長崎県対馬支庁総務企画課 丈下剛司
対馬ってなに?
対馬島をはじめ有人島6、無人鳥102で構成される708平方キロの島で、佐渡島、奄美大島についで日本で3番目に大きい島が対馬です。 全島面積の内、約9割が「山」で、平地は少なく島内で一番広い場所が上県町を流れる佐護川がつくった福岡ドームが10個も入らないぐらいの佐護平野と言われています。 野生生物の好む雑木林が島全体の6割強を覆っており、反対に人間が住む宅地は1%にも満たない、今の日本では貴重な自然の島なのです。 この島は、魏志倭人伝(弥生時代末期)に登場するほど古い歴史を持ちながら、19世紀末から20世紀初頭にかけ、国境の島であるが故に要塞の島と化し開発が妨げられたこともあり、現在も貴重な自然が残る「しま」として、大海に浮かんでいます。 と言うことで野生生物の宝庫であり「しま」独特の生物層を形成していますが、最近島民に対抗する無法もののけも出てきたようです。 他、見てびっくりの昆虫も沢山いる(らしい)のです。
対馬との出会い
子供の頃たまたまラジオで「イヅハラ、ホクトウノカゼ フウリョク○○ キオン○○℃」(気象通報らしい)を聞き、「すごい地名だ。いったいどこにあるんだろう。」と思ったのが対馬との初めての出会いでした。 中学生の頃です。履き物の名称がついた出版社が出している道路地図に、浅茅湾の写真が載っているのを見つけました。早春の頃撮影したようで、山の木々が黄みどりの芽を一斉に吹いたなだらかな小山と海とで複雑な迷路が形作られていて、この写真を見る度にいつか行ってみようと心を弾ませたものでした。 そのころは、行ってみたいけれどもたぶん行かないだろうなと思っていましたが、何か縁があったのでしょうか。平成8年に対馬に来て早3年が経とうとしている今、すばらしい自然と人間味が織りなす島の情緒が対馬の良さであることにやっと気付きはじめました。
対馬の自然保護体系
まず、対馬の自然保護について数値で表すことにしましょう。
- 風景地を守るために全島の約16%が壱岐対馬国定公園に指定されています。
- 後世に残すべき自然環境を保護するため全島の約0.3%が県自然環境保全地域に指定されています。
- 野生鳥獣を保護するため全島の約7%が鳥獣保護区に指定されています。また、ツシマヤマネコのための国設保護区が上県町伊奈に設定されています。
- 他、文化財保護法や絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律で貴重な種(ツシマヤマネコ、ツシマテン、アキマドホタルなど)が保護されています。
では、先に出てきました基本となる法律とその実際の運用について簡単に説明しましょう。
1.自然公園法
自然の風景地を保護又は利用するための法律。風景地なんですが、どういったものがその構成要素かというと、地形地質、地被(植物など)、自然現象、野生動物、文化景観、海中景観があるんです。壱岐対馬国定公園対馬地区(昭和43年指定)の場合は、特に浅茅湾の地形がすばらしく「樹枝状海岸=溺れ谷」ははじめてそれを見る人に必ず感動を与えることを私は確信しています(東京に住んでる私の妹は浅茅湾を見てすっげー(すごい)なんじゃこら(なんてまあ)を連発しました)。 そういった景観を守る方法として、何か造ったり、切ったり、掘ったり、取ったりすることに対し、県知事の許可を得ることになっています。山芋を掘ったぐらいではその対象にはなりませんが、例えば家を建てることに対してでも許可を得なければ出来ないことになっています。 自然公園は町中の公園と違い、土地が誰の持ち物であるか関係なく指定されています。ということは自分の土地だからといって勝手に出来ないこともあるのです。ここでよく問題となるのが、「個人の財産=個人有地」と「国民の後世に残すべき財産=自然景観」との2つ財産の考え方についてで、生活の根幹にかかわる行為に関係する場合、法と個人との対立が起こる可能性があります。 なぜ、自分の土地を自分の思いのままにできないという疑問が、島民のみなさまにあるようですが(生活にかかわれば当然ですが)、権利に内在された制約であり、現場に携わる者としては島民のみなさまの立場を十分に理解しつつ調整するよう努力しています。
2.自然環境保全法
自然公園法が主に風景地を保護・利用するのに対し、この法律は人間に対し様々な恩恵を与えてくれる自然を保全していくためのものです。ですから、先に説明しました自然公園の他、この後説明する野生生物保護の概念等を含めたものになっています。 対馬島内では美津島町子ソ崎、豊玉町妙見、峰町青海海岸、上対馬町合歓木(ねむのき)、茂木海岸が昭和51年に指走されています。 やはり、自然公園法と同様、区域内でなにか行う場合は、知事の許可が必要です。
3.鳥獣保護及狩猟二関スル法律
鳥獣の保護繁殖、有害鳥獣の駆除等を行い、生活環境の改善、農林水産業の振興を目的とした法律です。 まず、狩猟についてです。狩猟は現在レジャー目的で行われており、野生生物の頭数調整等の効果もあるとされています。狩猟は猟期(11/15~翌年2/15)のみに行うことができ、それ以外の時期は基本的に野生動物の捕獲をしてはいけないことになっています。また狩猟期に捕ってよい動物も限られています(47種)。ですから珍しい鳥がいたからといって勝手に捕まえることはできないのです。 しかし、農林業に対し被害を与える鳥獣は必要に応じ駆除できることになっています。対馬では特にツシマジカ、イノシシが農林作物に被害を及ぼしており、現在狩猟期を除いて駆除が行われています。特にツシマジカは島内に対馬全人口の約1/3に匹敵する頭数が生息するとも考えられており、適正生息密度にする方法が模索されています。また、最近はイノシシも対馬島内に出没し始め、農家の方々は作物の自衛手段に頭を痛めておられます。 次に鳥獣の保護についてですが、前述の鳥獣保護区により地域保護されています。特に小中学校近隣に良好な林がある場所には学校愛護林が設定され、対馬では7ヶ所設定されています。県では巣箱を無償配付し、設置された巣箱にはシジュウカラなどが営巣し子供の情操教育に大きな役割を果たしています。 その他負傷した鳥獣の引き取りも行っています。対馬島内には残念ながら負傷鳥獣を治療する病院がないため、長崎市へ飛行機で運んでいます。ツミ、オオコノハズクなど日頃見られない鳥が届けられ、その軽さに驚いたこともありました。 最近対馬島内で起こる事件がメジロの違法捕獲及び飼養です。メジロの捕獲は県知事の許可を受け7月から2月の期間捕獲できることになっており、1世帯一羽しか飼養出来ないことになっています。野生鳥獣は野生で生きることが本来の姿でしょうから、野外で観察することをおすすめします。 今日、仕事で現場に行った帰り、クルマの行き交う国道際でカワセミがホバリングしているのを見つけました。こう言う場面に出くわすにつけ、やっぱり対馬の自然はひと味違うなとつくづく感じます。
個人的な対馬の自然将来展望
私の学生の時の恩師がよく言っていました。「人が健康的に生活できる街は大きければいいものではない。猛禽類が○○つがい、人間は○○人」。○○の部分は残念ながら忘れましたが、対馬はこの言葉が当てはまる数少ない場所ではないでしょうか。これから将来に向け地方分権が進み、地方の特質を見極めた行政が必要ですが、対馬の場合「住み易いしまづくり」=「自然と共生」が1つのキーワードだと考えます。失われた自然を求めて都会の人がやってくるだけでなく住み着くような自然・生活環境を持つ「しま」になることを切望します。 ここで、的を射た名言(高田前長崎県知事H6)をご紹介して筆を置かせていただきます。
しま
我々が住んでいるのは 離島ではない しまである しまには文化があり人が住んでいる しまには温かみがありまろみがある
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