アクティブ・レンジャー日記
あのヤマネコは今
2020年06月12日こんにちは。対馬自然保護官事務所の小川です。
コロナウイルスによる臨時休館が続く中
書架の整理をしていたところ、見つけてしまいました。
12頭目に保護されたヤマネコで、メス(Female)であること、
mから始まる地区で保護されたこと、ウルメという愛称がつけられたことがわかります。
(ちなみに最新の保護個体はFk-89です!)
実は私、平成6年生まれの対馬出身。
私が生まれた年にツシマヤマネコが国内希少野生動植物種に指定され、
3歳の時に対馬野生生物保護センターが開所しています。
対馬で生まれ育った子供時代、一番古いツシマヤマネコの記憶が、
ウルメと呼ばれたこの個体だったことがわかりました。
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私が小学2年生だったある日、
急に教室の外が騒がしくなりました。
「ヤマネコって!!」「今から来るって!!!」
ヤマネコって、ツシマヤマネコ?
あれ?ツシマヤマネコって、普通のネコと何が違うんだ?
そんなことを考えながら、みんなと外に出ました。
するとそこには、カゴに入ったフワフワのネコが一匹。
私の通学路にある倉庫で見つけられ、今からヤマネコセンターに行くとのこと。
私はまだ思っていました。
ツシマヤマネコって、普通のネコと何が違うんだ?
その直後。
「ぐをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
人生で初めてネコから威嚇され、
「ヤマネコすげーーーー!!!!!!」
と、やせいのいきものに衝撃を受けたのと同時に、
ヤマネコは本当に存在して、しかもこんなに身近な場所で生きているのか、と
幻が現実になったのを覚えています。
当時の写真。私もばっちり写っていました。
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あれから19年。
あのヤマネコはどうなったのか。
そもそもなぜヤマネコセンターに行こうとしていたのか。
調べてみました。
あのヤマネコはメスの亜成獣で、当センターで保護された12頭目のヤマネコでした。
あの日、三根地区でイワシを干していたカゴに侵入し、
出られなくなったところをカゴの持ち主に発見されたとのこと。
個体番号Fm-12、愛称「ウルメ」です。
大人たちの粋な計らいにより、
近所の小学校にお披露目に来てくれたようです。
その後、健康状態に問題が無いことを確認されたウルメは
行動調査のために発信機をつけて放獣され、
発見場所周辺の3地区をなわばりにしていることが分かりました。
ところが。
放獣のわずか1年後、死体で発見されていたことが分かりました。
道路脇にうずくまった状態で、死後1か月以上経過した状態でした。
腐敗により死因の判定が難しいため、死因不明。悲しい結末でした。
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生死問わずたくさんのツシマヤマネコが収容されますが、
最近の私は、それらの個体は自然保護行政のいわばトップ営業マンではないかと思っています。
ヤマネコがいる、という事実はつまり、
ヤマネコが生息し得る環境がそこにある、ということで、
逆も然り。
どう伝えるか、力量が試されますが
すべての命を無駄にしないために私にできることは何なのか、
改めて考えさせられました。
死因不明のウルメは事故対策などに繋がらなかったと思いますが、
その命は18年後、私がこの仕事をするきっかけとなってくれました。
ずいぶん遅くなったけど、あのとき学校に来てくれてありがとう、ウルメ。