対馬野生生物保護センター

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とらやまの森
環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第5号

 

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トキとツシマヤマネコの人工繁殖


 対馬野生生物保護センターのニュースレター「季刊・とらやまの森」は、昨年(1998年)5月の創刊以来、今号で第5号を数えます。前号(1999年2月発行・如月の巻)発行以降本日まで、対馬の野生生物、特にツシマヤマネコをめぐっては、実にさまざまな出来事がありました。詳しくは本号6ページの「センターの活動から」にまとめていますが、特に大きな出来事としては、ツシマヤマネコ保護対策としての飼育下繁殖のための個体捕獲作業が、1994年の計画開始以来、一応の成功をもって終了したことがあげられます。

 1998年12月8日のメスの捕獲については前号の表紙で紹介しましたが、前号の発行作業の疲れも癒えない1999年2月5日の夜、新たなメスの捕獲に成功しました(もちろんメスだと判明したのは、検査のために獣医さんに麻酔をかけてもらったときです)。このメスも健康検査で問題となるウィルス感染もなく健全であることがわかったため、2月18日に飼育・繁殖施設である福岡市動物園に空路移送しました。このメスは動物園でNo.8と名付けられましたが、No.1・No.3・No.5のオス3頭、No.6のメスとあわせて、当初の計画どおり、5頭のツシマヤマネコを飼育下繁殖用に確保できたことになります。飼育下繁殖といえば、昨年は新潟県の佐渡トキ保護センターにおける中国産トキのひな誕生・成長のことがマスコミをにぎわせています。積年の想いを実らせた関係者の方々の並々ならぬご苦労を考えると(特に同じ国内希少野生動植物種の保護増殖事業に携わっている者として)本当に頭の下がる思いがします。今後もひなが順調に成長するとともにどんどん数も増やして、生息地に関する多くの問題点もクリアして、将来は新たな野生個体群の創出につながって、再び朱鷺色の翼を広げて空を舞う日がくることを心から祈ります。

 ところでトキもツシマヤマネコもなぜこんなに努力してまで「種の保存」を図らなければならないのでしょうか?生物の進化の歴史の中では「絶滅」も自然のプロセスであり、これまで恐竜をはじめ多くの種が絶滅してきたことが知られています。「種の寿命」をいうものがあるのかも知れません。しかし、現在「絶滅のおそれのある」状況に陥っている種については、そのほとんどが20世紀に入ってからの我々人類の「生産活動」が原因であるといわれています。「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(1993年施行)」の第一章(総則)第一条(目的)には、このように書かれています。

「この法律は、野生動植物が、生態系の重要な構成要素であるだけでなく、自然環境の重要な一部として人類の豊かな生活に欠かすことのできないものであることにかんがみ、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ることにより良好な自然環境を保全し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。(太字執筆者)」

 我々の手でひとつの種を絶滅させてしまうということは、めぐりめぐって結局は我々自身(と子孫達)が「豊かで健康で文化的な生活」をしづらくなってしまうということだと思います。創刊号にも書きましたが、ツシマヤマネコを失ってしまったら、この島はもはや「対馬」ではなくなるのかも知れません。このテーマについては、今後もこの「とらやまの森」誌上で皆様とともに考えていきたいと思います。 <T2>


とらやまの森第5号

 

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