対馬

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります

追跡調査~パート2~

2025年08月24日
対馬 金子 涼太朗

 みなさまこんにちは、対馬自然保護官事務所の金子です。
 
~前回のあらすじ~
放獣後追跡調査をしていたものの6月30日に追跡個体を見失ってしまいました。

詳しくは前回記事(追跡調査開始 | 九州地方環境事務所 | 環境省)参照

獣道を通って尾根に上り電波が拾えないか試します。
  7月1日に一度、舟志ノ内という地区で位置の確認はできたものの、そのあとすぐ見つからなくなってしまい、職員総出で捜索しました。道路からは電波が届かない山間に個体が移動した可能性が高く、日が落ちる前の時間に山に登り、より高い位置から電波を拾おうとしたり、ヤマネコが通りそうな獣道を対象に自動撮影カメラを設置したりして何とか場所を特定しようとしましたが、見つからないまま数日が過ぎてしまいました。ヤマネコは1日で数キロ移動することもあり、見失っている期間が長くなればなるほど、最後に確認できた場所から離れてしまう可能性が高まり、捜索範囲も広げなければなりません。
図1 夜間車での捜索エリア
かなりの広範囲を毎晩捜索しました。
  そこで7月5日より、捜索範囲を大きく広げ、ヤマネコが活発に動く夜の時間帯に、交代で毎晩二手に分かれて、島の北側部分を車載アンテナを取り付けた車で一周2~3時間ほどのルートを走り回り捜索しましたが、ヤマネコを見失った7月2日から1週間以上見つけることはできませんでした。(図1)
図2 再確認後のヤマネコ移動範囲
 
  このまま見失ってしまうのかと思われたのですが、7月10日、遂にヤマネコの電波を拾うことができ、見失った位置からかなり北上したところにいることがわかりました。ここでまた見失うわけにはいかないので、再び夜間は1時間ごとに定位を重ね追跡をして、今度こそ見失わないようにします。1週間ほど位置を確認したところ、どうやら、ヤマネコは図の赤色で囲ったあたりを中心に生活しているようでした。(図2)
罠の作動に連動して、発信機(写真右の黒いもの)についているマグネットが外れ、信号が途切れる仕組みです。
 
  さて、はじめに放獣したのが、6月24日になるので、そろそろ放獣1か月目の健康チェックが近づいてきました。個体を再捕獲して、体重測定や血液検査を実施し、健康かどうかを調べる必要があります。捕獲には「はこわな」を用いますが、いきなり罠を設置してもすぐにヤマネコが入るとは限りません。ですので、1か月より少し早い7月17日より、はこわなによる捕獲を開始しました。はこわなには誘因エサの馬肉をセットし、もし作動した場合速やかに回収ができるように罠の作動に連動して発信機がセットしてあり、捕獲者は現場近くの車内で発信機の音を聞きながらヤマネコが罠を作動させるまで待機します。初日は罠とは別方向へヤマネコが移動してしまい、失敗でした。誤作動で他の動物がかかってしまわないように罠の扉を固定し、発信機を取り外して撤収です。
罠に入るヤマネコ
  個体によっては見慣れない罠を警戒してなかに餌があっても寄ってこないこともあるので、罠に慣らす「罠馴致」も並行して行います。罠馴致は、罠の扉を開いた状態で固定して作動しないようにしたうえで誘因エサを置くことによって、中に入って餌を食べても安全だと学習させる狙いがあります。また、罠のそばには自動撮影カメラもセットし、ヤマネコが罠に寄っているか?きちんと奥まで入って押し板(作動スイッチ)を十分に押して食事をしているか?などを確認できるようにしておきます。
  この後は持久戦です。
①毎日夕方ヤマネコの居場所を定位する
②居場所近くに置いてある罠に新しい餌を入れるとともに、前日の動画をチェックしヤマネコが罠に馴致しているかも確認する
③ヤマネコが罠のそばにいて、カメラでもしっかり罠の内部に入っているのが確認できれば、扉のロックを外して、捕獲を開始する。まだ判断材料が不十分ならば、罠のロックはそのままで、ヤマネコの定位に専念し、翌日へ。
という流れで捕獲できるまで繰り返します。
捕獲直後のヤマネコ
  一度7月28日に罠を稼働させ、罠が作動したものの、現場に向かうともぬけのからでした。動画を確認するとヤマネコが罠に入ってきていたので、罠が作動したものの、十分にヤマネコの体が入っておらず、扉が閉まりきる前に脱出されてしまった可能性があります。残念ながら動画は途中で設定撮影時間の10秒が切れてしまい、逃げていく瞬間は映っていませんでした。罠を警戒するようになってしまう可能性も考慮し、今までよりもより慎重にヤマネコがしっかり罠奥で餌を食べるようになるまで、数日さらに馴致したのち、8月1日の夜、遂に捕獲に成功しました。
ヤマネコの移動経路まとめ
  捕獲したヤマネコは1か月の間に飼育時に比べてやせてしまっていたものの、血液検査の結果などには問題はありませんでした。体重の減少がやや心配なため、数日しっかり餌を与えてから再び捕獲場所近くで放獣しました(サムネイル画像)。現在は引き続き追跡中です。
  練習から数えて4回にわたって紹介してきた追跡調査ですが、とりあえずはひと段落です。この後も定期的に検査捕獲と追跡を繰り返しながら約1年間見守り、野生でも問題がないと判断できれば最後の検査捕獲の際に発信機を取り外して追跡なしの放獣です。

 
対馬自然保護官事務所  金子