アクティブ・レンジャー日記
九州特産物リレー1月~ヤクスギ~【屋久島地域】
2017年01月27日みなさん、こんにちは!
屋久島自然保護官事務所の水川です。
九州各地の特産物をアクティブレンジャー達がリレー形式でお伝えする九州特産物リレー!
今回は、屋久島の土地と歴史に深く関係する「ヤクスギ」をご紹介します。
▲代表的なヤクスギ「縄文杉」
ヤクスギなどの巨樹・巨木の天然林が広がる屋久島の自然の美しさは、世界自然遺産になった理由の一つでもあり、ヤクスギは屋久島の自然を語る上では欠かせないキーワードです。
とは言っても、「普通のスギと何が違うの??」と疑問に思う方が多いかもしれません。
屋久島の標高500m以上の山地に自生する樹齢1000年以上のスギのことを、「ヤクスギ」と呼びます。
一般的にスギの寿命は500年程とされています。
ところが、屋久島のスギの寿命は1000年をはるかに超えます(縄文杉の推定樹齢2000~7200年)。
屋久島で育つスギが長寿である秘訣は、「年輪」と「樹脂」です。
屋久島は花崗岩でできているため土の中の栄養が乏しく、スギの成長が遅くなります。
そのため年輪が緻密になり丈夫で倒れにくく長生きできるのです。
▲普通のスギの年輪 ▲ヤクスギの年輪
また、多雨・多湿の気候の中で育つヤクスギには、普通のスギの6倍以上の樹脂が含まれています。
豊富な樹脂のおかげで腐りにくく害虫にも強くなるのです。
屋久島の特異な環境が生み出したヤクスギは、美しい杢目と独特の色艶、濃厚な香りが特徴の工芸品に形を変えます。
ヤクスギはその特性から加工が難しく、工芸品の製造には高度な職人技を必要とします。
熟練された職人の手によって最大限に魅力を引き出されたヤクスギの工芸品は、鹿児島県の伝統的工芸品にも指定されており、屋久島の重要な産業の一つとなっています。
▲ヤクスギ工芸品(写真提供:屋久島町立屋久杉自然館)
しかし、世界的に貴重なヤクスギは保護されていて、1980年代以降伐採は禁止されています。
一体どうやって工芸品の原料となるヤクスギを入手していると思いますか?
実は、現在のヤクスギ製品には「土埋木(どまいぼく)」が使われています。
土埋木とは、強風などで倒れたヤクスギや江戸時代に伐採されたヤクスギの切り株、伐倒後利用されず山に残されたヤクスギです。
丈夫なヤクスギは数百年山中に放置されても腐らないため、工芸品の原料として利用できるのです。
▲屋久島の山中に残る土埋木
世界自然遺産である屋久島の森は手つかずの原生林だと思われがちですが、林業の島であり、古くからヤクスギも伐採されてきました。
江戸時代にはヤクスギ材は年貢として定められ、以来幕末までに5~7割のヤクスギが伐採されたといわれています。
▲江戸時代に切られたスギの切り株
戦後復興の時代には、チェーンソーも導入されてヤクスギや広葉樹の皆伐が一挙に進みました。
現在生木として残るヤクスギは、凸凹が激しく利用に適さないとして切られずに残ったものなのです。
▲縄文杉 ▲仏陀杉 ▲弥生杉
伐採の時代に残された土埋木を有効活用しようと生産が始まったのは1966年(正規の生産事業開始は1975年)。
土埋木の生産は、トロッコで搬出できるようにトロッコ道に近い箇所から架線集材によって行われてきましたが、徐々に集材箇所が奥地化するとともにヘリ集材に依存するようになりました。
作業は危険で大変難しく、土埋木の特殊な性質や急峻で特異な屋久島の地形、変化しやすい気候を十分に理解した人にしかできないそうです。
▲架線集材でトロッコ道脇に集材された土埋木と造材の様子(2009年)
▲トロッコで搬出する様子(2009年)
▲トロッコからトラックに積み直す様子(2009年)
この後貯木場に運ばれ入札にかけられます。
2015年の入札会での最高落札額は1立方メートルあたり580万円だったとか!!
しかし、長年続いた土埋木生産もいよいよ生産可能な土埋木※を取り尽くし、トロッコによる搬出は2009年に終了し、2016年のヘリ搬出を最後に大規模生産は終了しました。
(※生産可能な土埋木:国立公園の特別保護地区や第1種特別地域、森林生態系保護地域の保存地区や自然休養林など、土埋木の採取が禁止されている地域外にあってかつ生産コストに見合った土埋木。)
今後増々厳しい状況になりますが、継続していくために生産や加工など各方面で工夫や検討がされています。
最近ではお手頃価格の製品も増えて、キーホルダーやアクセサリーなどのかわいい小物も充実しています。
屋久島にお越しの際は、お土産店やヤクスギ加工工場をのぞいてみてくださいね!
山に登る際は、林内に残る土埋木を探してみましょう。
土埋木の採取が禁止されている保護地域ではたくさんの土埋木が眠っています。
ヤクスギや土埋木が残る森の風景は、屋久島の自然環境や歴史を物語っている...そう考えると屋久島の山歩きも一味違った角度から楽しめるのではないでしょうか(^^)
▼ヤクスギ製品店一覧
(公社)屋久島観光協会HP
http://yakukan.jp/souve/shop.html#sugi
▼ヤクスギの博物館
屋久島町立屋久杉自然館HP
http://www.yakusugi-museum.com/
▼参考文献
佐藤政宗・寺岡行雄(2012)ヤクスギ土埋木生産の変遷と現状について.
屋久杉自然館(2000)屋久島やくすぎ物語.