対馬野生生物保護センター

[ ホーム ] → [ とらやまの森バックナンバー ] → [ とらやまの森第8号4ページ ]


とらやまの森
環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第8号

 

現在のページ 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11


胴長短足額縦縞耳後白的対馬野生猫との3年間


長崎県自然保護課
野濱幸徳(のはまゆきのり)

 平成9年4月自然保護課に配属になり、やまねこ(焼酎)は飲んだことはあるが、ツシマヤマネコは知らないまま担当になってしまいました。

1年目(1997年度):ツシマヤマネコってなあに?

 初めての仕事は、東京で開催されたツシマヤマネコ保護増殖分科会出席でした、委員の先生方の前で右も左も分からず「借りてきたネコ」状態だったことを覚えています。
(今は随分と態度がでかいネコになってしまいました。)
 平成9年は、対馬野生生物保護センターがオープンしたこともあり、保護増殖事業の体制が整った年でもあります。
 当時、希少野生動植物種保護増殖事業(ツシマヤマネコ)の実施は環境庁から長崎県へ委託されており、そのうち自動撮影による生息状況調査と普及啓発関係を長崎県が直接行い、人工繁殖のための捕獲・輸送等及び各種調査は(財)自然環境研究センターへ再委託しておりました。
 10月から、いよいよ人工繁殖のための捕獲作業開始です。長崎県は、関係者との連絡調整と捕獲した際のマスコミ報道を担当していました。
 12月3日18時25分、私が初めて経験する捕獲でした。マスコミ各社へ情報を流し、翌日の9時から記者発表を行い、福岡市動物園への輸送も無事に完了し、後は、雌雄判別と病理検査の結果を待つばかりです。その後、性別は「オス」検査結果も異常なしとのことでした。
 翌年の2月にも2頭捕獲することができましたが、いずれも「オス」であったため放逐を行いました。新聞には「捕らえてみれば雄ばかり」と書かれてしまいました。

2年目(1998年度):気分はヤマネコ

 もっとツシマヤマネコのことを住民に知ってもらわなければなりません。初めに、車に轢かれるツシマヤマネコが多いため、その対策として秋の交通安全週間に合わせて警察署と共同で「ツシマヤマネコ交通事故防止キャンペーン」を島内5ヶ所で実施し、「ツシマヤマネコの交通事故をなくそう」チラシをドライバーヘ配布しました。
 このとき、上県町から借りたツシマヤマネコの着ぐるみを着てチラシを配り、着ぐるみ地獄を味わってしまいました。
(何とかセンターの鑪さんに着せようと思っていますが頑として承知しません。何故だろう?)
 「ツシマヤマネコも見ているあなたの運転マナー」ステッカーは間に合わなかったため後日、全世帯に配布しました。ステッカーを貼って走っている車をよく見かけますので啓発の効果はあったものと思います。事故が減るのを祈るだけです。
 またまた、捕獲のシーズンです。既に福岡市動物園にはオスが3頭いるため、目指すはメスのみという固い決意のもと作業開始です。
 11月17日・捕獲成功→雌雄判別→またオス→ガッカリ(対馬にはオスしかいないのではないかという陰口あり:昨日見た夢ではメスだったのだが)。
 12月8日・捕獲成功→雌雄判別→メス→やっと一安心
 これで待望の人工繁殖に向けて大きく前進することができます。
 その後、平成11年1月15日・捕獲→オス 2月5日・捕獲→メスと続き福岡市動物園のヤマネコ舎も5頭で満員(ネコ)となり捕獲作業も完了しました。

3年目(1999年度):ヤマネコの道も一歩から

 今年度から対馬野生生物保護センターの活動も軌道に乗ったため、長崎県が環境庁から委託される事業内客もモニタリング調査(自動撮影による生息状況調査・痕跡調査)と普及啓発だけになりました。
 担当者である私も随分と馴れてきました。
 ここで、現在、長崎県が実施している仕事を紹介してみます。

1.自動撮影による生息状況調査(ツシマヤマネコを写そう)

 現在、25ヶ所に感熱センサー方式、2ヶ所に撮影箱方式の計27台の自動撮影カメラを島内に設置し、9~3月までの7ヶ月間13名の調査員の方にフィルム交換や誘引物質設置をお願いして実施しています。
 感熱センサー方式とは、前を通った動物の体温に熱センサーが感応すると自動的にカメラのシャッターが落ちる仕組みです。撮影箱方式とは、箱の入り口に踏み板式のスイッチを作り、動物が踏むと反対側にセットしているカメラのシャッターが落ちる仕組みです。


 今までに撮影されたものは、ツシマヤマネコ・ツシマテン・チョウセンイタチ・ツシマジカ・イノシシ・イヌ・イエネコ・ネズミ・トビ・カラス・その他鳥類・人・車など多種にわたります。調査員の皆さん毎月ご苦労様です。
 この調査によって、豊玉町以北においては写真撮影による生息が確認されています。
 当面の目標は、「フンはあれど姿は見えぬ」厳原町西部地区の透明ヤマネコの写真を撮り生息確認をすることです。

2.痕跡調査(通称フン探し)

 ツシマヤマネコの生息を確認する方法として、一番確実なのは写真に撮ることですが、これはE難度、一番簡単な方法は、ヤマネコのフィールドサイン(足跡・フン)を見つけることです(詳しくはツシマヤマネコリーフレットを見て下さい)。フィールドサインを見つけたうえに写真が撮れ間違いなく生息の確認ができたことになります。
 現在、自動撮影による生息状況調査ポイント付近の痕跡調査を九州大学の土肥先生と琉球大学の伊澤先生にお願いして毎年実施しています。
 特に今年は、ポイント以外の調査として、最近情報が少ない対馬南部地区(厳原町・美津島町)に40ルート設定して痕跡調査を実施してみましたが、何個か見つけたなかで伊澤先生から間違いなく「ツシマヤマネコのフン」とお墨付きをいただいたのは1個だけでした。


3.普及啓発(ヤマネコになり代わり)

 まずは、毎年恒例になりつつある「ツシマヤマネコ交通事故防止キャンペーン」、今年の作戦は、チラシと1,500個限定製作のヤマネコキーホルダーの配布です。
 次にヤマネコの生態や特徴をもっと理解してもらうため6年ぶりに「ツシマヤマネコリーフレット」を作りました。島内全世帯に配る他、各役場窓口、空港、対馬観光物産協会、県外では福岡市動物園、東京の長崎県観光物産センター、西表野生生物保護センターなどに置いていただきました(リーフレットづくりは苦労したと思っているのですが、周りの人は楽しんでいたと言います)。

 次はヤマネコの最大の天敵であるイヌ対策として、対馬で犬を使って狩猟をされる方に

  1. その日のうちに必ず回収する。
  2. 野山に放置しない
  3. 放し飼いにしない。

という3原則チラシを配りました。

 その次は、対馬野生生物保護センターを訪れた方から、全国へヤマネコの保護を訴えてもらうよう「ヤマネコポストカード」を2種類作成し、センターに置きました(これを読まれた郵政省関係の方でツシマヤマネコ切手を作ってやろうという方はいらっしゃらないでしょうか。喜んで協力いたしますが)。
 さて本年度最後の啓発は、3/11(土)・12(日)福岡の国際センターで「ながさきしまフェスタ」が開催されることから、この機会を利用して県外にもツシマヤマネコの名前を売り込もうと考え、対馬コーナーにツシマヤマネコの現状・保護増殖事業の内容など写真を中心に紹介するコーナーを設置するよう準備を進めています。是非お越し下さい。

ヤマネコ保護について(ヤマネコをふやすと魚がふえる)

 平成6年度からツシマヤマネコの保護増殖事業が本格的に始まりました。
 平成8年度までの3年間、各種の調査(生息状況・環境・生態・病理・遺伝的特徴等)及び人工繁殖のための捕獲作業が行われました。この調査において、人工繁殖用個体を2頭確保するとともにツシマヤマネコの生態等についてもかなり詳しく解明することができました。
 また、何をすべきかということも分かりました。

 報告書の最後に

  1. 野生個体群の保全
  2. 疾病対策
  3. 人工繁殖・再導入
  4. 体制・組織作り

の4点が「保護への提言」としてまとめられています。

 ツシマヤマネコが減った原因は、開発による生息環境の悪化、農薬による生態系の攪乱などの複合的な要因が積み重なった結果ではないかと考えられています。
 このまま対馬から、ツシマヤマネコがいなくなることは、野生ネコを失うことだけにとどまらず、対馬の特殊な動物相の生態系バランスを乱すことになり、しいては対馬の魅力そのものを失うことになります。
 現状をみると、保護増殖事業はまだ十分なものとはいえません。人工繁殖事業は画期的ではありますが、始まったばかりでまだ不確定な要素が多いことを考えると過大な期待をかけることはできません。
 現在なしえる現実的かつ確実な方法は、生息地である対馬において行う保護(これ以上減らさない)&増殖(生息環境改善により増やす)ではないかと考えます。
 そのための生息環境改善を進めるためには、一方的に保護だけを進めるのではなく「環境改善=ヤマネコ保護=対馬の自然保護=住民の利益」という図式を確立することが大切と考えます。

 例えば、人工林をドングリから育てた樹木に更新することにより

  1. 餌資源がふえる→ヤマネコがふえる。
  2. 緑のダムができる→ダム建設費が節約できる。
  3. 山からの栄養分がふえる→プランクトンがふえ魚がふえる。
  4. 自然林にすることにより「災害に強い山+水源の森づくり」ができる。
  5. 伐採したスギ・ヒノキの公共工事への積極的活用による林業振興
  6. 伐採・苗木育成などによる地域雇用創出
  7. 自然を求めて韓国からの観光客増加?
  8. ボランティアによるドングリ拾いを通しての自然環境教育。

などの成果が得られ、相互利益の関係を築き上げることができるのではないでしょうか。
 これ以上生息環境が悪化するようであれば、人工繁殖で増えた個体を再導入する場所もなくなってしまう恐れがあります。

悠々として急げ

最後に!(ヤマネコの独り言)

 最近、私達のことで「調査のため装着する発信機の負荷の問題と過度な給餌が与えるダメージ問題」が議論されています。お互いに、「自分たちがしていることは問題はない。」と言うのではなく、その意義(どちらも私達が本来遭遇することのない事件なのです。)を納得できるよう説明することが、保護のために大切なことではないでしょうか。



とらやまの森第8号

 

現在のページ 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11


[ ホーム ] → [ とらやまの森バックナンバー ] → [ とらやまの森第8号4ページ ]