報道発表資料
- 報道発表
最新のツシマヤマネコ生息状況等調査(第五次調査)の結果概要について【3月30日】
環境省では、平成30年度~令和元年度にかけて、約7年ぶりとなるツシマヤマネコの最新(2010年代後半)の生息状況調査(第五次調査)を実施してきました。今般、その結果概要がまとまりましたのでお知らせします。
調査の結果、以下のことが明らかになりました。
(1)ツシマヤマネコの分布及び確認地域区分
①上島では、2010年代前半に実施された第四次調査時点からほぼ全域に生息しており、2010年代後半も引き続きほぼ全域で生息が確認された。
②2010年代前半に引き続き、メスの生息確認地域が増加した。
③下島で生息確認地域が8地域区分に拡大し、メスの生息が確認された。
(2)ツシマヤマネコの推定密度及び推定生息数
④地域区分によって生息密度の増減はあるものの、全体としては2000年代前半から生息密度や推定生息数には大きな変動は見られなかった。
⑤前回調査同様に2種類の手法で生息数を推定した結果、平均値による推定値は中央値89.5頭(95%信頼区間72.5~109.2頭)、回帰式による推定値は中央値99.3頭(95%信頼区間13.2~222.4頭)であった。
上島におけるツシマヤマネコの推定生息数は2000年代前半から大きな変化はありませんでした。一方で、2010年代前半までは減少している可能性があったものが、2010年代前半から2010年代後半にかけてわずかに増加した可能性があり、個体数の減少傾向が止まったと考えられます。
1.ツシマヤマネコについて
ツシマヤマネコは、我が国では長崎県対馬のみに分布しており、環境省第4次レッドリスト(2012年公表)では最も絶滅のおそれの高い絶滅危惧IA類と評価されている。
平成6年に、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(「種の保存法」)にもとづく国内希少野生動植物種に指定され、平成7年に「ツシマヤマネコ保護増殖事業計画」が策定されている。これまでに実施された生息状況調査は表1のとおり。
2.調査結果
今回の調査は、総合的な生息調査としては5回目であり、前回の調査から約7年ぶりとなる。ツシマヤマネコの生息状況を評価する単位として、第四次調査と同様にツシマヤマネコの行動を制限すると考えられる尾根を境界とする集水域を基本に、対馬(上島及び下島)を107の地域に区分し(図1)、集計を行った。調査結果は以下(1)~(3)に示すとおりである。
(1)生息分布
1)調査手法
今般の第五次調査においては、確実な生息情報として、以下の情報を収集することにより、2010年代後半の生息分布図を作成した(図2)。また、第三次調査以降の各年代別の生息分布図を作成した(図3)。
①生体の保護・捕獲、死体収容
②自動カメラ撮影
③痕跡調査で得られた糞のDNA分析による情報
2)生息分布の調査結果
①上島(65地域)の調査結果
-
2010年代後半の生息確認地域は2010年代前半より1地域少ないが、生息情報が得られなかった2地域は半島部と島で、いずれも面積は小さく、2010年代前半同様ほぼ全域に生息していると言えた。
-
メスの生息確認地域数は増加傾向にあり、2010年代後半は53地域(82%)で確認されたが、中南部に情報の得られなかった地域が集中していた。
②下島(42地域)の調査結果
-
生息確認地域数は増加を続けており、2010年代後半は2010年代前半(第四次調査時)より4地域多い8地域で生息情報が得られ、1地域でメスが確認された。
-
2010年代後半に生息が確認された8地域のうちメスが確認された地域区分69は上島と接しているが、他の7地域は大きく4つに分かれていた。
-
下島での生息確認地域の増加は、過去にいた個体の繁殖による増加と上島からの分布拡大のいずれか、もしくは両方の可能性があるが、メスが確認されたのは上島と接する地域のみであり、第四次調査から継続して情報が得られているのが北部の2地域(68、69)のみであることから、上島から拡大した可能性が高いと考えられた。
③全域での調査結果
-
ツシマヤマネコの分布域は拡大傾向にあると考えられた。
(2)密度分布
1)調査手法
上島の全地域区分に設定した調査ルートにおける痕跡調査(林野庁、長崎県、対馬市、琉球大学が実施している痕跡調査を含む)で得られた糞情報をもとに、地域区分別の密度指数(糞数/km)を算出することにより相対的な生息密度を把握し、密度分布図を作成した(図4)。また、同じ手法で第三次調査及び第四次調査の結果と比較した(図5)。さらに、第三次または第四次と第五次の密度指数の増減について、地域区分別に表した(図6)。
密度分布図に主要な河川や地名等の情報を加え、普及啓発用資料等に用いる事を想定した保護マップ基礎図を作成した(図7) 。
2)密度分布の調査結果
①地域区分単位の密度分布の調査結果
-
有意な増減が見られ、第三次調査から第四次調査では有意な減少よりも増加した地域数の方が多かったが、第四次調査から第五次調査では有意に減少した地域の方が多くなった。
-
第三次調査では密度指数の幅が広く、10以上の地域が3地域あった。第四次調査では全て10未満だったが、第五次調査では10以上の地域は4地域あり、密度指数0の地域も増加していた。
-
第三次調査以降連続で優位に減少した地域が2地域あったが、有意な増加が連続した地域の方が5地域と多かった。
②空間的な密度分布の調査結果
-
第三次調査では、地域区分12や20周辺(北西部)に比較的高密度の地域のかたまりがあり、中北部は全体的に密度が高い傾向にある一方で、密度指数0の地域区分11や43および48の周辺(北端や中南部)では低い傾向がみられた。
-
第四次調査では高密度のまとまった地域はなくなり、全体に均質化していたが、地域区分26の周辺(中北部)や密度指数0の地域区分47、52の南(中南部)には低密度のまとまりがあった。
-
第五次調査でも地域区分47の南(中南部)には低密度の地域区分がまとまっていたことから、この周辺の生息状況の悪化は一時的なものではない可能性がある。
③上島全体での調査結果
-
第四次調査で地域区分25や32周辺にみられた低密度のまとまりが、第五次調査ではみられず、状況が改善した可能性がある。一方で、地域区分53や56周辺における低密度な地域区分のまとまりは、変わらずみられた。
-
第五次調査でも地域区分47の南(中南部)には低密度の地域区分がまとまっていたことから、この周辺の生息状況の悪化は一時的なものではない可能性がある。
(3)推定生息数
1)調査手法
琉球大学の調査により、糞数から算出する密度指数と実際の定住個体(繁殖に関わっていると考えられる成獣)の生息数がわかっている志多留・田ノ浜地域(地域区分26)のデータを用いて、密度指数と個体数との関係について2通り(回帰式及び平均値)の計算方法を用いた。これらの計算法から、地域区分ごとに密度指数から生息数を推定し、これを合計することにより、上島全域における定住個体の推定生息数を求めた。第三次調査以降の推移を明らかにした。
なお、第一次調査及び第二次調査は、第三次調査以降と手法が大きく異なるため比較することは適切ではないため記載していない。また、生息数の推定には一定の誤差が含まれる。そのため、算出された値は参考値と考え、増減傾向の把握を主目的としている。
2)推定生息数の調査結果
①回帰式による推定生息数
-
回帰式を用いた推定個体数は、99.29(95%区間:13.18-222.36)頭であった。
-
回帰式による推定生息数は2000年代前半と2010年代前半とではほとんど変わらず、95%信頼区間を用いた推定幅も大きくは変わらない事から、この間の推定生息数は変化していないと考えられる(表2)。
②平均値による推定生息数
-
平均値を用いた推定個体数は、89.48(95%区間:72.50-109.24)頭であった。
-
平均値を用いた推定生息数については、中央値を見ると2010年代前半に減少したものが2010年代後半にかけては増加しているが、95%信頼区間は重複している。
3.調査結果まとめ
-
上島については2010年代前半からほぼ全域に生息しており、メスの生息確認地域は増加した。地域区分によって密度の増減はあるものの全体としての密度や定住個体数には大きな変動はない(表3)。
-
下島では分布域が拡大し、メスも確認された。それに伴って生息数も増加していると考えられるが、定住する個体が生息しているかどうかは不明である。
-
2010年代後半には全体としての生息状況に減少傾向は見られず、改善している可能性もあると考えられた。
4.課題
-
上島の中南部(峰町・豊玉町)ではメスが確認できず、密度も2010年代前半から低い状態が続いていることから、この周辺では生息状況が悪化している可能性があり、さらに悪化すれば上島の生息地が分断される恐れがある。
-
下島での生息確認地域は連続しておらず、継続して情報が得られない地域もあるため、このような地域では消失の恐れがある。
-
下島にいる個体は繁殖により増加した可能性よりも上島からの分布拡大の可能性の方が高いと考えられるが、さらに南の地域区分に分布を拡大するためには橋がかかった瀬戸を超えねばならないため、ここでの移動が困難な場合は分布を拡大できない恐れがある。
-
本調査で実施した痕跡調査において確認されたシカとイノシシの痕跡は第四次調査時よりも増加していた。生息阻害要因と考えられるイヌ、イエネコ、シカ、イノシシは多くの地域で確認されており、引き続きこれらの生息阻害要因については対策を継続する必要がある。
5.今後の方針
今回の結果からこれまでの減少傾向が止まったと判断された。ツシマヤマネコの種の存続については、生息適地の減少や交通事故等の要因があると認識されている。減少が下げ止まった明確な要因を明らかにすることは困難であるが、これらの減少要因対策を継続的に進めてきた効果が現れてきていると考えられる。
一方で、上島においては、分布の拡大がみられたものの、生息密度が低下した地域があり、それらの地域では生息環境の悪化が懸念される。
したがって、環境省では関係機関等と連携して、各種モニタリング、調査研究、生息状況の把握及び減少要因の分析を行い、必要な対策を引き続き実施することとしている。
添付図表一覧
図1 地域区分図
図2 2010年代後半の生息分布図
図3 各年代別生息分布図
図4 2010年代後半の密度分布図
図5 第三次調査以降の密度分布の推移
図6 地域区分別の密度指標の増減
図7 保護マップ基礎図
表1 これまでの調査一覧
表2 推定生息数の推移 ( )内は95%信頼区間を用いた推定幅
表3 生息状況の総合評価
添付資料
- ■ 問い合わせ先
- 環境省
・九州地方環境事務所野生生物課
課長 鑪 雅哉
・対馬自然保護官事務所
(対馬野生生物保護センター)
上席自然保護官 山本 以智人
TEL:0920-84-5577
・厳原事務室
自然保護官 永野 雄大