|
[ ホーム ] → [ とらやまの森バックナンバー ] → [ とらやまの森第11号3ページ ] |
とらやまの森第11号 |
|
やんばる野生生物保護センターの紹介 |
---|
沖縄にある「やんばる野生生物保護センター」に勤務されている澤志泰正さん(環境省やんばる自然保護官)と2000年11月にゆっくり会う機会があり、お互いにセンターの情報交換をしました。その際に聞いた話をやんばる野生生物保護センターの紹介という形でとりまとめてみました。写真も送ってもらいました。ありがとうこざいます。 <T2> やんばるとは沖縄というと亜熱帯の島、青い海を想像する人が多いことと思います。亜熱帯の「森」をイメージする人はあまりいないことでしょう。やんばるには地球上でも狭い範囲に限定された亜熱帯の森があります。 やんばるとは漢字で「山原」、沖縄島北部の山がちな地域を指します。やんばるの範囲は人によってとらえ方が様々で、中部のリゾート地として有名な恩納村(おんなそん)以北という人もあれば、名護市以北、それに国頭村(くにがみそん)・大宜味村(おおぎみそん)・東村(ひがしそん)の3村だけだという人もいます。琉球王朝時代の琉歌や方言、歴史的な植生などを考慮すると思納村以北は間違いなくやんばるということになります。しかし現在、やんばるの希少野生生物を代表するノグチゲラ、ヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネの3種のやんばる地域固有種が生息する地域となると国頭村・大宜味村・東村の3村とかなり限定された地域になります。 この3種のうち、ノグチゲラは100年ほど前には名護市の山中で目撃されていますし、ヤンバルクイナはヒナの化石が沖縄島南部の地層から発見されています。現在は奄美大島にしかいないルリカケスや、オオトラツグミと考えられる大型のツグミの化石も南部の地層から発見されているので、大昔のやんばる(あるいは奄美)的環境は奄美大島から沖縄島までの琉球列島中部の島々に広がっていたのに、人間活動によって縮小してきたことが分かります。 現在の最もやんばるらしいやんばる(国頭村・大宜味村・東村)は、多種多様な生物が狭い範囲で生息している地域ですが、同時に様々な人間活動も営まれている地域でもあり、多種多様な生物を保護しながらも地域内外の住民の利活用も促進する必要もあるという微妙な地域です。 さて、多種多様な生物が生息すると一言に書いてしまいましたが、対馬や『とらやまの森第10号』で紹介されている奄美と同様、大陸や日本列島と古い時代に分離しそこで独自に進化した固有種、他地域では絶滅し見られなくなった遺存種、それに北限種や南限種が混在しています。しかし、いったいどのくらいの種類の生物がすんでいるかというとほとんど分かっていない状況です。 たとえばミミズ。2000年には日本最大のミミズ2種が新種記載されましたが、研究者によるとやんばるでこれまでに50種以上のミミズを確認したものの日本本土と共通するものはなかったといいます。大陸のものをよく調べなければいけないそうですが、少なくとも全て日本新記録であり、琉球列島と大陸との分離年代が古いことを考えると、将来その中の多くが新種となる可能性が高いのではないでしょうか。土壌動物や昆虫にはまだまだ未記載の種が存在することは間違いありません。 一方、代表的な種の生態についてはどうかというと、これも多くの動植物でよく分かっていない状況です。ヤンバルクイナやノグチゲラの行動圏もヤンバルテナガコガネの餌として有効な菌類の種類の情報もまだ不足しているのです。 このようなやんばるにすむ野生生物を保護するには、その生息環境を保全するのはもちろんのこと、基礎的な研究を推進しどのように保護を進めていくのが効果的か知る必要がありますし、それらのデータを研究者の間で知るだけでなく地域内外の人にも分かりやすく解説し、やんばるの自然の豊かさを間近に感じてもらう必要があります。そこで、1999年4月29日(みどりの日)にやんばる野生生物保護センターはオープンし、活動が始まりました。 やんばる野生生防保護センターの活動(1)希少な野生生物の保護と研究の推進 このうちノグチゲラは1998年から保護増殖事業に着手し、その一環として異なる色の組み合わせの足環を取り付け、個体識別ができるようにしました。この2年間で約50羽に足環が施されています。これらの行動を長期間にわたって調べ、繁殖期、非繁殖期の行動圏や若鳥が移動・分散する範囲を明らかにし、ノグチゲラの生息をより安定させ、繁殖の継続をより確実にできる方策を探っていきたいと考えています。 一方、ヤンバルテナガコガネはまだ保護増殖事業には着手していません。しかし、1998年に1個体、1999年に1個体の合計2個体がセンターに運び込まれました。どちらの個体も外灯に飛来したもので、他の甲虫の発生時期と重なるためマニアや業者による混獲を避けるための保護を行いました。1個体目は以前から知られていた巣となるウロのある木に放虫しました。そして、このウロ内部の環境についてデータロガーを設置して長期間にわたって気温と湿度を測定しようと考えていたのですが、その後何者かによってウロが荒らされてしまいました。そこで2個体目はより奥山の一般の人が進入できない場所に放虫しましたが、生息環境調査のめどはたっていません。密猟対策として、発生時期にやんばるの民宿や学校にポスターを掲示してもらい一般の人による注意を喚起しています。 センター来館者から頂いた生きもの情報はコンピューターに全て入力し、位置情報等を整理し、保護上確認位置をお知らせしない方がよいものを除いて来館者に情報を還元しています。今後はこの情報を元にどのような保護策を取れるか検討していきたいと思います。たとえば、ヤンバルクイナとリュウキュウヤマガメの目撃情報はそれぞれ68件と38件です。その中には路上斃死も含まれており、データを収集分析することで事故を未然に防ぐことができるようになるかも知れません。 (2)普及啓発 センター展示室の来館者は年間1~2万人。学校単位での利用も多く、遠足や地域学習の一環として、また県外からの修学旅行による利用もされています。またセンターが集落に隣接しているため、子どもだけが来館することも多く見られます。自然観察会や講演会、子どもパークレンジャーなどの関連行事も行っており、「遊び庭(アシビナー:中庭)」では、地域の人達が主催したフォークコンサートも開かれました。 おわりに やんばるでは地域内の開発行為のほか、マングースやミナミイシガメなど様々な移入種が存在し、捨て猫や捨て犬、ゴミなど深刻な悩みとなりつつあります。それらが個々の希少種や生態系に及ぼす影響が心配されています。また広大な米軍基地の存在などやんばるだけでなく日本全体で考えるべき問題もあります。 |
とらやまの森第11号 |
|
[ ホーム ] → [ とらやまの森バックナンバー ] → [ とらやまの森第11号3ページ ] |