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とらやまの森第5号

 

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犬の飼い方(牛の獣医がちょっと思ったこと)


長崎県北部農業共済組合対馬地区家畜診療所長
森寛士

 島の獣医師として、対馬農業共済組合家畜診療所(現長崎県北部農業共済組合対馬地区家畜診療所)に入ってまる8年が過ぎました。当初、共済の獣医だから牛・馬だけを見ればよいと思っていたのに、現在、ツシマヤマネコにもかかわっています。学生時代の友人から「島(対馬)の獣医なんだから、ヤマネコの保護やってみろよ。」と言われたことがあります。そのときは、「そうだねえ。やれたら、ぼちぼちなぁ。」と軽く流していたのに、ここまでかかわることになろうとは思ってもみませんでした。まさか、原稿の依頼がくるとは・・・。牛の話なら多少は書けるだろうけど、ツシマヤマネコとなると専門外だなあと思いつつ、何か書けそうな話題はないかと探してみました。今年の1月にツシマヤマネコが犬におそわれる?という事故(事件)がありました。そこで、島に住んでいる獣医として犬の飼い方について思っていることを、お話ししたいと思います。

 このツシマヤマネコをおそった犬は、首輪をしていたということが確認されています。ということは、放し飼いの犬、捨てられて野犬となった犬、飼い主のもとから逃げた犬、そして猟犬などが考えられます。逃げた犬と猟犬については、飼い主あるいは猟犬を使っている人が、逃走またはお勤め(狩猟や駆除)の終了後、責任を持って、確実に犬を収容する事をお願いしたいと思います。そして、収容した犬には首輪をきちんと(きつすぎず、ゆるすぎず)してください。牛の診療にいく途中、ときどき人里はなれた道をふらふらとさまよっている犬を見かけます。山に入っていた犬が、家に帰っている途中なのでしょう。かなりやせていたりします。かわいそうでもあり、また、これが野犬になると大変です。できるだけ早く見つけてやってください。

 さて、問題は放し飼いの犬と、捨てられて野犬となった犬です。まず放し飼いの犬です。これについて飼い主に言えることは「つないで下さい。」ということです。ごくごく当たり前のことですが、しかし、対馬では放し飼いが多いように思われます。道のまん真ん中に堂々と寝そべっている犬。気持ちよさそうではありますが、車を運転する人にとってはとってもじゃまです。ひいてしまうわけにもいかないし、根性が座っているのかなかなか動かない。ついには車を降りて、追い払う始末。寝てもいいから寝るなら自分の家で寝てくれと思ってしまいます。それに、この放し飼い犬が人をおそうことはないのでしょうか。これで、子供ががぶりとやられたら飼い主はどう思うのでしょうか。犬の飼い主がよく「うちの犬は人を咬まんもんね。」と言われます。しかし、基本的に犬は咬む動物です。飼い主には咬まないかもしれないけど、他人にはどういう行動をとるかわかりません。きちんと首輪をつけて、ロープでつないで、うろうろと放浪しないようにするのが飼い主としての義務ではないでしょうか。当家畜診療所にも何頭か常連客(放し飼いの犬?)がいます。勝手に敷地に入ってきて、おしっこはする。うんこはする。獣医師という立場上(?)、侵入犬に石をぶつけるわけにもいかないし、わーわー言って外に追い出します。犬に悪気はないのだろうけど、本当に迷惑な話です。飼い主さえ、きちんとつないでいてくれたら、と思ってしまいます。

 最後に捨てられて野犬となってしまった犬です。なりたくて野犬になったのではないでしょうに。飼い主には、要らなくなったからといって簡単に山などに捨てないで下さいと言いたいです。人に捨てられた犬はなかなか人になつきません。また、人に裏切られた(捨てられた)犬の子供達は筋金入りの野犬となってしまいます。当然、自分達のなわばりに入ったものに対しては牙をむくでしょう。

 人も、ヤマネコもおそわれる可能性があります。まるでオオカミみたいと思う方がいるかもしれませんが、犬とオオカミは親戚みたいなものです。犬を飼っている人はそこのところをよく理解して、犬を飼うべきです。子犬の時はかわいいからついつい手がでてしまうものですが、子犬は時がたつと大きくなり、大人の犬になることを忘れてはいけません。大きくなってかわいくないからといって、簡単に捨てるのは、飼い主の自分勝手です。飼う以上は責任を持って最後まで飼うようにして下さい。また、犬を飼うときには、適度な愛情と最低限のしつけが必要です。くれぐれも甘やかすことを愛情と勘違いしないで下さい。甘やかしすぎると、犬は自分が一番偉いと勘違いします。最悪、飼い主にまで牙をむく犬になってしまいます。しつけは最低限、飼い主を咬まない、そして飼い主が押さえられるような犬にしてほしいものです。たまにどちらが飼い主かわからないときがあります。犬を飼ったときには、犬のしつけを、そして、飼い主(自分)のしつけも忘れずに。

 貴重なツシマヤマネコが対馬からいなくなるということは、あってはならない事です。そのためにも、少なくとも犬におそわれるという悲しい事故が起きないようにするためにも、飼い主のみなさんはきちんと責任を持って犬を飼って下さい。

※森寛士先生は、対馬上県郡内でたったひとりの獣医さんです。牛などの大動物が専門の若手獣医師ですが、勉強熱心で、イヌでもネコでも鳥でも診て下さいます。誰からも好かれるキャラクターでみんなの人気者であると同時に、上県の動物好きの人たちからは全幅の信頼を置かれています。

 対馬野生生物保護センターでもツシマヤマネコの主治医(ホームドクター)として、飼育している個体や捕獲した個体などの診察や治療をお願いしています。またツシマヤマネコ保護増殖事業を検討する環境庁の小委員会の委員にもなっていただいています。


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