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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

林道巡視で見えてきたやんばるの変化

2021年10月07日
やんばる 岸本紗矢子

 みなさん、はじめまして。やんばる自然保護官事務所でアクティブ・レンジャー(以下,AR)として勤務しております岸本と申します。

 幼少期に観たテレビ番組「どうぶつ奇想天外!」,そこに出演していた千石先生の影響で野生動物が大好きになりました。そんな私は紆余曲折を経て,この4月にやんばるに辿り着きました。多種多様の魅力的な生き物で溢れるここやんばるでお仕事ができる喜びを日々,噛みしめています。

 今日は,ARのお仕事を一つである「林道巡視」についてご紹介したいと思います。

 林道巡視では,やんばるの山に張り巡らされている林道を車で回り,何か変わったことがないかをパトロールします。

 よく注意して巡視をしていると,フロントガラス越しに季節ごとに異なる"やんばる"を発見することができます。「この植物は今開花の時期なんだな」「あ,実が落ちている」「いま鳴いた鳥はなんだろう」。窓を開ければ聴こえてくる季節の鳥や虫の声に,ついブレーキを踏んでしまいます。そのときにしか現れない生き物たちとの出会いにワクワクでき,またやんばるの空気を全身で感じられる林道巡視は,わたしの一番好きな業務となっています。

車道を横断するシリケンイモリ

 とはいっても,楽しいことばかりではありません。残念ながら,悲しい変化を目にすることもあります。ゴミの不法投棄。許可なく仕掛けられた昆虫トラップ。最近は至るところで落書きやシールを見かけることも増えました。壁に吹きつけられた人工塗料の上をヤンバルヤマナメクジがコケを食べながら進む姿を見たときは,とても胸が痛みました。

林道内の壁に書かれた落書き

 話は変わるようですが,わたしの地元である神戸には阪急電車が走っています。10年ほど前,映画のタイトルにもなったのでご存じの方もいらっしゃるかも知れません。2007年10月,阪急電車は「譲り合いの心,はかなく」という見出しでメディアに掲載されました。阪急電鉄が優先席を再設定した,という内容です。

99年4月,阪急電鉄は「全席優先席」と位置づけ,国内で初めて優先席の廃止に踏み切りました。しかし,利用者から「優先席があった方が席を譲ってもらいやすい」との声が寄せられ,結果的に優先席を再設定することとなったのです。

 気配りや心遣い,すこし想像力を働かせてその場にふさわしい行動をとる―――そんな"マナー"が乗客たちの中で当たり前のものとなっていれば,阪急電鉄もきっと「優先座席は体の不自由な人・困っている人には席を譲ってください」という"ルール"を設けることはなかったでしょう。

「ルール」とは,必ず守らなければならない規則のことをいいます。誰かに行動をコントロールされなければ正しい行いができないと判断されたようで,神戸市民として恥ずかしい気持ちになったことを覚えています。

 7月に世界自然遺産に登録されたやんばる―――この地で今,モラルに欠ける行為があとを絶ちません。やんばるの貴重な自然を守るために,すでにたくさんのルール(法律)も設けられました。

 一自然を愛する人間として,様々な生き物の命が躍動するやんばるがこの先もずっと続いていくことを心から願っています。

今,わたしたちに必要なのは,「ルール」なのでしょうか。それとも,「マナー」なのでしょうか。