バシャ泳ぐなど川からの刺激を全身で感じていました。

ニホンウナギをもっと知りたい!

 子どもたちの疑問はたくさん。鹿児島大学水産学部 小谷先生が一つ一つ答えていきます。全部ではありませんが、以下に2つ記述します。

問い)ウナギがぬるぬるしているのはなぜ?
答え)粘膜で外敵から逃れるため、寄生虫や病気にかかりにくくするため、水なしでも生きられるようにするためと考えられます。

問い)ウナギが細長いのはなぜ?
答え)もともとは深海生息から進化したと考えられます。細長い方が深海に潜りやすいです。銀ウナギに成熟して産卵のためマリアナ諸島周辺海域に向かうとき目が大きくなり、僅かな光でも反応できるようになります。この生態からも深海生息から進化したと考えられます。
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子どもたちの質問に答える鹿児島大学水産学部 小谷先生
※1 ニホンウナギ
環境省レッドリスト 絶滅危惧ⅠB(EN)<近い将来、野生での絶滅の危険性が高い>です。ニホンウナギの養殖は受精卵から行っているのではなく、河口部に達したシラスウナギを採捕して養殖を行っており、人工授精から得た受精卵を養殖する技術はまだ実用の段階に至っていません。シラスウナギの採捕量は1960年代には200トンを超えていましたが2010年には10トンに満たないほど激減しています。
個体数減少の要因には、
・河口堰の建設によって遡上が難しくなった河川が増加したこと
・河川改修により河岸の穴や河床の浮き石などがなくなり隠れ場所が減少したこと
・河口部に集まったシラスウナギを過剰に採捕したこと
・気候変動や、海水・海流が変化したこと(魚介類全般に通じる)
などがあります。

※2 高尾野川をきれいにする会
「川の恵みがいただける川づくり」「みんなが親しめる川づくり」を目指して活動されている地域の団体です。活動内容を以下に記載します。
・親水性の確保を主な目的に、草木の刈り取りやゴミ拾いなど河川を清掃。
・川遊び・アユ獲りや調理を行う体験学習会を開催し、川の魅力と河川環境保全の大切さを普及・啓発。高校生を対象にした出前授業も実施。
・河川環境改善につながる石倉(ウナギをはじめとした動物の棲みかとして利用)の設置・維持管理と、ウナギやエビ・カニ類、魚類などのモニタリング実施。

※3 出水市内の河川での漁は禁止か許可が必要です。ご注意ください。

※4 当イベントは安全管理を徹底し出水市の許可を得て開催してます。出水市内の海や河川はすべて遊泳禁止です。ぜったいに泳がないようにしましょう。また、子どもたちだけで海や河川での水遊びはぜったいに止めましょう。


出水市の自然保全活動は今後もアクティブ・レンジャー日記で適時ご紹介していきたいと思っています。
 

おまけ

 「高尾野川をきれいにする会」の方から、心にとても響く標語を教えていただきました。河川を自然豊かで親しめる川にするのは今の私たちのためだけでなく、いつの時代の子どもからも、この言葉が聞けるようにしないといけない、と思いました。
じいちゃんも 遊んだこの 次はぼく
     第18回(2019年)全国川づくり標語コンクール最優秀作品 出水市立 下水流(しもずる)小学校3年生(当時)
 
 
以上