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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

自然が生み出した神秘の島「嵯峨島」

2016年10月20日
五島 竹下洋子

 こんにちは!五島自然保護官事務所の竹下です。9月下旬、福江島の西4キロ沖合に浮かぶ嵯峨島(さがのしま)の巡視を行いました。嵯峨島は、男岳(おだけ150.4m)と女岳(めだけ129.3m)両火山の噴火活動によって形成されたひょうたんを縦に割って伏せたような形で、島全域が公園区域に指定され、うち西海岸地区は五島列島地域で唯一特別保護地区に指定されています。1987年から運行していた先代「嵯峨島丸」から2012年に交代した高速旅客船「さがのしま丸」は、島内住民(人口143名、小中学校の生徒数9名:8/31現在)の大切な交通手段として、また生活物資の運般として活躍しています。釣の名所として県外まで知られる島ということもあり、船内に数人の釣り客を見かけました。

  

左:福江島から望む嵯峨島(右 男岳、左 女岳)

右:福江島と嵯峨島を結ぶ高速旅客船「さがのしま丸」

  

 嵯峨島漁港を北方向へ進むと、海沿いにアコウの木があります。アコウはクワ科の亜熱帯性植物で日本では紀伊半島以南に分布していますが、火山の噴出物が堆積して縞模様になった凝灰岩の崖にアコウの気根が複雑な文様を描いて張り付き垂れている様子は火山島・嵯峨島ならではの特異な景観です。

  

左:五島列島を代表する巨樹アコウ

右:凝灰岩の崖に張り付くアコウの気根

  

 嵯峨島教会を経由し、カラスバトの奇妙な鳴き声を聞きながら曲がりくねった道を歩き男岳山頂へ向かいます。木々の隙間から海を眺めながら歩く登山道では、生い茂る草木や花に思わず目を奪われてしまいます。

  

左:大正7(1918)年に建てられた木造の嵯峨島教会

右:潮風が当たる道沿いに寄り添うように咲くツルボ

  

 男岳山頂に近づくにつれ人があまり通らない登山道なのか、落ちていた枝で蜘蛛の巣を払いながら進みました。男岳山頂からは女岳側の島の全景や福江島・島山島などを望むことができます。流刑地であった嵯峨島の男岳には、罪人をこもに巻いて突き落として処刑したことから「だっこがし」と呼ばれる断崖があります。頂上から傾斜が急な長い階段を下ると「千畳敷」が広がっていました!思わず一気に駆け下りたくなるほどの絶景です。

  

左:男岳山頂付近から望む女岳と島山島(左奥)

右:海にせり出す千畳敷と急峻な男岳断崖

  

 男岳と女岳の接合部に位置する「千畳敷」は、北西風による荒波で凝灰岩が浸蝕された平らな岩場に断崖の奇岩や海蝕洞を見ることができます。目の前に広がる自然が織りなす造形美のスケールに圧倒されます。

  

左:天に向かってそびえ立つ断崖の奇岩

右:波浪による浸蝕で形成された海蝕洞

  

 千畳敷から南へ延びた遊歩道は、男岳の登山道とは異なり、緩やかに続く登り坂で女岳へと向かいます。女岳山頂から北東方向に男岳や漁港周辺、遠くは姫島、三井楽半島を望むことができます。嵯峨島で見つけたハマトラノオは日本固有の希少種で、青空に向かって咲く可憐な花に心が癒されます。

  

左:女岳山頂より望む男岳、後方の姫島と三井楽半島

右:海沿いに自生するハマトラノオ

  

 1日がかりで嵯峨島を歩き、かつて流人、平家の落人、潜伏キリシタンが住んでいたといわれる島の歴史と「日本の秘境百選」に選ばれた豊かな自然を体感できました。自然が生み出した神秘の島「嵯峨島」へみなさんも出かけてみませんか!

  

火山の内部構造を知ることができる女岳火口