対馬野生生物保護センター

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環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第6号

 

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上県町立佐護中学校で行われている「総合学習」としての取り組み


上県町立佐護中学校教諭
松崎大樹

佐護地域学習班 ヤマネコ保護を通して地域の自然について考えよう

1.はじめに

 歴史で学習してきたように,日本は,明治以後,欧米の科学技術を学び,先進欧米諸国に追いつくことを目標に,科学や技術・産業を発達させてきました。そして,その豊かな文明に支えられて,今,私たちは豊かな生活を過ごしているといえます。
 しかしながら,視野をもっと広げて考えてみると、これまでの文明は、人間の生活をより豊かに、便利なものにするために、自然を変化させてきたといえます。地形・環境を大幅に変化させ、大量の資源を使って大量のゴミを作り出してきました。
 つまり,こうして生じた環境問題などのように,これまでになかった問題が現代の社会の中にはいくつも生まれ,人間が心も体も健康に,そして幸せに生活するためには,これまでの科学・技術の枠を越えた視点でものごとを考えることが必要となってきているといえます。
 そこで,今年度から佐護中学校において取り組み始めた,新しい学習の形態の一つが「総合学習」であり,今からの時代を生きる生徒達に,次のようなカを身につけてほしいと願い,現在,活動を展開しています。

  1. 自分たちを取り巻く自然や社会についての幅広いことがらに関心を広げ、その中から自分で課題を見つけたり、関心を持ったりすることの出来るカ
  2. そのようにして見つけた課題に対して、自分のカで調べたり、考えたりすることの出来る力
  3. 調べたことやそれについての自分の考えを他の人に伝えるために、まとめたり表現したりする力

 そして,その中の活動実践班の一つが私たちの「佐護地域学習班」なのです。

2.「佐護地域学習班」とは・・・・・

 私たちが住んでいるこの「佐護」という地域は,本当に豊かな自然が今もなお残っている地域といえます。しかしながら,その「佐護」に住んでいる私たちは,どれだけその豊かな自然の素晴らしさや恩恵を認識し,感謝しているでしょうか。かえって,ごく当たり前の生活を送る中で,その自然の素晴らしさや恩恵を忘れてしまっているところはないでしょうか。そこで,もう一度様々な学習や体験活動を通して,この「佐護」の自然の素晴らしさや良さを再発見・再認識しようというのが私たちの「佐護地域学習班」なのです。現在,私たちの学習班には,中学1年から3年生までの男子5名,女子8名,計13名が所属しています。

3.ヤマネコ保護を通して地域の自然について考えよう

 まず,私たち「佐護地域学習班」が今年度最初に取り組んだ内容が,「ヤマネコ保護を通して地域の自然について考えよう」というものでした。私たちが住んでいるこの「佐護」には,現在絶滅が危惧されている貴重な野生生物,「ツシマヤマネコ」が生息しています。この「ツシマヤマネコ」がおかれている現在の状況を学習・把握し,「佐護」の自然がどのように変化しているのか,そして,将来にわたって「佐護」という地域に住む私たちにとって,「ツシマヤマネコの保護」しいては「佐護の自然保護」について何ができるのかを考察していくことがねらいでした。
 しかしながら,「ツシマヤマネコ」という名前は,生徒達も私も知ってはいましたが,詳しいところになると・・・・?という状況でした。そこで,対馬野生生物保護センターに協カ要請をお願いしたところ快い返事をいただきましたので,職員の中島絵里さんとご相談しながら,次のようなプログラムにそって学習を展開していきました。

【プログラム1】(計3時間)

(1)ツシマヤマネコマネコについて学ぼう!

  1. 対馬の自然界における,ヤマネコの位置、動物層についての概要の説明を受け,展示室内を自由散策する。
  2. その後,自由散策の中で感じた,もっと知りたいことや疑問に思った点などを自由に発表し合う。
  3. 発表内容について,説明を受けたり,資料を見ながら,意見を交換し合い,ヤマネコの生態について理解を深める。

※ねらい※ 私達が住んでいる「佐護」に生息する,ツシマヤマネコの生態について理解する。

(2)ツシマヤマネコの保護と環境について考えよう!

  1. 地球規模での環境間題について
  2. ツシマヤマネコの減少と環境の変化について
  3. ツシマヤマネコ保護のために私達にできることとは?

 以上の3つの項目を大きな柱にフリートーク形式で,自由に話し合いを進めていく。また,専門的な知識や説明が必要な場合は,適時補っていく。

※ねらい※ 今日の学習をもとに,これから将来にわたって「ツシマヤマネコの保護」について何ができるのか考察させる。

【プログラム2】(計3時間)

「ツシマヤマネコの生態と特徴」・「ツシマヤマネコの保護と環境」について学んだ知識を,実際に野山に出かけフィールドワークをすることで,体験的に再確認し,確かな知識にしよう。

  1. 目的・内容についての説明
  2. フィールドワークについての諸注意
  3. フィールドワーク

 グループを様々な動物の種類(ツシマヤマネコ(ほ乳類)・昆虫・両生類・鳥類など)に分け,その動物の目から見た佐護の環境という視点で観察・調査を行う。

*ねらい* 「ツシマヤマネコの保護と環境」ということを中心にしながらもフィールドワークを通して,地域の自然を,対馬の「豊かな自然」と「破壊されていく環境」という2面性から観察・調査を行う。

4.生徒達の学習の中から

 生徒達の学習の中から,説明を受けたことや生徒から出た質問を抜粋してみました。佐護の自然やツシマヤマネコのことについて,様々なことを学んでくれたようです。

  • その1 対馬は野生動物の宝庫である。鳥類は日本国内に586種生息しているが,そのうちの約350種の生息が対馬島内で確認されている。なんと約6割である。
  • その2 対馬の野生動植物は大陸型・日本型・共通型・対馬固有型の4つに分類され,大陸の影響を強く受けているといえる。しかし,移入種が増加しており,対馬固有の生態系が破壊されていくおそれがある。(イノシシなど)
  • その3 ツシマヤマネコはベンガルヤマネコの亜種。大陸型に属し,日本には対馬島内にしか生息しないが,近いものは韓国にも生息している。
  • その4 ツシマヤマネコは南に生息しているイリオモテヤマネコなどに比べ,毛がふさふさしており,性格が荒い。
  • その5 ツシマヤマネコは上県町近隣地区に多く生息しているが,美津島町以南では近年確実な生息情報がない。
  • その6 ツシマヤマネコの子供の数は?2~4頭ぐらいと予想されるが,但し自然界で生き残れるのは1頭ぐらいと推測される。
  • その7 ツシマヤマネコの生息数は?現在は100頭未満と推測される。1970年250~300頭→1985~1987年100頭前後→1994~1996年70~90頭→1999年?
  • その8 ツシマヤマネコの寿命は?
    6~7・8・9年だろう(10年未満)→自然界で生き延びることは難しい→イリオモテヤマネコは動物園で13年の記録あり
  • その9 ツシマヤマネコの食性は? 自然界・・・小型のネズミ・モグラ・小鳥・カエル・ヘビ・バッタ。センター内で飼育しているヤマネコ・・・ハツカネズミ・ヒヨコ1日300~500グラム,1週間のうち1日絶食日
  • その10 見つけられたツシマヤマネコの死因 3体→交通事故 2体→襲われた(イヌ?) 1体→寄生虫による衰弱死

5.学習後の感想から

  • 田代貴恵子さん ツシマヤマネコの絶滅のおそれがあり,なぜそこまで追い込まれてきたのかがよくわかりました。ツシマヤマネコの減少には環境の変化が大きく関係あり,その環境を破壊しているのは私たち人間であるということが・・・・。まだ,勉強不足のところがありますが,これからの課題は,人とツシマヤマネコがどのように関わり合っていけば一番いいのかを考え出すことではないかと思いました。
  • 平山佳奈さん ヤマネコは一番佐護近郊に多いことがわかったし,山を歩いてヤマネコの糞などがどのようなものかもわかりました。後,山歩きの中てツシマサンショウウオを見つけました。ヤマネコが年々減ってきているので,減らさないように,犬の放し飼いや,車でひかないように気をつければいいと思います。
  • 江藤啓くん ツシマヤマネコが減ってきている原因をみんなで話し合いました。僕は,「最近道路をよくして交通の便をよくしているから」と言いました。ほかにも,「罠をかけるから。」などといろいろな意見が出ました。道路を開発すると山をどんどん削り取らなければいけないから,ヤマネコの住むところは少なくなってしまうと思ったからです。ヤマネコとの共存を考えていきたいです。それから死因が交通事故が多いから,お父さんとかにもスピードを出しているときには注意していきたいです。これから少しでも,ヤマネコを残すために自分なりに努力したいです。
  • 八島康喜くん 第1回目の学習会では,対馬にどのくらいの動物が住んでいるのかや,ツシマヤマネコの現状が知れてとても良かったです。特にヤマネコは急激に減っていることがわかり,その原因が交通事故によるものが多いことにびっくりしました。その他の原因としても病気や襲われることなどが多いことなどもわかり,これから何をしていけばいいのかを考えるためのいい参考になりました。
  • 平山隆太くん ヤマネコが減少してきているのは僕たちまわりの人間がすごく関わっていることがわかりました。ヤマネコを殺すのも生かすのも,僕達人間次第だということがわかりました。
  • 小宮謙太郎くん ツシマヤマネコが減っていることを聞いて,僕は減ってきているのはヤマネコだけじゃなくて,ツシマヤマネコの餌になる小型のネズミやモグラ,カエル,ヘビ,バッタ小鳥なども減ってきているのではないかと息いました。(対馬の環境が)心配です。
  • 春日亀明日香さん 私はヤマネコに関していろんなことを知りたいと思ってても,なかなか行動に移すことができませんでした。でも今回の学習でヤマネコについて今まで知らなかったことがたくさんわかって良かったです。センターでヤマネコがネズミを食べている姿を見れたのが,一番心に残ったことでした。今度は別の行動をしているときに観察してみたいです。
  • 永野英里さん 私は,ヤマネコについての話を聞いて,今までわからなかったことや詳しく知りたいと思っていたことなどたくさん学習することができ,とても勉強になりました。今回の学習を通して,私たちは,もっとツシマヤマネコや環境のことについて学習し,これから私たちがどのように自然と関わっていくことが大切かを考えることが必要だと感じました。

今回の学習を通して,「佐護」という地域に住む住民の一人として,「ツシマヤマネコの保護」や「地域の自然との共存」などという問題に対して,いつもよりは深く考えることのできる貴重な時間を,生徒一人一人にいただいたような気がします。

6.今回の学習・活動を通して

 今回の学習・活動を通して,まず感じたことは,生徒達の嬉々とした表情,その真剣な眼差しというものは教室の中で見せる以上のものだったということです。最近の生徒達は,TVゲームや流行の音楽,ファッションを追い求め,自然と親しもうという気持ち,自然の美しさや恩恵に感動し,感謝する気持ちが薄らいできているかのように取られがちですが,まだまだ人間として根底に存在する,豊かな自然にふれ,親しんだときの,大きな感動や喜びというものは健在であり,何も変わっていないということを強く感じることができました。確かに,今の生徒達にとって自然に接する機会は少なくなってきています。生活様式の変容と共に,都市部の子供たちだけてはなく田舎の子供たちさえも同様のことがいえるのではないでしょうか。しかしながら,その機会を意図的に作り出せさえできれば,まだまだ「自然を大切な学習の場」として今の子供たちにも提供できるはずであろうし,今でも昔同様,「自然は大切な学習の場」になりうると考えます。そういう意味で今回の学習活動は意義深いものであったと考えていますし,さらに内容を高め,地域に根ざした教育活動の一環として展開できるよう努力していかなければと考えています。
 直接自然にふれることから自然を愛し,自然を育む気持ちが培われ,ひいては環境保護,ツシマヤマネコの保護という姿勢が育ってくるのではないかと考えます。
 最後になりましたが,今回の学習活動をご支援・ご指導いただいた対馬野生生物保護センターの職員の皆様,特に中島絵里さんには深く感謝を致し,この紙面を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。


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