対馬の森
対馬の9割を占める森林は、私たちに多くの恵みをもたらしてくれます。緑豊かな対馬ですが、実は原生林はほんの少し。昔から人が手を入れて管理してきたのです。そして、その森の中には、ツシマヤマネコをはじめとする対馬特有の動植物が暮らしています。対馬の人たちは、森からの恵みを受けるとともに、森を管理することで豊かな動植物を育ててきました。そしてその森は海につながり、海をも豊かに育んできたのです。
森のめぐみと人々の暮らし
ガスや電気がない時代、人々は炭や薪を燃料としてきました。炭を焼くために木を切った後には、木庭作(こばさく)と呼ばれる畑をつくり、ソバ、麦、芋、アワなどの作物を収穫しました。作物を何年か収穫した後には、また炭焼き用の林に戻します。このように、昔の対馬では、数年~数十年サイクルで森を上手に活用してきました。
蜂洞。ニホンミツバチのハチミツは、滋養強壮に効くという対馬の名産品です。これも森の恵みの一つ。
対馬の山中ではかつて炭焼きがさかんに行われてきました。谷沿いにはかつて使用されていた炭窯の跡が多く見られます。
木庭作は対馬の山中で昔から行われてきた焼畑農業で、里山の利用方法のひとつでした。環境省では、ツシマヤマネコの暮らす環境を考えるために小さな畑を山中に復活させる試みを行いました。
多様な生物を育む里山
対馬では、その立地から特有の動植物相が発達しました。ツシマヤマネコ、ツシマテン、チョウセンイタチは、いずれも日本では対馬に特有の種です。 森の中では、落ち葉をミミズが分解し、落ちた実をネズミや昆虫が食べ、そのネズミをツシマヤマネコや猛禽類などが食べる、といった幾重もの輪があります。特に、古くから炭焼きのために育てられてきたシイ、カシ、などの林は、ドングリをつけるため、多様な生物を育むとされています。
ヒトツバタゴの自生地、上対馬町・鰐浦。5月初旬には白い花を咲かせる。
ツシマヤマネコ
対馬の野生生物の代表とも言えるツシマヤマネコ。野生のネコは、日本では沖縄の西表島と対馬にだけ生息しています。昔、対馬では悪いことをする人のことを「ヤマネコのようなヤツ」と言ったそうです。時には飼っている鶏を襲ってしまうこともあったことから、そう言われたのかもしれません。意外にも人の生活に近いところにいる動物です。
ツシマヤマネコ
渡り鳥の中継地
対馬は大陸と日本列島の間を渡る野鳥たちにとって大切な中継地です。5月の渡りの最盛期はもちろん、季節ごとに様々な野鳥たちが姿を見せてくれます。
セグロサバクビタキ
森が育てる豊かな海
森から流れ出す養分が、豊かな海を育んできたとされています。対馬の海は、日本でも有数の漁場で、ブリやアジ、サバは全国にその名を知られるほどの味です。 対馬の人たちは、良好な漁場と豊かな森の関係が深いことを昔から知っていて、「魚付き保安林」として山を守ってきました。
|