■概要
熱帯・亜熱帯地域の海を中心に生息する造礁サンゴは、日本で約425種確認されている生き物である。造礁サンゴはサンゴ礁という地形を築く。サンゴ礁のなかではそれぞれの種のサンゴが生息環境を広げるために日々激しい攻防戦をおこなっている。生息域の拡大は、種間の強さ弱さだけによるものではなく、台風や海水温などの気候的要因や、サンゴを食べる他の生き物たちの発生、また人為的な要因などにも影響される。
生徒たちは、サンゴに関する映像を見ながらビデオによる模擬観察を行う。次にサンゴの生態特徴をモデルとしたゲーム(サンゴのテリトリーウォーズ)を通じて、サンゴの生態について学ぶ。ゲームは、成長の早さや環境への適応に特徴をもついくつかの種類のサンゴの1つをペアごとで担当し、グループ対抗で生息域の拡大を競争するもの。台風が来たり、外敵が発生したりするトピックと最終的な生息状況とのつながりを学ぶ。さらに、最終的にサンゴが広がったフィールドにあるそれぞれのサンゴの被度調査をおこなう。最後にグループに分かれて、サンゴの生息域の拡大について学んだことをまとめる。
生徒たちは、様々な種類のサンゴが成長し、生息域を拡大するために活動していることを学ぶ。またその成長や生息域に影響を与える要因として、気象や自然現象、人為的要因などがあることを学ぶ。また生徒たちは、フィールドの状況を把握し、パターンを発見したり観察結果を説明したり、また他のものと比較したりする場合に、数学的手法を使うことが合理的であることを学ぶ。
■プログラムの進め方
ステップ1 (導入) What's coral?
- 生徒たちに、サンゴの生息状況をビデオで模擬観察させる。生徒たちをペアにして、観察した内容や質問などの記録をとる。ビデオ終了後にクラス内で意見を確認し議論をする。(推奨ビデオ:海・青き大自然 第6巻 サンゴ礁に生きる 英国放送協会(BBC)/Discovery Channel(米国)Co-Production) パワーポイント資料「サンゴ15」の活用も推奨できる。 http://interpreter.ne.jp/umibe からダウンロード可。
- ビデオでの模擬観察の進行にあたって、生徒たちが、共生・生息・産卵・刺胞動物・外敵・食性などというサンゴの生態に関する基本的な知識が理解できるようにする。
ステップ2 (Hands On) テリトリーウォーズ
- ペアの生徒たちを4組集めて1つのグループとして、これを4グループつくる。各グループに、「テリトリーウォーズ」のルールを説明し、ゲームを開始する。プロセスシートには、トピックカードが出た順番を記録する。
- ※トピックカード・・・「成長する」ほか次ページルールのトピックが記入されているカード
- ※トピックプロセスシート・・・トピックカードのでた順番を記録していくシート
- グループごとのフィールドシートのマスが全部埋まっても、トピックカードがある限りゲームは続ける。トピックカードをめくりきったところでゲーム終了。
- グループごとで、自分たちのフィールドがどういう結果になったかを発表する。個々グループの発表のあと、そのグループのフィールドシートに類似した実際のサンゴ礁の写真をかかげ、生徒たちの理解を深める。
▲テリトリーウォーズ実施風景
テリトリーウォーズの進行ルール
- トピックカードをめくり、その指示に従ってアクティビティをすすめる。
- それぞれのサンゴで、成長のスピードや影響の受け方に違いがある。 そのルールは以下のとおり。
ミドリイシ(枝サンゴ)
- 「成長する」のトピックカードで3マス広げることができる
- 「台風」のトピックカードで2マス減る
- 「オニヒトデ大発生」のトピックカードで半分消滅。奇数の場合は、4捨5入
- 「シロレイシガイダマシ発生」のトピックカードで2マス減る
- 「3日間の大雨による赤土流れ込み」のトピックカードで2マス減る
- 「海水温30℃30日」で1つを残し全滅
- 「アンカー」のトピックカードで2マス減る
コモンサンゴ
- 「成長する」のトピックカードで2マス広げることができる
- 「台風」のトピックカードで2マス減る
- 「オニヒトデ発生」のトピックカードで1マス減る
- 「シロレイシガイダマシ発生」のトピックカードで0マス減る
- 「3日間の大雨による赤土流れ込み」のトピックカードで2マス減る
- 「海水温30℃30日」で1つを残し全滅
- 「アンカー」のトピックカードで2マス減る
ハマサンゴ
- 「成長する」のトピックカードで1マス広げることができる
- 「台風」のトピックカードで1マス減る
- 「オニヒトデ発生」のトピックカードで1マス減る
- 「シロレイシガイダマシ発生」のトピックカードで0マス減る
- 「3日間の大雨による赤土流れ込み」のトピックカードで1マス減る
- 「海水温30℃30日」で半分消滅。奇数の場合は、4捨5入
- 「アンカー」のトピックカードで1マス減る
キクメイシ
- 「成長する」のトピックカードで1マス広げることができる
- 「台風」のトピックカードで0マス減る
- 「オニヒトデ発生」のトピックカードで1マス減る
- 「シロレイシガイダマシ発生」のトピックカードで0マス減る
- 「3日間の大雨による赤土流れ込み」のトピックカードで1マス減る
- 「海水温30℃30日」で半分消滅。奇数の場合は、4捨5入
- 「アンカー」のトピックカードで1マス減る
- サンゴフィールドシートにサンゴフォトカードが0枚になってしまった場合は、そのまま続ける。「成長」が出てきた場合、はじめ1マスのみ増やす。
- それぞれが成長して他の種類と接して争わなければならなくなったときはじゃんけんをする。基本的に勝ったほうがどの種類であっても1つマス目を獲得できる。ただし、通常のじゃんけんに以下のルールを加える。
- 砂地でのじゃんけん…引き分けの時は、ミドリイシが勝ち
- 砂礫地でのじゃんけん…引き分けの時は、ハマサンゴが勝ち
- 岩礁でのじゃんけん…引き分けの時は、コモンサンゴ・キクメイシが勝ち
- コモンサンゴとキクメイシのじゃんけんで引き分けたら、再戦
- サンゴの生息域を広めることが大切であり、マスが余っている場合にわざとじゃんけんはしない。
- トピックカードがめくり終わったところでアクティビティ終了。
ステップ3 (展開とまとめ) 被度調査
- グループごとのサンゴフィールドシートをつかって、サンゴの種類別の被度調査をする。どの種類のサンゴが何枚あるかを数えさせ、50枚が100%であるから、何枚なら何%となるかを計算させ、それをトピックプロセスシートに記録する。
- グループで、トピックプロセスシートと照らし合わせて結果からの考察の議論をおこなわせる。
- 最後にグループに分かれて、サンゴの生息域の拡大について学んだことをまとめて模造紙に記入させ、それをクラスに掲示する。
【このプログラムを通しての学び】
- サンゴは種類によって成長に特徴がある。
- サンゴが成長して生息域を広げることは、違う種類のサンゴとの争いや自然環境、人為的なものなどさまざまな要因の影響を受ける。
- フィールドの状態を客観的に把握するために、数学的・統計的手法が使われる。
ステップ4 (さらなる探究) 教室からフィールドへ 【沖縄修学旅行にて】
- 実際のサンゴ礁がどういう状況になっているか、自分の目で確かめるために、修学旅行でサンゴ礁の観察会やスノーケリングを実施する。
- 観察会やスノーケリングのインストラクターに、プログラムをしているサンゴ礁にこれまで起こってきたことなどを質問させる。目の前にしているサンゴ礁の状況と、その場所がどういう変遷をたどってきたかという情報と、アクティビティで学んだことを重ね合わせて考えさせる。アクティビティでおこったことと、実際の自然現象の結果との違いを考えさせてみると興味深い。
- 可能であれば科学者からの支援を得て、被度調査をおこなってみるとよい。ステップ3でおこなったようなやり方を、実際にもおこなうことがわかる。
- 実際のサンゴ礁の科学者たちから話を聞くことができれば、さらに興味は深まる。
■プログラムツール(クラスを36人と想定して)
Hands On テリトリーウォーズ 【1グループ9人につき ×4グループ】
- 10cm四方のマス目50個に区切られた縦50cm横100cmの「サンゴフィールドシート」1枚
砂地・砂礫地・岩礁でマス目の色を変えて、グラデーションをつける。 - 10cm四方の4種類のサンゴの写真「サンゴフォトカード」(4種×18枚) 1セット・72枚(計4セット・288枚)
種類は、ミドリイシ・コモンサンゴ・ハマサンゴ・キクメイシ。 - トランプサイズくらいの「トピックカード」 1セット・25枚(計4セット・100枚)
8枚は「台風」、8枚は「オニヒトデ発生」、4枚は「シロレイシガイダマシ発生」、12枚は「赤土3日間の大雨による赤土流れ込み」、4枚は「海水温30度30日」、8枚は「アンカー」、残りの56枚は「成長」と書く。 - トピックプロセスシート 1枚
- テリトリーウォーズルール表 1枚
- サンゴの種類ごとのA5ルール表(4種類) 1セット・4枚(計4セット・16枚)
▲サンゴフィールドシート
▲トピックカード