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九州地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記

シカ増加とその影響 【くじゅう地域】

2013年07月04日
くじゅう
みなさんシカは好きですか?
シカと言えば、古くから神の使いとも言われ、奈良公園のものが有名ですね。
日本にいるシカは、ニホンジカですが、地域によって体の大きさなどに違いがあり、大きく7つの亜種に分類されています。
九州本土にいるものはキュウシュウジカ、ちょっと離れた屋久島のシカはヤクシカ、本州産はホンシュウジカ、北海道産はエゾシカというようなものです。
このシカがいま全国的に増えており、くじゅう地域もその例外ではありません。
ここで一枚の写真を見てください。



6月初旬に別府市の鶴見岳で撮ったものです。
森の中の様子について、何か違和感を感じませんか?

①森の地面に草がほとんどない
②同じ高さで樹木の葉がなく、先まで見通せる
③樹木の皮がはがれている

これはすべてシカが葉や樹木の皮を食べる「食害」によるものです。
シカは一定の範囲で数が増えすぎると、一気にその場所の植物を食べ尽くします。その結果、表土が露出、雨で土が流されて土石流の発生を誘引し、山が壊れていきます。
森が先まで見通せるのは、シカが頭を伸ばせる高さで樹木の葉を食い尽くしたからです。
森は結果的にシカの嫌いな植物だけが残ってしまい、生きものの多様性が失われます。



その例が、写真のマツカゼソウ(ミカン科)です。
匂いが強いせいかシカは苦手とし、辺りに群落が確認できました。
ただ、嫌いな植物だけが残ってしまうと、ついにシカはそれをも食べ始めるそうです。この適応力の高さには驚きです。

鶴見岳では5年ほど前からシカがよく目撃されるようになりました。
そして、わずか数年で自然環境は変質しました。
昨年の夏の豪雨では、鶴見岳は土石流に見舞われました。
下草がなくなり、森の保水力が低くなると、災害も発生しやすくなります。
シカによる食害は、自然だけではなく、私たちの生活にも影響を及ぼしかねないものです。

ところで、くじゅう連山でも近年シカが増えているという話をよく耳にします。


先日、長者原~坊ガツルルートの途中にある雨ヶ池周辺で、シカの食害を発見しました。ノリウツギ(ユキノシタ科)という低木の葉が食べられており、近くにはフンもありました。

シカが増えた理由は、ハンターの減少や植林による餌場の拡大など、諸説あります。くじゅうでは現在、食害は鶴見岳ほどひどくないですが、短期間で進むことから大きな脅威です。
くじゅう地域のシカ対策については、今年度から関係機関と連携して進めていく予定です。登山道の巡視などでも注意深く情報収集する必要があります。