対馬野生生物保護センター

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2004年11月7日:とらやまの森再生プロジェクト

2004年11月の活動

 11月7日の日曜日、対馬野生生物保護センターとボランティアグループ「ツシマヤマネコ応援団」主催による森林観察会・どんぐりの苗作りイベント「とらやまの森再生プロジェクト」が開催されました。一般参加者のほかに、北九州緑化協会、森林組合など、対馬の自然に関心を抱く60人を超える皆様に参加していただき、学ぶことの多い充実した1日となりました。

 舟志(しゅうし)の廃校後に集合した参加者です。北九州緑化協会のみなさんは、人とツシマヤマネコが共生する森作りに関心を抱き、ボランティアで参加していただきました。緑化のプロの協力は心強いです。

 まずは「ツシマヤマネコ応援団」の自己紹介。中央の白い服の人が、「とらやまの森再生プロジェクト」のプロジェクトリーダー野田一男さんです。
 野田さんは対馬の森やツシマヤマネコ等の野生生物について詳しく、センターにとってもボランティアスタッフにとっても頼りになる兄貴のような存在です。

 現地に移動して、林野庁の松本さんと川野さんから、雑木林と杉や桧などの植林地との違い、伐採後の森がどうなっていくのか、などの説明を聞きます。
「密植されて手入れのされていない植林の森は日光不足で、湿度が高く、土が弱くなります。また、根が浅いため、保水力の弱い森になってしまいます」

 伐採後16年の森の様子。鹿害などで樹木の再生が遅れています。

 山の斜面の一部が崩れ落ちていました。樹木が少ないと、土を固定する力が弱く、土砂崩れなどの災害が起きやすくなります。

 対馬での磯やけ(海底の砂漠化)の現状について説明するセンター職員です。磯やけの原因はまだ解明されてはいませんが、森の荒廃が要因のひとつではないかと言われています。

 参加者の一人、上県町御園(かみあがたまちみそ)の漁師・国分安則さんです。磯やけの進行に脅威を感じ、子どもたちが漁師を続けられる海を守るため、このプロジェクトに参加しました。樹木の根は土を固定し、保水力を高めます。山が水を蓄えることにより、洪水の危険性が減り、水枯れが起きにくくなります。また、栄養豊富な水が川に流れこむことにより、川と海の生き物の世界も豊富になります。豊かな森は、豊かな海を作るのです。

 木漏れ日を浴びながら、爽やかな森を散策します。シイやカシなどのどんぐりを拾ったり、ツシマナメクジを発見したり、針葉樹のモミとツガの見分け方を学んだりしました。

 対馬の森の様子。対馬は島土の90%以上を樹木に覆われた森林の島です。この島の樹々は、建築材・薪炭材・シイタケ原木などに利用されてきました。人によって手入れされることで里山の環境は維持されます。荒廃した植林の森をどうするのか、人にとっても動植物にとっても有益で豊かな森とは何かを考え、行動することがこのプロジェクトの目的です。

 白砂が美しい茂木浜(もぎはま)で昼食をとったあと、「とらやまの森試験林」(仮称)に移動しました。プロジェクトリーダーの野田さんが管理している森で、間伐などの手入れを行い、それが動植物にどのような影響を与えるのか、よい森とは何か、を考える場です。

 この植林地を「とらやまの森試験林」にするに至った、環境省による「共生と循環の地域社会づくりモデル事業」について、対馬野生生物保護センターの大林保護官から説明がありました。
 ヤマネコだけではなく、「人もヤマネコも」より良く利用することのできる植林地づくりを目指します。

 現在の状況と今後の計画について説明する野田さんです。
「ツシマヤマネコのためにはもう少し強く間伐した方がいいのかも知れませんが、人が森と関わっていくためには木材としての価値も大切です。また、間伐しすぎると台風の時に木が倒れる心配もあります。ヤマネコにとっても人にとっても意味のある、豊かな森とは何か、みんなで考えて行動して生きたいと思います」

 そして本日のメインイベント、どんぐりと苗の植樹です。野田さんが知合いから借りて管理している畑に、参加者が自分たちで拾ったどんぐりを種類別に植えていきます。

 北九州緑化協会の皆さんのアドバイスを聞きながら、自分たちでどんぐりを植えていきます。苗の場合は、葉が枯れて水を吸わなくなる冬が植え替え時期だとか。植えたどんぐりの種類は、アベマキ、スダジイ、マテバシイ、アカガシなどなど。

 遺伝的なかく乱を起こさないよう、どんぐりはすべて島内で拾ったものです。この苗畑から生命を育む豊かな森が生まれ、海と川と森が再生していくことを祈りつつ、ひとつひとつどんぐりを植えていきます。

 イベントの最後に挨拶する野田さんです。
「昨年の苗作りイベントの参加者は10名ほどでした。今回は、北九州緑化協会のみなさんをはじめ、60名もの方に参加していただき、言葉にならないほど感激しています。明日はまたこの畑に水を撒きます。この輪を広げ、人にもツシマヤマネコにも有益な森を再生させていきたいと思いますので、これからもご協力を願いします。」
 こうして、参加者のあたたかい拍手のなか、とらやまの森再生プロジェクト第一弾は終了したのでした。