対馬

九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園があります。

交通事故現場検証

2025年01月29日
対馬 金子 涼太朗
 みなさま、こんにちは、対馬自然保護官事務所の金子です。
 先日令和7年1月17日に、今年度4件目となるヤマネコの交通事故が発生してしまいました。
 対馬自然保護官事務所では、交通事故発生時の現場対応のほか、事故の再発防止のために、通報者への聞き取りや現場検証を行っています。今回は現場検証の様子について詳しくご紹介します。
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令和7年1月17日の交通事故発生地点(×印)
北側から見た現場、矢印の地点でヤマネコが発見されました。見通しが良く、なだらかな坂になっているため、車両がスピードを出してしまう可能性があります。
 交通事故は夜間起こることも多く、かつ事故発生直後は個体の収容を優先するため検証は後日日を改めて日中に行っています。事故現場へ向かい、最初に事故発生地点の道路を撮影し、事故箇所がカーブや茂みなどで見通しが悪くないか、直線道路でスピードが出やすい場所ではないかなどを確認します。今回の場合、南側から北上すると、カーブ後なだらかな下り坂の直線道路になっており、車両のスピードが出やすい地点ではないかと予想されました。
東側(左)は法面のあいだを斜面伝いに尾根へ抜けられます。また西側(右)は谷になっており下っていけました。
 次に道路周辺の環境を調べます。ヤマネコがどのようなルートで道路上に出てきてしまったのかを推測します。今回、下記写真の東側(左)は法面が拡がっていたのですが、その切れ目がちょうど事故現場すぐ横にあり、かつ近くには道路の下をくぐる、もしくは迂回をして反対側へ渡れるような構造物はなく、道路上を横断する以外に行き来する方法はありませんでした。以上のことから東側から西側(右)へ(もしくは逆に西から東へ)ヤマネコが道路を横断しようとして事故に遭ったのではないかと推測されました。
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西側を降りてみたところ水場がありました。飲み水の確保や狩り場にヤマネコが利用していた可能性が高いです。
あ
東側の斜面。人にはやや急ですが、ヤマネコや他の野生動物ならば容易に登れそうです。
あ
尾根の上から道路を見下ろした写真、ここ以外の場所は法面になっていて登るのはやや難しそうです。
あ
東側を登った尾根にはヤマネコの痕跡こそ見つかりませんでしたが、イノシシやシカの糞を見つけることができ、野生動物が普段から利用していることが分かりました。写真の丸印はイノシシの糞です。ちなみにこの尾根をさらに越えて東へ進むと海に出ます。
 今回検証で分かったこととしては
1.道路は見通しの良い直線で、坂になっている。その分スピードが出やすい。
2.東側西側共にヤマネコが暮らせる環境があり、道路の横断は日常的にありそう。
3.東側の法面の切れ間はヤマネコが行き来しやすいポイントの一つになっている。
ことなどが推察できました。

 
配布チラシ。特に生活道路として利用していると思われる近隣の住民に向けて、回覧板での回覧と、目につきやすい店舗への掲示を依頼しました。
 現場検証はこれで完了ですが、以上の結果から、周辺地域へヤマネコがこの辺りでも出る可能性があることの周知を徹底し、運転時に注意してもらえるように、近隣地区の店舗や郵便局、各地区の区長さんにチラシの配布を並行して行いました。
移動式看板看板候補地の写真。現場周辺で目にとまりやすく、看板の設置ができる十分なスペースがある場所を確認しました。
 また、運転中のドライバーへ向けて、この場所で事故があったことを示し注意してもらうために、移動式看板の設置も後日行います。今回は申請書類用に、看板が目につきやすい候補地点を撮影しておきました。
  交通事故が起こってしまったことは残念ですが、現場検証作業はそこから少しでも事故発生時の情報を集め、今後の事故発生防止に役立てて行くためのとても重要な業務です。 
 
対馬自然保護官事務所 金子