■概要
沖縄の森は、イタジイをはじめとした亜熱帯特有の常緑広葉樹が優占し、希少な動植物の宝庫として知られる。亜熱帯性気候に属する沖縄は、雨量も多く、この雨が豊かな生物層を支える一因にもなっている。降り注いだ雨は、木々を伝い、大地に染み込み、沢を流れ川となり、やがて海へとつながる。
森から流れる川の真水は、河口域で海水とまじわり、汽水域という環境をつくる。また、川の流れにのって流れてくる土砂は海底に堆積し、泥地などの特異な環境を形成する。こうして、森と川の存在は、汽水域や泥地など生態系の多様性をつくり出すことに寄与し、これらの生息環境は、サンゴ礁域に暮らす様々な生き物たちのゆりかごとしても機能している。
また、視点を変えると山のふもとには人の暮らしが営まれている。その暮らしのなかから排出される水も、ゆくゆくは海へと流されている。
生徒たちは実際に訪れる予定の森や周辺に広がるサンゴ礁の海の様子のスライドを見て、自然観察をおこない、「森と海のつながり」について学ぶ。その「つながり」によって、実際の森と海ではどんなことが起きているのかを、様々な実験を通じて理解を深める。
生徒たちは、一見違う自然である「森」と「海」が実は水によってつながっていることを知る。沖縄の赤土問題を題材としながら、森が海に与えている影響を知り、森は本来の姿、機能を取り戻す必要があることを学ぶ。さらには、森と海の間にある人の暮らしが、海に大きな影響を与えていることを深く掘り下げ、自分達のライフスタイルを見つめ直すきっかけを得る。
■プログラムの進め方
ステップ1 (導入) 「つながる」ってなんだろう?!
- 生徒たちには、実際に訪れる予定の山の様子のスライドを見せて、どんな木が生えているのか、どんな生き物がいるのかなどを観察してもらう。山頂からの眺望のスライドでは、「山の上から見えるもの」を生徒たちに問いかけ、「森、海、まちなみ、川」などの意見を引き出す。
- 次にサンゴ礁の海の中の様子や海中生物のスライドを表示する。サンゴ礁における生物の多様性を伝える。山があり、川があることで生まれる環境の多様性についても説明する。また、赤土の流出問題にもふれる。
- 生徒たちはディスカッションをおこない、「気付いたこと・わかったこと」をまとめる。「森と海のつながり」に関するものを取り上げ、説明を加える。
- 森と海のつながりを考えるにあたり、「つながる」ということは、具体的にどんなことなのかを考えてもらう。森と海を「つないでいるもの」と、そのつながりによって「送られるもの」を考えてもらう。
▲森で海を考える実施風景
ステップ2 (Hands On) 森ではなにが起きているんだろう?
- 山に雨を降らせる模擬実験をおこなう。生徒たちには、グループごとに実験容器を用意し、準備していたカップで土の山をつくり、霧吹きやジョウロなどを用いて土の山に雨を降らせる。実験の考察として以下の内容を伝える。
- 木々がしっかりと根を張ることで、土砂の流出を防いでいる。森の木々が山を守っている。
- 沖縄では森の木を伐採して畑にしたり、広大な米軍基地や演習場が森を切り開いてつくられているので、場所によっては、大雨が降ると山から大量の赤土が流れ出ること、そしてこれらはサンゴ礁の海へと流れ出ている。
- サンゴの上に赤土が積もると、サンゴは呼吸ができなくなったり、大切な栄養源となる共生藻(褐虫藻)による光合成もできなくなってしまい、サンゴが死んでしまうこともある。
- コンクリート三面張りの河川を考える実験を行う。アルミ箔でつくった水路を山に立てかけ、水を流す。実験の考察として以下の内容を伝える。
- コンクリート三面張り河川は、治水のために整備されたが、このために森からの赤土が一気に海に流れている。
- 自然海岸のろ過機能の実験を行う。ろ過器に赤土が溶けた水を少しずつ流し入れ、ろ過器を通った水の変化を観察する。実験の考察として以下の内容を伝える。
- 自然の海岸は、浄化の役割も担っている。
- 沖縄の海岸現状(護岸や人工ビーチの整備が進み、自然の海岸はとても少なくなっている)。
▲森で海を考える実施風景
▲森で海を考える実施風景
ステップ3 (展開とまとめ) 森と海の間にあるもの
- 山頂からの眺望のスライドを表示し、生徒たちに森と海の間にあるものは何かを問いかけ、この間には、まち並みや畑、工場などつまり「人の暮らし」があることを引き出す。
- 私たちの暮らしのなかで発生している排水にはどんなものがあるのかを、さらにそれぞれの排水がどこにいっているのかをできるだけ具体的に考え、各グループで議論する。(例:台所のからの排水⇒家庭の排水口⇒下水道⇒終末処理場⇒海)。
- 各グループに発表してもらい、意見を黒板に書き出す。結果を確認し、全ての排水は、ゆくゆくは海に流されていることを加える。クラス全体で、こうした現状においてどんな問題があるのかを議論する。さらに、どうしたら改善できるかを具体的に考える。
- 最後にグループごとに、学んだことをこのプログラムを通しての学びにまとめ模造紙に記入させ、それをクラスに掲示する。
【このプログラムを通しての学び】
- 沖縄では流出した赤土がサンゴ礁に負荷をかけている。
- 森と海の間には人の暮らしがあり、その暮らしも海に影響を与えている。
- 実験は何らかの予想や仮説を検証するために、実際に物事を確かめる手法である。
ステップ4 (さらなる探究) 教室からフィールドへ 【地元の森で考える】
- 地元の森と海のつながりについて考える。近所の川をさかのぼると、どこにたどりつくのか?地図を使って、川の長さや森や海までの距離などを調べてみる。可能であれば、水源となる湧水を探して実際に訪れてみたり、また、川の水がどんなふうに、どこに流れていくのかを追いかけてリサーチするとよい。
- 自分の家庭から流される水には、どんなものがあり、それらはどんなふうに処理されて、どこに行くのかを調べてみる。調べた結果をもとに、気を付けたり、改善できることはないかを家族で話し合ってみよう。終末処理場への見学もお勧めである。
ステップ4 (さらなる探究) 教室からフィールドへ 【沖縄修学旅行にて】
- 修学旅行でトレッキングを実施する。実際に亜熱帯の森やそこに暮らす生き物を観察し、途中では森とサンゴ礁の海とのつながり、さらにはその間にある「人の暮らし」も実際に確かめることができる。自分たちで見えるものをメモや写真撮影で記録し、水によるつながりを考えた場合、それらがどのように関わり合っているのかを考察する。わからない施設やそれらとのつながりについては、インストラクターに質問させる。
- 沖縄の集落の水源を訪ねる。島国であるため、水の確保が難しく、古くより水を大切にしてきた沖縄の人々の生活を垣間見る。集落のなかに今もひっそりと残る井戸や湧水を巡って、沖縄の水環境を探り、美しいサンゴ礁の海にそそぐ川の現状を認識する。
■プログラムツール(クラスを36人と想定して)
Hands On 森ではなにが起きているんだろう? 【1グループ6人につき ×6グループ】
- 土(山をつくるための土−0.5リットル程度) 1ケ
- カップ(山の成型用カップ) 1ケ
- 実験容器(プラスチック製の箱 70cm×100cm×20cmくらいの大きさ) 1ケ
- 霧吹き 1ケ
- ジョウロ 1ケ
- コップ(大雨用) 1ケ
- アルミホイル(三面張り河川モデル) 1ケ
- 水と赤土を入れたペットボトル(500ml) 1ケ
- ペットボトルろ過器 1ケ
- 2Lペットボトルを用意し、上部を切り取り、底には直径5mm程度の穴を5〜6ヶ所開ける。砂、礫、少し大きめの礫の順番にペットボトルに5cm程度の厚さになるように詰める。