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九州地方環境事務所

ツシマヤマネコニュース

ステーションだより、初めました。

2018年05月31日
ステーションだより 岩下 明生

こんにちは、ツシマヤマネコ野生順化ステーション(以下、ステーション)の岩下です。動物園で生まれたツシマヤマネコを野生に帰す(野生復帰)ための技術開発を担当しています。

今後、この職員日誌の中で、ツシマヤマネコ野生順化ステーションの取り組みを紹介していきたいと思います。「ステーションだより」と銘打ってステーション職員が時々更新していきますので、よろしくお願いします!

今回は初回ということで、ステーションとここで飼育されているネコたちを紹介したいと思います。ステーションは、下島の豆酘地区にある鮎もどし自然公園の中にあります。ステーションは動物園で生まれたツシマヤマネコを、いつか対馬の自然に帰すための訓練方法を試験する施設として整備されました。ここには、ツシマヤマネコに狩りを経験してもらうための野生順化ケージと、ツシマヤマネコの健康チェックや治療をする一時収容棟があります。ステーションで飼育しているネコたちは、試験の内容や体調にあわせて、これらの施設を使い分けています。

野生順化ステーションの全体図図1 野生順化ステーションの全体図

図2 野生順化ケージ 2番ケージの中の様子

図3 一時収容棟の外観

飼育個体の紹介

現在、ステーションにはツシマヤマネコが1頭、仮想ツシマヤマネコとしてイエネコが2頭、合計3頭のネコが飼育されています。

F-73 ナナミ(ツシマヤマネコ・♀)

過去に上対馬町豊で保護され、一度野生復帰を試みるも、衰弱して再保護された野生由来の個体です。右目は水晶体脱臼という病気で視力がほとんどありませんが、ネズミの捕獲は可能です。ナナミは老齢で、繁殖能力も衰え、身体的なハンデも持っています。そのため、現在、ナナミの野生復帰は断念しており、ステーションで野生復帰の訓練方法を試験するための個体として飼育しています。

図4 F-73 ナナミ(ツシマヤマネコ・♀)

麦茶(イエネコ・雑種(アビシニアン系)・♂)

那須どうぶつ王国(栃木県)からやってきた個体です。ステーションに来たばかりの頃は、狩りが上手く出来ませんでした。しかし、広大で自然が豊富な野生順化ケージの中で生活するなかで、野生のネズミはもちろん、野鳥、カエル、昆虫など幅広い野生動物を捕まえられるようになりました。

図5 麦茶(イエネコ・雑種(アビシニアン系)・♂)

和歌(イエネコ・ロシアンブルー・♀)

那須どうぶつ王国(栃木県)からやってきた個体です。ステーションに来たばかりの頃は、水が苦手で雨の日は、巣箱から出ることが出来ませんでした。しかし、野生順化ケージで生活することで雨に濡れるのにも馴れてきたようです。麦茶に比べて野生動物を狩ることが苦手ですが、広大な野生順化ケージでも野生のネズミを捕獲することが出来るようになりました。

図6 和歌(イエネコ・ロシアンブルー・♀)

なぜイエネコも飼っているのかと疑問に思われた方もいるかも知れません。動物園で生まれたヤマネコ類を野生復帰させる取り組みは世界でも例が少なく、哺乳類の野生復帰は日本でも初めての取り組みです。そのため、技術的な知見がほとんどありません。現在、日本動物園水族館協会(JAZA)を中心として、日本各地の動物園でツシマヤマネコの繁殖に精一杯取り組んでもらっていますが、まだ頭数が少なく、ステーションでの訓練に適する個体がいません。また、ステーションの野生順化ケージは、ネコを飼育した経験がなかったため、ネコが安全に飼育できるかを確認する必要がありました。

そのため、まずはここでご紹介したイエネコたちに協力してもらい、ステーションの施設で安全に飼育できるか等を確認しました。現在、ナナミも含めたネコたちは、野生復帰のための様々な試験に協力してもらっている最中です。この訓練についての詳しいことは、また別の機会に紹介したいと思います。

今回の「ステーションだより」はここまでです。次回もお楽しみに!!