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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

特定外来生物「カダヤシ」

2016年09月01日
霧島錦江湾国立公園 前平理恵

突然ですが、『蚊』ってブーンと飛んでくるから『虫』に『文』と書くとご存知でしたか?

夏の夜にあの音に悩まされた経験、どなたにもあるのではないでしょうか。

そんな蚊を薬を使わずに退治できる方法があるんです!と聞いたらみなさんどう思われるでしょうか。


実は、蚊の幼虫であるボウフラを食べてくれる魚がいて、しかもその魚は数匹ポンっと池や川に放すだけでどんどん増えてくれます。そして、あっという間にボウフラも減っちゃいますよー。

なんて耳寄りな情報でしょう!薬で水を汚さずにすむし、即効性もありそうですね~。


と、そんな理由でアメリカから日本に持ち込まれた魚が『カダヤシ(蚊絶やし)』です。

私達になじみ深いメダカも雑食性なのでボウフラを食べるのですが、『カダヤシ』の方が繁殖力が強く、ボウフラ退治力が高いぞ、ということで導入されたのですね。マングースがハブを食べるから・・・というのと同じような発想でしょうね。


繊細なメダカに比べ、比較的どんな環境でも生きていけるカダヤシは、川や水路などを通じてどんどん生息地を広げていき、今やメダカの生息地を乗っ取ってしまった地域もあるほどです。メダカとカダヤシは見た目もよく似ているため、「メダカがいる池」と思っていた所が、実は「カダヤシがいる池」だった、ということもよくあるそうです。メダカとカダヤシはよく似ていますが、尻びれと尾びれの形が違います。

 

メダカは環境省第4次レッドリストで絶滅危惧Ⅱ種に、カダヤシは特定外来生物に指定されています。

 

メダカの数が減った理由は、カダヤシ増殖だけではありません。カダヤシが影響を与えているのもメダカだけではありません。しかし、ボウフラ退治としては強みだったカダヤシの「繁殖力」と「環境適応力」が、生態系保全としては裏目に出てしまったのは確かです。

 
鹿児島自然保護官事務所では、指宿市にあるビオトープ池でカダヤシ駆除を始めました。とても小さいこの池でさえも、全てのカダヤシを駆除することは難しいです。一度水を抜いてしまえばいいのですが、それではヤゴやカエル、カニなど他の生物も死んでしまいます。せっせと地道に網でカダヤシをすくうしかありません。カダヤシ捕獲中。地道に網ですくいます。 網ですくったカダヤシ。

 

私達の生活は、様々な自然の知恵や力を応用して、進歩したり改善されたりしています。

新しい技術を見つけること。見えない負の影響を予測すること、またはそれにいち早く対処すること。

どちらかに偏ることなく両立するのは簡単なことではありません。

 

今年の夏は雨が少なく、池も干上がりかかっています。しかし、ピンチはチャンスです!今しかないと、池の水が少ないうちに連日カダヤシをすくっています。

 

【!注意!】特定外来生物を生きたまま持ち帰ることは、外来生物法により禁止されています。

      カダヤシを持ち帰って飼育することは絶対にしないでください!

      個人で実行した場合、懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金という罰則があります。

 

            1. ※1
          1.  この地域の在来個体群は「ミナミメダカ」あるいは「メダカ南日本集団」です。メダカ類の放流による遺伝的攪乱に関してはwikipedia「メダカ」「ミナミメダカ」の記事や魚類学雑誌57(1) 「日本の希少魚類の現状と課題」(wikipediaからサイト移動可能)がわかりやすいです。その他、個人で発信されている淡水魚関係のHPやブログにも非常に参考になるものがいくつもあります。当日記に登場する個体群に関しては、捕獲して形態等からの同定をしていないため、ここではすべて「メダカ」と標記しています。

※2

 魚類の放流は、同種間における遺伝的多様性の攪乱(亜種や近縁種間の交配も含む)、カダヤシとメダカに見られるような他種への影響、コイヘルペスに代表される病原菌の拡散など非常に多くの問題があります。

 →日本魚類学会による「生物多様性の保全をめざした魚類のガイドライン」など。