■概要
熱帯・亜熱帯地方の潮の満ち引きがある沿岸の潮間帯(河口汽水域や干潟)にマングローブは群生する。その種類は全世界で70〜100種と言われている。
マングローブは個性豊かな植物である。地表より上に根を出す空気根をもつものや、タコの足状に根をはるものがある。また種子をからだにつけたまま発芽させ成長させる胎生種子など。その中でも最も特徴的なことは、普通の植物では不可能な塩分の混じった水の中で成長できるということである。
マングローブ域はその独特な根がはびこることにより、波の影響が緩和されたり、大きな生き物がはいってこられなくなっているので、幼魚と幼生たちの生育場所となっている。またマングローブは海岸沿いに群生することから防波堤となっていて、人の生活にも貢献している。しかし近年では、ブラックタイガーなどのエビ養殖場とするための開発や、木炭の材料とするための伐採が主な原因となり、東南アジアを中心としてマングローブ林の破壊が問題になっている。
生徒たちは、まず汽水域ではどういう現象がおこっているのかを探究する。マングローブの生息環境を知り、この環境で生息するために必要な機能について議論する。次に、マングローブに必要な機能を理解するために、淡水と海水による浸透圧実験を実施し、海水から淡水を区分けするにはどうすればできるかを考える。結果、海水から淡水にするには熱を使わずにとりだすことは、非常に難しく大掛かりな装置が必要であることを学び、マングローブが、とても不思議で大変なことができる植物であることを認識する。また、沖縄に生息するマングローブ5種の特徴を記憶し、スライドの写真と照合する識別コミュニケーションゲームをおこない、種の見分け方について学ぶ。最後に、これまでのプログラムで学んだことをまとめ、世界のマングローブ林で起きている問題を新聞や文献などから知り、自分たちがどのように行動すれば良いのかを議論する。
生徒たちは、海水と淡水が交わる場所を汽水域ということを知り、その場所を含め熱帯・亜熱帯地域にはマングローブが群生していることを学ぶ。普通の植物とは違う特徴的な生態を持っていること、そして私たちの暮らしとマングローブには関わりがあることを学ぶ。マングローブの特徴をつかむための科学的実験から浸透圧や逆浸透膜についても学ぶ。
■プログラムの進め方
- 生徒たちに海水と淡水の違いや、それぞれに棲む生物や植物の違いについて議論させる。環境が違うとそこに適する生態があることを認識させる。海水と淡水の比重の違いについても説明する。
- 熱帯・亜熱帯地方の河口汽水域の塩性湿地にはマングローブという植物が分布していることを、スライドを用いて紹介する。生徒から「普通の植物は塩水の場所では育たないが、マングローブは育っている」という意見を引き出し、ステップ2ではそこに着目した実験をおこなうと伝える。
- 生徒に、陸に生える植物に海水をかけるとなぜ枯れてしまうのかを考えさせて意見を聞く。
- 浸透圧実験をおこなう。実験結果をもとに、海水が細胞膜を介して水だけを引き込もうとすることから、通常の植物では水分が奪われて枯れてしまうことを説明する(浸透圧の違いが原因)。
- 日常生活でも見られる浸透圧の違いによって引き起こされる現象を紹介する。
- 野菜を漬物にするとき
- サラダを作るときに、水につけるとシャキシャキになる
- ナメクジに塩をかけると溶けてしまう
- 梅酒をつくるときに、お酒と砂糖をいれる など
- マングローブの特徴である“普通の植物では不可能な、塩分の混じった水の中で成長できる”ということを再確認した後、どうしたら海水から淡水を抽出することができるかを考えて議論する(熱を使う以外の方法を探る)。
- 発言されたアイデアで実現できそうなものを実験してみる。おそらく、ろ過装置を使うという意見が出てくるだろうから、濾紙に海水を通してみる。
- マングローブのように簡単にはできないことをレクチャーし、マングローブの不思議について強調する。
- 海水淡水化施設を紹介する(人が海水から淡水を得るには、とても大掛かりな装置が必要なことを伝え、実際にその施設があることも紹介する)。
- マングローブとは、熱帯から亜熱帯地域の海岸干潟や河口汽水域の塩性湿地に広がる木の総称であり、マングローブと呼ばれる木は全世界で70〜100種あることを説明する。その中で、沖縄に分布するマングローブは7種−オヒルギ・メヒルギ・ヤエヤマヒルギ・ヒルギモドキ・ヒルギダマシ・ニッパヤシ・マヤプシキであることを伝える。
- 種別マングローブ特徴カードをグループに配布する。グループで担当分けをするなどして、種ごとの特徴をグループで記憶する。おおよそ記憶ができたらカードを回収する。
- マングローブの種ごとの特徴を際立たせた部位の写真を30枚程度、順番に見せていく。グループでその部位写真を見て、そのマングローブ種が何かを決め、記録する。
- 生徒たちが答えを決めたのを見計らって、1写真ごと正解を伝え、自分たちで正解/不正解を記録させる。その種である理由を、写真を見せながら説明する。
- 最後に全Photo Questionの正解数から正解率をださせ、どのグループが一番しっかり特徴をおさえたかを評価する。
▲マングローブ
- 葉 : 長楕円形 ・ 先端尖る ・ 葉の基部やや楔形 (くさびがた)
- 根 : 呼吸根 ・ 地表面に屈曲して膝状に出る (屈曲膝根)
- 果実 or 胎生種子 : 太め ・ 散布体は細長い楕円状で縦に走る浅い溝
- 花 : 赤色、裂片は11〜12枚
- 高さ ・ 幹 : 10m程度 ・ 熱帯では20m ・ たくさんの皮目
- その他 : 内陸側に発達 ・ 奄美大島が北限
- 葉 : 長楕円形 ・ 先端は円い
- 根 : 板根状
- 果実 or 胎生種子 : 細め ・ 表面はなめらか
- 花 : 花のがく裂片と花びらは5枚
- 高さ ・ 幹 : 約5m ・ 赤みがかった木肌
- その他 : 海水より汽水に生育 ・ 木肌が赤みがかる ・ 鹿児島本土が北限
- 葉 : 楕円形 ・ 先端は針状に尖る ・ 裏に無数の黒点
- 根 : タコあし状 ・ 支柱根
- 果実 or 胎生種子 : 褐色で大きい ・ 散布体は長く多数の皮目、著しくざらつく
- 花 : 花弁は白色 ・ がく裂片は三角形 ・ 花弁ともに4枚
- 高さ ・ 幹 : 約8m
- その他 : 泥地底質、海側に生育 ・ 沖縄島が北限
- 葉 : 小さく互生 ・ 光沢 ・ 葉枝の先に集まって斜めから垂直にたつ ・ 肉質、卵形 ・ 先端近くが広く先凹
- 根 : 呼吸根の発達は著しくない ・ 地上部に露出した側根が長く匍匐 (ほふく) ・ 側根から枝分かれした根を地下に下ろす
- 果実 or 胎生種子 : 緑色 ・ 長楕円形 ・ 長さ約1〜1.5cm
- 花 : 白色 ・ 緑色のがく筒
- 高さ ・ 幹 : 約5m
- その他 : 陸化した高まった湿地に生育 ・ 沖縄島が北限
- 葉 : 対生 ・ 塩類腺
- 根 : 泥土中を水平に走り、多数の呼吸根を垂直に出す ・ −直立根 (筍根) ・ 高さ3cm以下 ・ 根の表面はなめらかで弾力性に富む ・ 根に葉緑素をもつ
- 果実 or 胎生種子 : 有毛で卵円形
- 花 : 花べん5枚 ・ 橙 (だいだい) 色
- 高さ ・ 幹 : 1〜3mの低木 ・ 熱帯では高木になる
- その他 : 河口前縁、海水の影響の強い環境に生育 ・ マングローブ種の中で耐塩性が最も強い ・ 宮古島島尻が北限
- グループごとにA4程度の用紙を使って、ステップ1であげたマングローブの不思議と、2で知ったこと逆浸透の難しさ、3で学んだマングローブと環境の関係をつなげて整理する。
- 世界のいろいろな場所のマングローブ林に起きている問題を、新聞や文献情報を提供することで知り、自分たちとの関係を考え、どう行動すれば良いのかをクラスで議論する。
- 最後にグループに分かれて、このプログラムを通して学んだことをまとめ模造紙に記入させ、それをクラスに掲示する。同時に、用意している「このプログラムを通しての学び」を掲示し、クラス全体で確認する。
- 熱帯・亜熱帯地方の潮の満ち引きがある沿岸の潮間帯にはマングローブ林がある。マングローブは塩分を含む水で育つことができる。
- マングローブは海水から淡水を区分できるという、人が行うことが難しい機能を持っている不思議な植物である。
- マングローブにはいくつかの種類があり、環境によって生育する種類が違う。これは他の生き物たちの生息域にも影響している。
- マングローブ林が人為的な開発で伐採されて、どんどん失われてしまっている。
- 修学旅行で、数種類のマングローブが群生する干潟で種類を見分けさせる。特徴をしっかり捉える観察力が備わっているかを見るのに良い機会となる。
- 実際のマングローブの研究者たちから話を聞くことができれば、さらに興味は深まる。
■プログラムツール(クラスを36人と想定して)
- 浸透圧実験装置 1ケ
- 500mlペットボトル 2本
- できる限り細いストロー 2本
- プラスチック接着剤
- カッター
- 千枚通し
- セロハン
- 海水(塩水)
- 淡水(水道水)
- マングローブ部位写真(5種×6部位) 1セット・30枚
- 種別マングローブ特徴カード(5種×6部位) 1セット・30枚(計6セット・180枚)
▲浸透圧実験装置
▲種別マングローブ特徴カード