アクティブ・レンジャー日記
宮之浦集落岳参り【屋久島地域】
2015年06月05日5月27日、宮之浦集落の岳参りに同行させて頂きました。
岳参りとは山岳信仰の一つで、屋久島では約500年前から伝わる集落行事です。
しかし、屋久島の岳参りは戦時中に一度途絶え、それからおよそ60年間にわたって行われてきませんでした。
そんな中、永田集落が岳参りを復活させたことがきっかけとなり、現在ではほとんどの集落で岳参りが復活しています。
宮之浦集落では、宮之浦岳参り伝承会が2005年に復活させ、春と秋の年2回、屋久島最高峰の宮之浦岳に登り、集落の安寧を祈願しています。
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岳参りのやり方は各集落によって大きく異なるのですが、宮之浦集落での岳参りの流れを簡単にご紹介します。
早朝、神社で参拝したのち、砂浜へ向かいます。
砂浜に下りたらサカキの枝葉でお祓いをし、山の神様へ届ける砂を竹の筒に入れて持っていきます。
▲まだ誰も踏んでいない一番砂を採る ▲宮之浦岳へ向けて登山中
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宮之浦岳の祠に到着したら、祠に塩、米、焼酎、お賽銭を供え、砂浜から持ってきた砂をまき、お参りをします。
お参りは二人の所願(ところがん)という代表が中心になって行い、一人がこれまでかけていた願を解き、一人がこれから先の願を掛け、山の神様である一品法寿大権現(いっぽんほうじゅだいごんげん)、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)に家内安全、豊漁豊作などを祈ります。
▲ヤクシマシャクナゲ ▲宮之浦岳の祠に参拝
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お参りが終わったら、早速下山しますが、この時シャクナゲの蕾のついた枝を持ち帰ります。
これは、砂浜の砂つまり里のものを山に届け、山のものであるシャクナゲを里に届ける、里と山との繋がり、そして命の循環を表しています。
また、シャクナゲには精霊が宿るとされ、神々の力を頂くという意味合いがあります。
下山して宮之浦の集落に戻ると、婦人会の方々がぼたもちを準備して待っていてくれています。
これは、神の世界に行って取り付いた魑魅魍魎や神様を落とし、俗世間へ帰ってくるという意味合いをもつ慣わしで、まち迎えといいます。
最後に神社へシャクナゲの枝を届けて、岳参りは終了です。
▲宮之浦の集落に戻ってまち迎え ▲神社へシャクナゲを届けて終了
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今回の岳参りでは、所願の一人を女性が務めたこと、法華宗の僧侶が同行してお経を奉納したこと、二つの新しい風が吹き込まれました。
女性が所願を務めるのは岳参り史上初の試みで、お経を奉納するのは日増上人以来となる500年ぶりになります。
参加者数は岳参りが復活してからは最多となる総勢18名で、集落の行事として浸透してきているように感じました。
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島民の山に対する畏怖、畏敬や感謝の念を忘れまいとする強い気持ちがあったからこそ、長年途絶えていた岳参りを復活できたのだと思います。
近年は登山自体がレジャーやスポーツにも近くなり、登山者の多様化が進んでいるように感じます。
登山の魅力を知る人が増えることや山と人との繋がりが増えることは決して悪いことではありませんが、そういった気持ちを完全に忘れて山に入ってしまうことは、軽装登山による事故や遭難、山中でのし尿やゴミの放置に繋がってしまうのではないかと思います。
今回、岳参りに参加させて頂いて、島民の山に対する思いを感じるとともに、自分もまたその気持ちを忘れてはいけないと改めて考えさせられました。