アクティブ・レンジャー日記
九州自然歩道でつながる豊かな自然と文化の島、奈留島
2017年04月13日こんにちは!五島自然保護官事務所の竹下です。3月28日(火曜)、奈留島において公園区域周辺部の現状及び九州自然歩道の活用状況の把握のため現地調査を行いました。奈留島に国立公園はありませんが、久賀島と若松島の中間に位置し、他の島々と九州自然歩道のルートでつながっています。奈留島は五島列島の主要な7つの島の一つで、島内各所で豊かな自然と文化に触れることができます。
福江港から北東に位置する奈留港へフェリーで45分程の所要時間です。この地で一番初めに出迎えてくれたのは、春に訪れる鳥、ヤツガシラです!ヤツガシラは3月頃になると東南アジアから中国北東方面へ移動する渡り鳥で、五島ではこの時期よく見かける鳥ですが、本土では滅多に見ることができないそうです。また海岸の堤防では、2羽のイソシギが縄張り争いか求愛行動と思われる奇妙な行動をしていました。一定区間を何度も行ったり来たりして、追いかける鳥が前の鳥を飛び越えて方向転換していました。
左)雌雄同色のヤツガシラ
右)奇妙な行動をする2羽のイソシギ
奈留島の北西部には、大串池塚海岸のビーチロック (五島市指定天然記念物)と雛ノ浦のハマジンチョウ群落(長崎県指定天然記念物)があります。一般に熱帯から亜熱帯地方に多く見られるビーチロックは、干潮時のみ広範囲にわたって見ることができ、砂や礫が可溶性の珪酸と炭酸石灰質物で固くセメント化され幾層にも固まったものですが、九州では沖縄以外では珍しく当地はほぼ北限に近いものと言われています。ビーチロックの近隣には長さ80メートルにわたり自生する雛ノ浦のハマジンチョウ群落があります。ハマジンチョウは1月から3月ごろまで咲く亜熱帯性の常緑低木で、通常波静かな入り江の奥の海岸に生育します。ここは満潮時には株本に海水が入る海跡湖のため、湖岸にハマジンチョウ以外にもハマボウなどの塩湿地植物が自生しています。
左)干潮時以外は海水に浸かるビーチロック
右)海跡湖の湖岸に咲くハマジンチョウの花
大串湾をはさんで雛ノ浦の対岸には、国指定重要文化財 江上天主堂があります。江上天主堂は日本教会建築の父・鉄川与助によって大正7年(1918年)建てられ、外見はクリーム色の板張り壁・水色の窓枠と可愛らしい教会です。現在は「奈留島の江上集落」を潜伏キリシタン関連遺産の構成資産としてユネスコの世界遺産登録に向け教会の修復中です。
可愛らしい外見の江上天主堂
さらに九州自然歩道に沿って島の西側を南下すると、道路の海沿いに宿輪の淡水貝化石含有層(五島市指定天然記念物)があります。約2000万年前には大陸と陸続きの際に巨大な淡水湖であったことを地形的に確認できる場所です。
左)宿輪の淡水貝化石含有層
右)淡水に生息する巻貝(タニシ科)や二枚貝(イシガイ科)の化石
奈留島の中央部には、中世期に山城があったことから城岳(標高189m)と呼ばれる山があり、その展望台から複雑な奈留島の地形や周りの島々を見渡すことができます。
左)城岳展望台から眼下に望む、奈留港、手前が前島、右上が末津島
右)一人の生徒の手紙がきっかけで愛唱歌が生まれた「奈留高校」
奈留島の南部には千畳敷と呼ばれる広く平坦な岩礁があります。山手から望む千畳敷とその後方の舅ケ島、紺碧の海とのコントラストが美しく、近づくと様々な形をした大きな岩に驚かされます。
左)奈留の千畳敷
右)人の背丈の何倍もある大きな岩
奈留港からフェリーで福江港へ向かう途中、前島と末津島の間に道が現れるトンボロ(砂嘴)という珍しい地形を干潮時のみ確認することもできます。トンボロは奈留瀬戸の激しい潮の流れで小石が堆積してできたもので、その規模は幅10m長さ400mあります。
奈留島は、同じ五島市の福江島とは異なり山間部が多く、農地があまり見られないなど新上五島町と似た地形だと感じました。今五島市は長崎県や関係市町とともにユネスコの世界遺産登録に向け奔走していますが、その先に目指すジオパークの候補地もこの島から出るかもしれませんね!
前島(左)と末津島(右)を繋ぐトンボロ