No.6と名付けられたメス
1998年12月8日(火)午後6時37分、ワナを設置した地点でモニター観察(注1)を始めて約1時間半後のことでした。それまでの観察では見たこともない、スリムな体形の優しい顔をしたツシマヤマネコが現れて、ワナの中に入って行きました。午後6時39分、安全を確認しながら遠隔操作でワナの扉を閉じて捕獲完了。
環境庁・長崎県が実施しているツシマヤマネコ保護増殖事業の中の飼育下繁殖計画として、4年間にわたる第1世代となる個体の捕獲作業で、初めてメスを捕獲した瞬間です。実際にメスだと確認されたのは、捕獲の翌日に対馬野生生物保護センターで獣医師の先生に麻酔をかけてもらい、外部生殖器を確認したときでした。ツシマヤマネコの性別確認は、特に体毛がふさふさしている冬季にはかなり難しく、100%の確証を得るには捕獲してみてじっくり観察するか麻酔をかけるしかありません。
保護増殖事業の飼育・繁殖施設である福岡市動物園には、昨年度までに3頭のオスが収容され、現在も飼育されています。そこでメスの捕獲・収容が強く待ち望まれていたわけですが、1998年11月までに捕獲した個体は全てオス(注2)でした。これはメスの数が極端に少ないためではなく、オスの方が行動圏の面積が広いうえ性格も積極的なためにワナに入る確率が高いためだろう、と私たちは考えています。 捕獲したメスは健康検査の結果問題となるウィルスの感染もなく健康であることがわかったため、12月22日に福岡市動物園に移送されました。メスの収容により飼育下繁殖計画は新たな段階に入ったと言えます。しかしすぐに2世誕生を期待するのは話が早すぎると思います。何しろメスにとっては初めての土地、動物園にとっては初めてのメス。上記のようにオスとメスでは生態も異なると考えられるため、まずはメスをうまく飼育する技術の蓄積からです。また将来のペアリングの可能性をひろげるために、対馬野生生物保護センターでは2月下旬までにさらにもう1頭のメスを捕獲するべく準備を進めています。<T2>
(注1)飼育下繁殖計画のための捕獲作業では、捕獲したくない個体やイエネコ・テンなどの他種を捕獲してしまうことで現場を乱す事を避けるために、CCDカメラでモニター観察しながら遠隔操作でワナを閉じる方法をとっています。 (注2)飼育下繁殖を目的に捕獲した個体は1999年1月末現在で累計8頭でうち7頭はオス、他に傷病個体として保護収容されたツシマヤマネコが4頭いましたが、これらも全てがオスでした。
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