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環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第2号

 

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「ヤマネコの保護は自然を大切にすることから始まります」


鹿児島大学農学部獣医学科
阿久沢正夫

 1ページでも触れたとおり、1頭のツシマヤマネコが鹿児島大学で飼育されています。
その飼育を担当されている阿久沢先生からお便りを頂きましたので、ご紹介します。

 ツシマヤマネコの調査に参加するようになってから14年ほどたち、その間何度も対馬に来ています。ヤマネコの調査地は対馬の北端に近いところなので、飛行場からは、ほぼ島の端から端まで旅をしているので、レンタカーの車窓から外の景色を覗いて、その著しい変化を感じています。以前に比べて道路事情が良くなったことは驚くほどです。一方、ツシマヤマネコの推定生息数は現在までのところ減るばかりで、10年前の約100頭から昨年は70-90頭ということになっています。30-40年ほど前の推定では200-300頭といわれていたのですが。ツシマヤマネコが減った原因はいろいろと言われておりますが、次の2つについても考えられないでしょうか。

 原因 その1)田が減ったこと、その2)人が山に入らなくなって山が荒れたこと、です。

(1)田が減ったこと

 ツシマヤマネコの生息が多いのは、対馬の北部です。空港に近い所では以前ここは田であったらしい所はありますが、荒れ地などになってしまっているのが目につきます。美津島町を過ぎたころになって、ようやく田を作る農家が見えるようになってきます。島の北部にヤマネコの生息が多いことと、田が多いこととは一致しているように思えます。
 私の勤める大学の構内に住んでいる野良猫を見ていると、猫は人の生活圏へ徐々に入り込んできて、人とはある程度距離をおきながら生活をしています。餌が容易に手に入るためでしょう。人が害をしないと分かれば、さらに近くに寄ってきます。ヤマネコも猫の先祖がそうであったように、餌が容易に手に入る環境へは近づいて来るように思われます。ヤマネコは野生といいながら、森の中よりもはるかに餌動物の多い田の周辺のような環境、つまり人の近くで生活するようになりやすいと考えられます。だから、田が減ることは、ヤマネコの良い餌場が減ってしまうことを意味します。対馬の米の生産高とヤマネコの数とは、相反する傾向があるのではないでしょうか。

(2)山が荒れたこと

 山を歩くとき、藪(やぶ)が密生していると大変歩きにくいものです。薮の中が歩きにくいのは、おそらく人もヤマネコも同じことでしょう。以前は薪取り、炭焼きのために人は頻繁に山に入りました。そのことはヤマネコの生活環境を荒らす悪いことであるどころか、かえって山に細道ができ下草が減って歩きやすくなり、背が低いヤマネコでも遠くまで見えて餌動物を発見しやすくまた外敵の接近が早くわかり、森の中は生活し易かったことでしょう。しかし、人が材木にする木以外は森の木を利用しなくなり山に入ることが少なくなってから、森は下草が生い茂り、われわれ人でも歩きにくくなってしまいました。ヤマネコにとっても、同じように森は利用しにくくなってしまったのではないでしょうか。そのため、ヤマネコは山中よりも歩きやすい道路のほうを歩くことが多くなり、交通事故に会う機会も多くなったのではないでしょうか。また、しばしば針葉樹はヤマネコの餌場に適さない、と責められます。確かに関係あるかもしれません。しかし、対馬の植林は対馬藩の時代から行っていたことで、かえって昔の藩の時代の方が、それこそ真剣に植林し、杉の生産石高は現在よりもかえって多かったのではないでしょうか。それでも、昔のほうがヤマネコの数は多かったと思われます。針葉樹も悪いかもしれません。しかし、人が上手に利用しなくなって山が荒れてしまうことは、ヤマネコの生活条件を悪くするはるかに大きな原因になっていると思います。
 ヤマネコにとって都合の悪いことが、現在の日本のために避けられないことばかりなのが残念です。人が生活していくためには開発は避けられないでしょう。それならば、「野生動物の生活についても考えながら開発する」姿勢が大切だろうと考えます。
 全体的に田は年々減っているようです。これはヤマネコの推定個体数の減少と比例しているように見えます。
 最も田が残っているのは厳原町で、田の減少率も一番小さくなっていました。反対に田の面積が最も少なく、また減少率も高かったのは、現在も比較的多くヤマネコが生息していると考えられる対馬北部の上対馬町でした。ヤマネコの密度が最も高いと考えられる上県町は、平均的だと言えると思います。
 このように見ると、田の減少がヤマネコの個体数の減少の原因だとはっきり言うことは難しいようです。ツシマヤマネコの個体数減少はいくつもの要因が複雑に作用しているものと考えられます。田が減ったこともそのひとつなのかもしれません。
 何が原因なのか、皆さんも一緒に考えてみて下さい。


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