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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

オキナワキノボリトカゲ調査 【平戸・九十九島地域】

2019年12月06日
佐世保 岡山桂

 こんにちは!

 佐世保自然保護官事務所の岡山です。

 

 長崎県北部の松浦市で平成29年7月にオキナワキノボリトカゲの生息が確認されました。オキナワキノボリトカゲは沖縄県と奄美諸島のみに生息する日本の固有種で、環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。物資の運搬時に紛れていたものやペットとして飼っていたものなど、人間の手が加わった何らかの原因によって松浦市へ入ったものがそのまま定着してしまっているようです。一般的によく知られる「外来種」という言葉は、人間によって国外から持ち込まれた生物のことを指しますが、松浦市でのオキナワキノボリトカゲのように人間によって国内の別の地域から持ち込まれた生物のことを「国内外来種」と呼びます。宮崎日南市や鹿児島県指宿市では、20年程前から定着が確認されているそうです。

 国内外来種であるこのトカゲが在来種にどのような影響を及ぼすか、生息域はどこまで拡大しているのかなどを調査するため、長崎女子短期大学の松尾教授の指導のもと九十九島動植物園「森きらら」のスタッフを中心に平成29年度からヒアリング調査を行ってきました。昨年度からは私や長崎県と松浦市の職員なども加わり捕獲調査を開始しました。オキナワキノボリトカゲの研究をされている兵庫県立大学の太田教授の意見も交え、毎月2回の調査日を設けて季節の変化によるトカゲの行動の変化なども調べています。

左:松浦市で確認されたオスのオキナワキノボリトカゲ / 右:調査の様子

 

 オキナワキノボリトカゲは全長200~300mm、頭胴長(頭の先から尾の根元までの長さ)60~85mm程度の、尾長が長い樹上性のトカゲで、食性は昆虫などの小動物です。少なくとも原産地では冬眠はしないようです。オスの成体は日中、木の枝上の見通しのよい場所から縄張りを見張っており、幼体やメスの成体は木の根元付近の低い場所にいるとのことです。また、オスの成体は鮮やかな黄緑色をしているため、地味な茶色の幼体やメスの成体と比べ簡単に見つけることができます。ただ、周囲の明るさに合わせて多少は体色の明暗を変えることができるので黄緑色と茶色の混じった成体も多く、現状、私たちでは雌雄の判別が難しいため、専門家に判別の基準を確認しているところです。

左:メスの幼体と思われる個体 / 右:雌雄の判別が難しい体色の個体

9月9日(月)には朝昼晩計3回調査を行いました。調査にあたっては、釣り竿の先に輪にしたテグスを付けて釣り上げたり、直接手で捕獲したりしました。昼の調査の後、松浦市役所の会議室で、捕獲したトカゲの胃内容物の吐き戻しや形態観察をしました。吐き戻しはトカゲの口へ生理食塩水などを注入し、注入したものと一緒に胃の中のものを吐き出させるという作業ですが、技術が必要な作業であるため、この日はうまくいきませんでした。形態観察では、個体ごとに異なる特徴と共通した特徴を肉眼で観察し、それらが性別や成長段階による差なのか、あるいはただの個体差なのかを考察しました。こちらも併せて専門家に確認を取ってみようと考えています。

左:胃内容物の吐き戻し作業 / 右:形態観察

 

夜の調査では懐中電灯で枝先を照らすと寝ているオキナワキノボリトカゲが5個体確認できました。一見、起きているように見えても光に反応せず、顔の前で私が手を動かしてもピクリとも動きませんでした。

枝先で寝ている個体(まぶたはあるはずなのに目を開いたまま寝ている!?)

 11月12日(火)の調査では、寒くなってトカゲの活動が鈍くなってきたためか、これまで比較的容易に確認できたオスの成体は見つけることができませんでした。しかし、これまでほとんど確認できなかった幼体を4個体も捕獲することができました。頭胴長30mm程度の生まれて間もないような個体だったため、越冬のためにエサ探しを粘っていたのかもしれません。

 先の調査で幼体を確認できたことからも、確実にこの地域で定着しているということが分かります。現在は、胃から出てきた昆虫の残骸から何を食べているのか専門家に調べてもらっており、これからの季節は越冬方法なども調べていきたいと考えています。現状では爆発的に増える可能性はほぼないとされていますが、生態系への被害が顕著に現れてからでは手遅れになってしまうため、定期的な調査を今後とも続けていきたいと思います。