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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

草原の『歴史書』、後世に引き継いでいくために・・【阿蘇地域】

2015年08月17日
阿蘇 アクティブレンジャー 田上

まだまだ暑いっ!と感じつつ立秋を迎えたその2日後、雲海が現れました。阿蘇では晩夏から秋にかけて雲海が見られることが多く、残暑が厳しい時期ですが季節は確実に移り変わっていることを感じます。

8/10大観峰にて。ツーリング客も小休止

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さて、今回は阿蘇草原再生に関係した業務を紹介します。

阿蘇地域の草原は面的に広ーく連なっていますが、実は160ほどの「牧野組合」がそれぞれに維持管理作業や放牧を行っています。牧野組合はおおよそ集落単位で分かれ、畜産業に関わる農家で構成されています。例えば、「町古閑牧野」「黒川牧野」「上田尻牧野」・・・のようにそれぞれに名称も異なります。

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環境省では、各牧野の野草地の現状、動植物・昆虫の生息状況、過去から現在に至る牧野の利用・管理状況の変化、牧野内の地名やその由来等を調査し、牧野維持管理の課題を整理した上で、草原環境保全の方針や保全計画を策定する「野草地環境保全計画策定検討業務」(通称、【牧野カルテ】)を平成17年度から毎年3牧野程度ずつ実施しています。

牧野毎に約6回の検討会やヒアリング、2回の現地調査を実施しますが、各回毎に牧野組合の方にも集まっていただき、地元と調査の専門家などと一緒に作り上げていきます。

ヒアリングや検討会では、昔の牧野の様子に詳しい長老などから地名、放牧状況、管理作業等について聞き取りをしますが、その内容に付随した"昔話"がとても勉強になるなぁと思って聞いています。地名も谷や崖、斜面など一つ一つに細かく名称があり、多いところでは数十もの地名があることも。

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現地調査では、実際の地形を見ながら地名や利用状況の確認とともに、動植物の専門家による調査も入ります。この場にも組合の方に同行していただき確認していきます。

現地ではさらにいろいろなお話しが聞けて、「昔はあぎゃんところ(あんな遠く)まで歩いて水汲みに行きよった」「毎年ここで山の神さん(牛馬の安全祈願)ばするもんなぁ」「わっか頃(若い頃)この土塁ばおおごつ(苦労して)して作った」「稲手(いなで)の作り方ば教えよか」「こん(この)草はうまかもんなぁ」など苦労話や草のワザ等について教えてくれます。

*いなで・・ヒモではなく稲やカヤの茎を利用して草を束ねる技術。

 

山菜やカヤの扱いについて教えてくれた牧野の方

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また、放牧や野焼きをするにあたり、作業道の確保や野焼きの障害となる小規模樹林の伐採など、作業負担を軽減できるような要望も聞き保全計画としてまとめます。

※牧野カルテ作成の次年度以降、保全計画の中から優先度の高い事業について整備を行っていきます。

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牧野組合員が高齢化する中、細かい地名や過去の牧野の状況、動植物について、若手組合員に引き継がれることが困難になっている現状があり、牧野カルテは牧野組合の『歴史書』としての意味合いもあります。牧野毎に歴史があり文化も少しずつ異なります、牧野のおじさん達の昔話とともに牧野カルテも代々引き継がれていくといいなと感じます。