対馬野生生物保護センター

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とらやまの森
環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第6号

 

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生き物の組み合わせの多様性について


 近年、環境問題の中でも「生物多様性」の重要性が強く認識されています。わかりにくい言葉ですが、要は「いろんな生き物が本来の場所にごちゃごちゃと本来の姿で生きていることが、その場所にとってもその生き物にとってももちろん人間にとっても大切なんだ」ということだと思います。生物の種の絶滅は、当然生物多様性の損失だといえますが、それはその種が生きていた場所のみならず、地球全体からの永遠の損失であるといえ、それを避けるためにその種の保全について努力しなければならないのも当然のことだといえます。

 もう少し具体的な話をしましょう。ここ対馬では、現在合計21種の野生哺乳類が記録されています。そのうち食虫目(モグラ類)・翼手目(コウモリ類)・齧歯目(ネズミ類)の小型哺乳類を除くと、いわゆる「けもの」といわれるものは対馬ではツシマジカ・ツシマテン・チョウセンイタチ・ツシマヤマネコのたった4種だけです(他にも移入種としてイヌ・イエネコ・イノシシあるいはイノブタの3種が生息している)。このうち最新(1998)の環境庁のレッドリストでは、ツシマテン(日本固有種テンの対馬固有亜種)が絶滅危惧2類<絶滅の危険が増大しているもの>、ツシマヤマネコに至っては絶滅危惧1A類<ごく近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高いもの>にランクされています。

 対馬が隔離された島であるということも「けもの相」の単純性やけものの半分が絶滅危惧種であることの遠因になっていると思われます。ツシマヤマネコについては日本固有種ではなく、ごく近縁の仲間(注1)がすぐそこに見える朝鮮半島以北にも(おそらく多数)生息していますので、地球規模で見るとベンガルヤマネコという種(あるいはFelis bengalensis euptiluraという亜種)のレベルでは、絶滅のおそれはとりあえず低いのかも知れません。現にIUCN(世界自然保護連合)による種全体のランキングでは、ベンガルヤマネコは最もランクの低い「低リスク」になっています。

 そういう見方でいくと、近い将来、狭い地域(例えば対馬)で分布が認められなくなって(地域絶滅)も、海外から同じ種を(例えば中国のトキのように)導入してしまえば、問題は解決すると考える方々もいるかも知れません。現に北米のオオカミではこのようなことが実際に試みられ、ある程度うまくいっているようです。

 生物多様性という言葉の中には、分類学的な種(メンバー)の多様性と生態学的な群集(組み合わせ)の多様性の2つの意味が含まれていると思います。絶滅により不在となったメンバーの代わりに他地域から同じ種を移入すれば、メンバーの多様性を保つことはできるかも知れません。しかしながら、ふるさとの異なる種の登場による組み合わせの変形は、群集の多様性の損失であるとはいえないでしょうか。対馬独自の自然生態系の中で進化してきた種は、一度失ってしまったら永遠に復活しないのです。 <T2>

 (注1)いわゆるチョウセンヤマネコは、研究者によってはツシマヤマネコと全く同じベンガルヤマネコの亜種として扱われています。

「とらやま」とは

 対馬ではツシマヤマネコ・ツシマテン・チョウセンイタチなど山に棲む中型獣をまとめて「やまねこ」と呼んできたそうです。そしてツシマヤマネコのことは虎毛のやまねこという意味で「とらやま」と呼んで区別してきたとか。昔から親しまれてきたこの「とらやま」が暮らす森がいつまでも残るように、という気持ちを込めて、私たちのニュースレターに「とらやまの森」と名づけました。


とらやまの森第6号

 

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