長崎総合科学大学 浦田明夫
チョウは昆虫類の中でも身近に見られ、親しまれている仲間である。日本には、280種以上、そして対馬には約90種が記録されているが、その中で白いチョウと言えば、先ず誰れもが知っているのがモンシロチョウであろう。 このモンシロチョウの仲間には対馬では3種知られている。その一つはもちろんモンシロチョウである。この種はほぼ世界各地に生息する広分布種で、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ等に分布している。しかし、日本を含めて多くの地域では、大むかしから住んでいた土着種でないかもしれないという疑いがもたれている。モンシロチョウは春早くから晩秋まで発生をくり返し、サナギで越冬する。幼虫はアオムシで、キャベツ、ダイコン、ハクサイなどの野菜を好むので、害虫の一つに数えられている。このモンシロチョウに近縁な、スジグロシロチョウも生息しているが、対馬ではめったにお目にかかることのできない種で、幼虫の食草も野生の植物であるイヌガラシ、タネツケバナ、ハタザオなどのアブラナ科植物を食べ、農作物は食べない。このため生息している場所もモンシロチョウが畑地や人家の周辺であるのに対し、山地林縁に見られるのが普通である。そしてもう一種はタイワンモンシロチョウで、つい近頃まではこの種は日本では対馬だけに見られる分布上珍らしい種として知られていたが、近年、沖縄、八重山群島でも見られるようになり、迷蝶としても他の二、三の地域で採集されたこともある。国外では名前の通り台湾、朝鮮半島、済州島、中国大陸、東南アジアから中央アジアにかけて分布しているが、やはり対馬を代表するチョウと言えよう。
タイワンモンシロチョウは全島に広く分布するがやや局所的で、厳原のような市街地で見ることはほとんど希で、スジグロシロチョウと同様、山麓に見られ、渓流沿いの山問部、明るい農道、林道沿いに春から初夏にかけてノアザミやオカトラノオなどに求蜜し、オスは下りて吸水する様子を見ることができる。 幼虫はモンシロチョウによく似たアオムシで、体長は25mm内外に達し、胴部の地色はモンシロチョウが黄緑色を示すのに対し、タイワンモンシロチョウは黄色味ないし青緑色を示す。越冬したサナギは春3月中下旬より羽化しはじめ、以後連続的に10月頃まで年5~6回発生をくり返しているものと思われる。 私の飼育データによると一般に高温期には成長は早く、卵期3~4日、幼虫期11~12日、サナギは6~7日位で、春期、秋期では産卵から羽化まで約一ヶ月を要するようである。 幼虫の食草は、これまで私の調べたものではタネツケバナ、イヌガラシ、ミチバタガラシ、ハマハタザオ、ヤマハタザオ、ナズナ、ハナナズナなどで、自然の状態では野菜類のキャベツ、ハクサイ、ダイコンなどは食べておらず、また、移入種で水辺に多い野生アブラナ科のオランダガラシなどを食することは観察していない。しかし人工飼育ではキャベツなどの野菜でもよく育つようである。 モンシロチョウもそうだが、タイワンモンシロチョウも夏期には個体数が著しく減少する。その一つの原因と考えられるのは夏期にはアブラナ科植物が少なくなることが考えられるが、タイワンモンシロチョウはこの夏期を希少種であるハナナズナなどに頼っているように思われる。他のアブラナ科植物が減少する夏期にも生えているからである。もう一つの夏期減少の原因と考えられるのは、天敵寄生バチの影響である。 初夏にタイワンモンシロチョウの幼虫を野外より採集して飼育してみるとそのほとんどの幼虫から寄生バチが出現する。寄生バチは卵や、幼虫の体内に産卵する。体内でふ化した幼虫はタイワンモンシロチョウの幼虫の内臓などを食べやがてアオムシの体外にでて小さな白いマユをつくりサナギとなる。この時点でタイワンモンシロチョウのアオムシは完全に死滅しチョウになることはできない。その他夏期は他の動物の活動も活発となり、カマキリ、クモ、カエル、小鳥などの餌となり、一匹のメスが産む約300個の卵もそのうちのわずかしかチョウへと変身することができないのである。自然の中で生きて行くことのむずかしさを一つのチョウの親察を通して知ることができる。 さて、対馬に産するシロチョウ科3種はどうちがうのだろう? 飛んでいるチョウを見て、種名をあてることは普通の人ではむずかしいが、区別点は後翅の縁の斑紋に注目すればよい。
[ 写真1:モンシロチョウ ] 後翅の縁に黒い点ない
[ 写真2:スジグロシロチョウ ] 後翅の脈に沿って黒い濃いすじがみられる
[ 写真3:タイワンモンシロチョウ ] 後翅の縁に黒い斑点が見られる
写真を参考にして、対馬にいるめずらしいタイワンモンシロチョウをたしかめ観察して欲しいものである。
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