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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

ARデビュー報告【雲仙天草国立公園・天草地区】

2021年07月15日
天草 森俊夫

 雲仙天草国立公園・天草地区で初のアクティブ・レンジャー(AR:自然保護官補佐)として令和3年5月から天草自然保護官事務所に勤務することになりました森です。

 勤務を始めてから1か月余りが経過し、国立公園内の巡視を徐々に始め、ARの仕事が少しずつわかってきたような気がしていた6月初旬のとある日、事務所の電話が鳴りました。

 それは、一般の方からで、管内の松島地区で、オオキンケイギクらしき植物を見かけたという情報提供の電話でした。

 オオキンケイギクとはキク科の多年草で、コスモスに似た先がギザギザの(不規則に4つから5つの凹凸がある)花びらが幾重にも重なる、鮮やかな黄色の花を咲かせます。きれいな花を咲かせるため、以前は、道路脇の法面(斜面)の緑化資材として使われていましたが、その強靱な繁殖力で、他の植物を駆逐(他の植物を生育できなく)してしまうため、2006年から外来生物法で指定を受けている特定外来生物です。

 特定外来生物とは、海外起源の動植物のうち、生態系(生物の多様性)を破壊するおそれのあるもののことで、そのおそれの高いものは外来生物法で指定され、飼養、栽培、保管、運搬、輸入が禁止されています。例えるならば、自然界の指名手配犯といったところでしょうか。

 この一報を受けた自然保護官から指示を受けて、電話のあった30分後には現地に向けて出発。到着後、直ちに捜索を開始して、オオキンケイギクと思われる黄色い花を咲かせている植物の形状や分布範囲をデジタルカメラで撮影して事務所へと戻りました。

オオキンケイギクの生育状況の確認のために、現場捜索の際に撮影された写真で、中央手前に黄色い花が5輪、緑色の固いつぼみが3つ、後方斜面には、一面に黄色い花が点在している様子が写されている(写真1)見た目には、指名手配犯らしからぬ、非常に美しい花です。

オオキンケイギクの生育状況の確認のために、現場捜索の際に撮影された写真で、道路脇の斜面一面に密に黄色い花が点在している様子が写されている(写真2)斜面一面に黄色い花が点在しています。

 すぐに画像データを九州地方環境事務所の野生生物課に送り、30分程でオオキンケイギクであることの確認ができました。

 生育が確認された場所は、利用者の多い観光地(展望所・レストラン・宿泊施設)への連絡道路(市道)脇の斜面でしたので、直ちに、道路管理者である自治体の担当部署に、生育区域を表示した図面を添付して、駆除作業の計画を依頼することとしました。

 駆除作業を実施するにあたって注意を要するのが、オオキンケイギクが多年草であることと外来生物法により生きた状態での運搬(移動)が原則的に禁止されているということです。

 多年草であるオオキンケイギクは、ロゼット型と呼ばれる丸く地面にへばりつくような形状で冬を越し、早いものでは、4月頃に葉を細長いクツベラ型に伸ばし始め、5月頃には茎を伸ばします。その後、5月から6月に開花し始めて結実し、7月頃から羽根の生えた種を風で飛ばし始めますが、遅れた時期から成長を始めるものもあるため、開花・結実は秋まで続きます。このサイクルを繰り返すことで、生育域を広げていきます。

 駆除の方法としては、まず、地上に見えている部分を刈り取る方法が考えられます。しかし、この方法では根が残ってしまうため、翌年にはまた開花・結実することになり、早いものでは同一シーズン中に再度、発芽して、開花・結実に至ることもあります。そのため、根ごと引き抜く方法がよいとされています。また、種を飛ばし始める前(6月まで)に駆除作業を行うことも重要なポイントとなります。

 また外来生物法で指定されている特定外来生物は、生きたまま運搬する(移動させる)ことが禁止されているため、駆除したオオキンケイギクはそのままの状態で燃やせるゴミとして出すことができません。そのため駆除した後は、種子や根を落とさないように袋などに入れて、口をしっかりと閉じて、その場に3日程度置いて枯死させた後に、燃やせるゴミとして処分するということになります。

 ただし、自治会やボランティア団体等による小規模の駆除作業に関しては、事前に駆除作業を実施する旨をホームページ、回覧板、掲示板、立て看板などで公表しておけば、生きたまま運搬することが認められています。この場合は駆除直後に焼却場へ持ち込むことができるようになりますが、運搬途中に根や種子がこぼれ落ちることのないように、十分な拡散防止措置を講じなければならない点に注意してください。

 今回は最初の生育の確認の約2週後(6月下旬)に行われた上天草市の9名体制の駆除作業に、天草自然保護官事務所から2名(天草自然保護官事務所には2名しか職員がおりませんので総動員です。)で参加させてもらいました。

 現地確認の際に黄色い花を目印に生育区域を確認し、少なくはないという印象を持っていましたが、駆除作業に参加してみると2週間の間に開花している量は2倍以上に増えていました。また開花が数本だけの、ほとんど育成していないように見えている区域でも、間近で見るとこれから茎を伸ばそうとしている株の群生がところどころに見られ、その繁殖力の強靱さは、想像を遙かに越えるものでした。(写真2と写真4はほぼ同じ場所を撮影したものです。現場確認から駆除作業までの2週間に開花の量が増えていることが確認いただけると思います。)

 1株ずつ根ごと引き抜く作業を行いましたが、乾燥して地盤が固くなっているところでは、思いどおりの作業ができず、地中の根を全部取り去ることができなかったものも少なくありませんでした。

駆除作業当日の作業途中で撮影された写真で、レンジャー服を着た記事作成者が駆除したオオキンケイギクを回収するために袋に入れる作業をしている様子が写されている

(写真3)駆除作業当日はくもり空でしたが、気温は30度近くあり、開始早々に息があがりました。

駆除作業当日の作業途中で撮影された写真で、斜面に作業員3名が垂直に並んで作業する様子と、作業員の手前(除草作業が終わった部分)には黄色い花がなく、これから作業する前方には黄色い花が密に点在している様子が写されている(写真4)写真2とほぼ同じ位置を写したものであり、現地確認から駆除作業までの約2週間で開花の量が数倍に増えているのが確認できます。

 スコップやシャベルで根元を掘り起こすなどして、根を残さないように取り去る作業が理想的でした(生育数の少ない区域では、そのような作業をしました)が、6月中に花の駆除を終えなければ、種子の散布が始まることを考えて、生育数の多い区域ではこれ以上数を増やさないように、少なくとも地上に見えているものは駆除する作業としました。

 生育数の多い区域では1回の作業で駆除を完了することは困難であり、根を残さない作業の範囲を徐々に広げていくことが、完全に駆除するための唯一の方法です。今回の作業はこれからの長い闘いの幕開けにすぎないことを、身をもって感じました。

 この一連の作業こそがアクティブ・レンジャーの活動の真髄であることを実感し、今回の経験を活かして、これからの業務にまい進していきたいと思っています。

駆除作業当日の作業完了後に撮影された写真で、斜面に密に点在していた黄色い花はなくなり、白い花のみが残されている様子が写されている(写真5)写真4の位置の作業(駆除)後の様子です。作業員のみなさん、大変お疲れさまでした。