対馬野生生物保護センター

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とらやまの森
環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第5号

 

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ツシマヤマネコの親戚紹介


イリオモテヤマネコと西表野生生物保護センター

西表野生生物保護センター: 環境庁自然保護局
沖縄地区国立公園・野生生物事務所 西表分室
阪口法明(さかぐちのりあき)

西表島の自然とイリオモテヤマネコ

 西表島は北緯24度20分、東経124度、日本の最南西端に位置し、台湾とわずか200kmしか離れていません。亜熱帯性気侯を示し月平均気温は冬でも17℃あります。このような西表島には特異かつ多様な熱帯由来の生物や自然環境がみられます。周辺の海域はサンゴ礁が発達し、特に東方の石垣島との間には東西20km、南北15kmに及ぶわが国最大規模のサンゴ礁(石西礁湖:せきせいしょうこ)が広がってます。陸域では仲間(なかま)川、浦内(うらうち)川など大きな河川の河口部に広大なマングローブ林が、低地から山頂部にかけては亜熱帯照葉樹林が発達しています。

 対馬に朝鮮半島、大陸由来の生物が生息するように、西表島にも東南アジアや台湾などとかつて陸続きであった頃渡来したと考えられる生物が分布しています。イリオモテヤマネコはその代表格と言えます。

 そのイリオモテヤマネコとはどのようなヤマネコでしようか?ツシマヤマネコと比較しながら説明します。イリオモテヤマネコはツシマヤマネコ同様中国や東南アジアなどに広く分布するベンカルヤマネコに近縁な小型ヤマネコで、総面積わずか284平方km(対馬の35%しかありません)の西表島に約100頭が生息するのみです。またツシマヤマネコの主要な食物がアカネズミなどの小型ほ乳類であるのとは対象的に、イリオモテヤマネコはクイナなどの鳥・トカゲ・カエルなど様々な動物を食べています。

 イリオモテヤマネコが好んで生活する場所もまたツシマヤマネコと似かよっており、標高200m以下の低地に主に生息していますが、そのような場所は私たちヒトの生活場所でもあり、畑や牧場ができることによりヤマネコの採食場が減少したり、道路ができることによってヤマネコの交通事故(ロードキル)が発生したりというような問題が起きています。特に交通事故に関して1981年以降1995年まで年平均2頭が死亡しています。

 生息数わずか100頭の上、種の維持を脅かす要因が存在することから、イリオモテヤマネコは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(1993年)」に基づき「国内希少野生動植物種」に指定される(1994年)とともに「イリオモテヤマネコ保獲増殖事業計画」が策定されました(1995年)。このあたりの経過はツシマヤマネコと同じです。このような希少野生生物保護の法制度上の整備と時を同じくし1995年7月、環境庁と沖縄県により設立された西表野生生物保護センター(以下、センターと言います。)はまさにイリオモテヤマネコ保護の拠点としての役割を負うこととなりました。

西表野生生物保護センターの活動

(1)イリオモテヤマネコ保護増殖事業

 野生生物保護のためには、対象種の生息状況を詳細に把握しモニターすると同時に、得られたデータから効果的な保護対策を図っていく必要があります。

 イリオモテヤマネコ保護事業は1979年から給餌事業として始まりましたが、実質的な情報収集を伴うモニタリングが開始されたのは1985年からです。現在、自動撮影・ラジオトラッキング・病理検査・目撃情報収集により生息個体数、繁殖、個体の健全性、分布状況等がモニターされています。また、大学などの研究機関と連携をとり、より詳細な研究のための支援も行っています。

 保護対策として、大きな死亡原因であるロードキルの防止のため1995年度より関係機関の共催で交通事故防止キャンペーンを実施しています。交通事故が多発する冬期(12月~2月)に街頭放送や紙面による広報活動、説明会や観察会の開催、地元の小中学生からヤマネコ保護のための標語や作文の募集などを実施しています。幸い、キャンペーン開始以降、交通事故死は減少傾向にあります。他に生息地の保全やノラネコなどヤマネコに影響を及ぼす動物などの対策も緊急な課題となっています。

 また、センターでは交通事故により負傷した個体などのリハビリテーションも実施しています。現在オスのヤマネコ1頭が野外ケージ内に飼育されています。ケージ内のヤマネコは監視カメラによりモニターされ、行動がチェックされています。

(2)普及啓発活動
 センターの展示室には「西表の自然史」をテーマに、サンゴ礁・マングローブ・亜熱帯照葉樹林など多様な自然を紹介したコーナーと、「イリオモテヤマネコの世界」をテーマにヤマネコの暮らしぶりや保護についてこれまで得られた科学的データをもとに解説したコーナーがあり、西表島の自然学習と野外活動のための情報収集の場として来館者に利用されています。また西表島の地図が描かれた生き物掲示板というコーナーがあり、来館者はそこに西表島で目撃した野生生物情報を自由に書き込めるようになっています。そのような情報は利用者への情報提供だけでなく、分布を明らかにする研究資料としても貴重なものです。年間約18,000人に利用されていますが、利用者は地元の小中学生、観光客、研究者と様々です。

 さらに積極的な情報発信のため特別展や講演会も企画しています。研究者を招き講演と観察会をセットで開催したり、地元に昔から伝わる自然の素材を用いた民具や玩具作りの講習と展示を行うなど西表の自然の中で培われた文化を体験学習する場を設けたりもしています。

おわりに

 自然や野生生物保護は決して一方通行的施策では不可能で、地域の人々の理解と協力が得られて初めて可能となります。このことを念頭におき地域の人々とヤマネコが共に末永く暮らしていけるような活動を展開していきたいものです。また「対馬野生生物保護センター」とは貴重な日本産ヤマネコを保護する兄弟センターとして今後も協力し、ともに歩んでいきたいと思いますのでよろしくお願いします。


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