奄美野生生物保護センター(環境庁 奄美自然保護官事務所) 西村学
奄美諸島の自然
奄美諸島は、鹿児島市より南に約380kmから600kmの海域に飛石状に連なった島々で、8つの有人島からなります。奄美野生生物保護センターはその奄美諸島の北部、日本で3番目に大きい奄美大島の大和村に位置しています。 黒潮の影響を受け、年間平均気温は21℃、降水量は東京の約2倍の3,000mmにも達します。四季を通じて温暖多南の亜熱帯海洋性気侯に恵まれ、奄美の島々には世界的にも貴重な野生生物が数多くすんでいます。それでは奄美にすむ動物たちを紹介しましょう。 一番有名な動物が「アマミノクロウサギ」。アマミノクロウサギは大陸と陸続きであった古い時代に渡ってきて、そのままの形で現在まで生き残った原始的なウサギです。眼と耳が小さい、あしが短い、爪は大きく曲がっていて穴を掘るのに適しているといった特徴を持っています。天敵、そして食べものや住みかを争う競争相手が入り込めない島という環境がアマミノクロウサギを育んできたといえます。しかし近年、島という環境が人の手によって、そしてマングース(移入種)によって変化してきています。現在の生息数は、奄美大島と徳之島を合わせても3千~6千頭と推定されています。
また、島という隔離された環境は、独自の進化をとげた貴重な固有種を育む要困ともなっています。固有種として一番有名なのが「ルリカケス」。奄美大島と加計呂麻島にだけ生息しています。ルリカケスは名前が示しているように、るり色の美しい羽を持っています。しかし、カラスの仲間なので、美しい姿に似合わない「ぎゃーぎゃー」という特徴のある声で鳴きます。美しい姿と特微のある声から奄美大島で最もよく目につく鳥で、初めて見る人にとって強く印象に残る鳥です。明治、大正時代には美しい羽を求めて乱獲されたようですが、現在では捕獲が禁止され、人家の屋根裏にも巣を造るというたくましさから、生息数は持ちなおしてきているようです。 植物についていえば、奄美諸島は亜熱帯性の気侯で沖縄や台湾との共通種が多く見られます。しかし、本土と台湾・東南アジアとのちょうど中間に位置し、温帯と亜熱帯の移行帯にあたるため、両方の中間的な特徴をそなえています。「北限種」「南限種」(その場所より北(南)には生育していない種)が多いのもそのためといわれています。 このように奄美諸島に生息・生育する希少な野生生物を保護していくために、平成12年4月29日(みどりの日)に奄美野生生物保護センターがオープンし、活動を始めました。
奄美野生生物保護センターの活動
(1)保護増殖事業 奄美諸島に生息・生育する動植物の中で種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)に指定されているのは全部で8種。鳥類5極(オオトラツグミ・アマミヤマシギ・ルリカケス・アカヒゲ・オーストンオオアカゲラ)、植物3種(アマミデンダ(渓流性の小型シダ植物)、ヤドリコケモモ(イタジイなどの巨木に樹上着生)、コゴメキノエラン(着生ラン))です。 その中でツシマヤマネコと同じく保護増殖事業計画が策定されているのは、オオトラツグミ・アマミヤマシギの2種。生態についての詳細なデータもない状況で、今年より保護増殖に向けた調査が始まったばかりです。特にオオトラツグミは奄美大島と加計呂麻島にしか生息しておらず、それも100羽余り。早急な対策が求められています。
(2)移入種対策 奄美大島ではマングースが問題となっています。マングースは1970年代に猛毒のハブを撲滅する救世主として持ち込まれました。しかし、マングースはハブを捕食することがほとんどなく、アカヒゲ・バーバートカゲといった奄美の希少な野生生物を捕食し(アマミノクロウサギも捕食されているデータもあります。)、生態系に大きな影響を与えていることがわかってきました。マングースにとって、エサとなる動植物が多い奄美大島はよほど住み心地がよいらしく、当初40頭ほどでしたが、現在では5千~1万頭にまで増えてしまいました。 今年度より奄美の生態系・希少種を保護するために、マングースの駆除事業が始まります。駆除を実施するのですが、マングースは悪者ではありません。島という微妙なバランスの生態系にマングースを持ち込んだ人間が悪いといえます。日本全国でいろいろな移入種(他の地域から持ち込まれた動植物、ヤギやブラックバス等)が問題とされていますが、奄美での取組がよい教訓になってもらえればと思っています。
(3)普及啓発事業 奄美野生生物保護センターがオープンしてから約4ケ月後の9月5日には、来館者が1万人を突破しました。奄美の自然の素晴らしさを地元の方々はもちろん、来島される方々にも知っていただけるよう、いろいろな活動をしています。 夏休み期間中は自然にふれあう活動として、星空観察会、昆虫・植物観察会、ハブ講演会を実施し、身近にありながら知られていない動物・植物とのふれあいがありました。秋には「やせいのいきもの絵画展」を企画しています。
最後に
開発と自然保護、そして自然を生かしたエコツーリズムの推進等、奄美でも離島の持ついろいろな問題を抱えています。 昔から奄美の森には、ケンムンというカッパに似た木の精霊がいるといわれています。ケンムンがいつまでも息づける奄美であってほしいと思っています。 できたばかりのセンターですので、対馬野生生物保護センターともいろいろ情報交換をしながら活動していきたいと思っています。よろしくお願いします。 また、ぜひ一度奄美野生生物保護センターにもお越し下さい。お待ちしております。
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