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5月31日(土)、対馬野生生物保護センターのレクチャールームで、
第11回自然教室「楽しく自然を学ぶために~環境教育における児童書の役割~」が開催されました。
講師は、福音館書店の書籍編集部長・大和茂夫さんです。
絵本作りへのこだわりと、絵本作りを通して子どもたちに伝えたいことを、熱く語っていただきました。
福音館書店は、数々の絵本を出版し続けています。児童科学書の出版への取り組みも早い時期に始まっていました。「絵本とは、親と子の心をつなぐひろば」という考え方が福音館の本作りの基本にあります。
小学3年以下とそれ以上では本の作り方が全く違うそうです。科学者を作るための本作りではなく、次の一歩、もっと広い世界へのいざないになるような本を作ることが望ましいと思います。絵本は3世代読まれてはじめて一人前といわれています。増刷するのが当たり前なのが福音館の本です。「ベストセラーは作らなくてもよい、ロングセラーを作りなさい」という方針で本作りがされています。
「草花の本」は、30年間読まれていますが、大和さんが本作りに関わった最初の作品です。登山をするからということで科学書の部門に配属されたものの、最初は草花についての知識もなく、この本にはなるべく身近な植物を少ない点数で入れることをこころがけたとのことです。見開きで同じ場所の四季の移り変わりが描かれており、子どもの前に植物の世界のパノラマが広がります。そしてその中に描かれている場所がだれの家の近くにもあるようなちょっとした草地を描いていることで、身近な場所に広がる自然のすばらしさが伝わってきます。
「地球はえらい」は環境問題をとりあげている本です。ただ単にあれは悪い、これは悪いということではなく、自然の循環を感じることや人間のやってきたことなどを感じ取ることができればいいなという想いでつくられたそうです。薄い絵本ですが制作には10年かかっています。
最後のページには直径20cmの円が描かれていますが、その線は0.3cmです。この絵があらわしているのはもしも、地球が直径20cmだとしたら多く見積もっても生物の棲める範囲は0.3cmの線にしかならないことを表しています。広いと思っている地球もこうしてみるととても狭いものだというメッセージがこめられています。
「冒険図鑑」は小学校中学年以上をターゲットにしている本です。厚さもあり、内容は野外活動に必要だと思われることはマッチで火をつけるところから、料理、遭難した時の対応まで全て網羅されています。しかし、この本を野外に持ち出したとしてもきっと役にはたたないのではないかということです。ではなぜこの本を作ったのかといえば、外へ出るためのきっかけとして、この本が誘い役になればということです。
「町のけんきゅう」は副題に「世界一の研究者になるために」とあります。この本は町の中でみつけたことをひとつひとつ丁寧に調べた記録をあつめてあります。例えば、植木鉢、しかもお釜や風呂桶など、以前は植木鉢として使用していなかったものを転用したものだけを集めた記録、お風呂屋さんでしらべた男湯での下着調べなど、なんでもしらべて、観察することが研究の第一歩だということが伝わってきます。目の付け所で世界でたった一人だけの研究者にはいくらでもなれるということです。
「はなをくんくん」は森の動物たちが冬眠していて、遠くのかおりに叙所に目覚めてゆくお話です。字が少なく、両親がこどもに読み聞かせをするような本です。この本はガガーリンが世界で初めて宇宙へ行った後、アメリカで科学者をそだてるための推薦図書として選んだものだということです。科学という言葉ではもっと知識偏向な本を選びがちなのが日本ですが、学習という言葉を離れて、発想や感性をそだてるには何が必要かを考えることが大切なのでは、と感じるそうです。ちなみにこの絵本は30年間読まれて、現在のところ93刷目です。
大和さんは世界の博物館を1000ヶ所以上周られています。その中で感じるのはそういった展示施設を作るのも本作りと全く同じだということです。海外の博物館を歩くと、リピーターで何度も来ているのだろうなという方が多いそうです。海外の科学博物館が全て良いということではないが、日本の科学博物館は学習という観点から離れていない、教育については書いてある文章を読んで分かったような気になるのは違うのではないかと感じることが多いそうです。レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」には神秘さや不思議さに目を向ける感性が大切だとあります。「意欲的に考え、行動する」気持ちが育つことが大切なのだと思います。